商品化された作品

すっきりとした単語帳

〈2015 グランプリ〉

リング部分がカードをまとめるバンドとしても機能し、ブロックのようにすっきりと重ねられます。
使うときも、片付けたときも美しく暮らしに馴染む、新しい単語帳の提案です。

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作品紹介ムービー:
https://youtu.be/w4XFHLcE928(YouTube)

作品から商品へ

コクヨデザインアワード2015で、応募総数1,659点のなかからグランプリに選ばれた「すっきりとした単語帳」。「美しい暮らし」というテーマに対し、日々気になったことをメモしながらアイデアをためていく学びのかたちにフォーカスした作品です。作者の「あら部」(伊藤実里さん/高橋杏子さん/室屋華緒さん/山中 港さん)は、デジタルでは置き換えることのできない手書きのメリットや、手に触れたときの心地よさを追求。紙や留め具のディテールまでこだわったというモデルの完成度も高く評価されました。

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最終審査会でプレゼンする「あら部」のメンバー(2015年)

受賞から半年ほどして商品化がスタート。しかし、品質やコスト、製造方法などの面で解決しなければならない課題が大きく3つありました。
1つめは、表紙の素材(原紙)についてです。表紙と中紙が同一であることから生まれる「ブロックのような、すっきりとした美しさ」は作品の大切なポイント。しかし、作者がつくったモデルの表紙は、中紙と同じ紙を12枚も貼り合わせたものでコストや品質が心配されました。貼り合わせる枚数を減らすため、色や風合いが似ている厚紙や、パルプと樹脂を混ぜた素材なども検討しましたが、最終的には「同一の紙を使おう」と結論。作者も開発メンバーも懸命に探しまわり、厚さのバリエーションが豊富な紙と出会うことができました。こうして厚口の紙を5枚貼り合わせて表紙をつくり、ブロックのような一体感を実現したのです。

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作者がつくったモデルを元に、コクヨの開発メンバーが紙種や留め具を検討するためのプロトタイプを数多く制作

2つめの課題は、紙の加工方法です。「すっきりとした単語帳」の特長のひとつは、R(アール)状の切れ込みによって、紙の部分とゴムの留め具が一体化すること。しかし表紙が厚いため、切れ込みの抜き加工が難しく、側面にギザギザの痕が残ってしまうのです。これはゴム紐がひっかかる要因になると同時に、作者がこだわっていた「心地よい触感や使い勝手」とは離れてしまいます。そこで何度