コクヨデザインアワード2018 キービジュアルデザインプロジェクト

コクヨデザインアワード2018
キービジュアルデザインプロジェクト

6月22日よりコクヨデザインアワード2018の応募期間がはじまり、斬新なキービジュアルへの関心も高まっているようです。今年のキービジュアルデザインは、審査員でもあるPARTY NYの川村真司さんをクリエイティブ・ディレクターとして、日頃PARTYのプロジェクトによく参画されているS2 Factoryの根岸浩平さんをアートディレクターとしてお迎えし、さらに2名のコクヨ社員が参加したチームで制作しました。今年のテーマ「BEYOND BOUNDARIES」に合わせた、シャープで力強いデザインが生まれた背景や今年のアワードに込めた思いについて聞きました。

左から、田谷佳織(コクヨ ステーショナリー事業本部)、根岸浩平さん(S2 Factory)、川村真司さん(PARTY NY代表)、黒尾智也(コクヨ ファニチャー事業本部)。所属や立場を越えたフラットなチームで協働した

そもそも、「境界」とは何だろう。

――  テーマ「BEYOND BOUNDARIES」について教えてください。

川村:まず、アワードの審査員が集まって今年のテーマを決める会議があって、満場一致で「BEYOND BOUNDARIES」に決まったんです。世界中がつながり、それゆえに起こるさまざまな「差」の問題、「境界線」が浮き彫りになってくる。人種、ジェンダー、宗教、あるいはもっと日常的な境界線として利き手や言語などの違い。そういったさまざまな境界線を皆で意識したり、それを乗り越えたら人々の暮らしはもっとよくなるのではないか。そんなメッセージを込めているんです。

川村真司さん(PARTY NY代表)

――  そうしたなかで今年のキービジュアルにはどういった役割が求められるのでしょう。

川村:今回、僕が担当することで、スピード感があってパッと目に飛び込んでくるようなもの、どの国の人が見てもわかるグローバルなビジュアルコミュニケーションが求められているのかな、と思いました。

――  多岐にわたるお仕事のなかで、ご自身としてはこのプロジェクトをどのようにとらえましたか。

川村:今回はアワードのテーマをベースとしたプロモーション、ビジュアルコミュニケーションを考えるという依頼だったので、ブランディングに携わるような気持ちで臨んだプロジェクトでした。同時に、ロゴやポスター、フライヤーだけで終わるのではなく、今後もトロフィーや賞状まで展開するため、使い勝手のよいビジュアルをつくるというプロジェクトでもあります。そこで、僕が信頼しているアートディレクターの根岸さん、コクヨ社員のふたりというメンバーでやり取りをはじめたんです。

根岸:僕はこのチームの組み方に興味を持ちました。今回はじめて仕事をするコクヨのメンバーであったり、大阪と東京という物理的な距離も含め、まさに「BEYOND BOUNDARIES」だなと。このテーマについて、まず自分たちが考えて取り組むということにおもしろみを感じましたね。

――  プロジェクトがスタートし、何からはじめたのでしょう。

川村:「BEYOND BOUNDARIES」の解釈の仕方が色々あるので、まずは皆で「境界」を感じるような言葉やイメージを集めたり、絵を描いたり、それらを粗選りしながら、とにかくブワーッとブレストしていきました。

根岸:そもそも「境界って何でしょう」ということですよね。そして、境界をどう越えるのか、越えるために何を使うのか、越えた後にどうなるのか。大きな方向性を皆がそれぞれ持ち寄りました。例えば、境界というのは実は目に見えないものだったりするから、それを表現するひとつのモチーフとして「パントマイム」はどうだろう、とか。

根岸浩平さん(S2 Factory)

黒尾:境界は越えるのか壊すのか、といった言葉のとらえ方についても深く議論しました。「BEYOND BOUNDARIES」とは、A地点からB地点に行くだけではなく、AとBが混ざり合ったり、そのコラボレーションで新しいものが生まれていく可能性があるのではないかと。

田谷:応募する人の気持ちになりつつ、主催者側としても「テーマをどう伝えたらよいか」ということを考えました。

川村:一番議論したのは、境界という概念を境界線として描くのか、描かないのか、ということでした。つまり、境界線自体がアイデアになっている案なのか、というところですね。例えば、境界を象徴する立ち入り禁止テープをグラフィックにしてみる。黒尾さんが本当にテープをつくって検証してくれました。でもこの案だと、本当は「それを乗り越えてほしい」ところまでは表現しにくいことがわかった。

――  話し合っていくなかで、方向性が徐々に定まっていった感じでしょうか。

川村:そうですね、毎回、広げつつ絞りつつ、ゴールに向かっていきました。袋小路に入り込むことはなかったかな。全部で4回集中的にミーティングして、3回目くらいに方向性を絞り、最後に巨大な壁を人間が乗り越えようとしているビジュアルに決まりました。

多数のスケッチやラフ案が、議論の密度の濃さを物語っている

頑張って境界を乗り越えてほしい、という思い

――  この人物がとてもよい効果を生み出しています。

川村:境界を抽象的に描くだけでは、それが境界なのか、色面構成なのかわかりにくい。よく見ると、小さな人が巨大な壁に挑んでいる感じになるとスケールのギャップが面白い構成を生み出すと思いました。この、「よく見ると」というサイズ感が大切で。人物が大きすぎるとおもしろくないんですね。

黒尾:初期には、青と赤のインクが「混じっちゃった」とか、ミニカーが境界を「通れちゃった」というアイデアもありましたが、イージーに越えちゃうのではなく、ものすごい熱量で頑張って越えてほしい、という思いがあって。人物のポーズも、軽やかなものや壁に立っている案などもあったけれど、最終的には必死でよじ登っている感じを出したいということになりました。

黒尾智也(コクヨ ファニチャー事業本部)

根岸:実際にスタジオに壁をつくってモデルさんに登ってもらい、写真家の磯部昭子さんが撮影しました。磯部さんの過去の作品を拝見した上で、ビビッドな色面と人間の動きをうまくとらえてくれるだろうなと思ったので。

スタジオに壁をつくり、モデルに本気でよじ登ってもらった

――  青と赤の色面構成がシャープで、強い印象を残します。

根岸:皆でたくさんのカラーバリエーションを検討するなかで決めました。なんとなく空をイメージする青と、反対色の赤。磁石のN極S極のように力強く対峙するイメージは、皆のなかでもしっくりきた。青と赤のバランスも、当初は湾曲していたり、三層だったり。とにかくたくさん試していくなかで、自然とこの構成になっていきました。

田谷:色面も色を塗ったわけではなくて、紙でつくったものを撮影したんです。

田谷佳織(コクヨ ステーショナリー事業本部)

根岸:パソコンのなかでつくるものとは全く違う質感がほしかった。色面に陰影のグラデーションがかかっているのは、磯部さんと話しながら、それがどういう空間で、空と壁との関係性や、どこに太陽(ライティング)がある、ということを設計してもらったんです。抽象的な色面とも、リアルな壁ともとらえられる不思議なバランスを目指しました。

――  タイポグラフィも太く、力強いですね。

根岸:少しパンチのあるビジュアルにしたいと話していたので。最初はスラブセリフ系のフォントを試したのですが、そこからどんどん削ぎ落としていきました。シンプルでありながらクセもほしい。あと「BEYOND BOUNDARIES」という言葉が長いのと、壁の高さを感じさせるような文字にしたいということで、最終的には長体のかかった「DIN」フォントを採用しました。

――  手応えを教えてください。

川村:ポスターを身近に置いていると、誰もが「なにこれ!」と立ち止まっていくんです。目を引くものにはなっていると思う。あとは、応募数が増えてくれるといいなと祈るばかりです。

根岸:あがってきた時に「なんかいいよね」という感触はありましたし、どこにあっても気になるグラフィックになっていると思います。

黒尾:極端な話、「これは本当にコクヨなのか」というくらいのインパクトがあると思います。後輩たちも「すごく好きです」と言ってくれます。

田谷:「壁を見つけ、それを越えていく」というテーマが見た人に伝わっているような感触を得ているので、とても満足しています。

(左)A3見開きパンフレット、(右)A2サイズのポスター。展開する印刷物やバナーによって、色面のバランスや人物の配置を入念に調整した

自分なりの境界を見つけ、鮮やかに越えてほしい

――  川村さんは2年目の審査員となります。今年のアワードに期待することを教えてください。

川村:今回、キービジュアルをつくる作業をしながら、「BEYOND BOUNDARIES」というテーマが時代に合っていると実感しました。応募者が何を境界と思うのか。そういう視点やアウトプットが色々と見られると思うとわくわくします。
また、海外からの応募がもっと増えるとうれしいですね。「BEYOND BOUNDARIES」ですから、国境を越えて、世界中からバラエティ豊かな作品が集まるとアワードとしても盛りあがるのではないでしょうか。

――  最後に、これから応募する方へのアドバイスをお願いします。

川村:まず、一番大切な審査基準として、テーマを守りましょう! 内容がいくら良くても、テーマと関係なければ審査することができません。「BEYOND BOUNDARIES」は、それなりに色々な要素を包容できる懐の広いテーマだと思いますし、応募する際の道筋として、「どんな境界をどのように越える」などと、テーマに則してロジカルに説明されているほうが、審査員の気持ちをつかむのではないかと思います。
あとは、自分なりの境界を見つけて鮮やかに越えていってください。境界の見つけ方から工夫されていると、ほかとかぶらない独自の提案にできるかもしれません。アイデア出しの段階から、一歩引いておもしろい視点を見つけてもらえたらいいなと思います。

――  ありがとうございました。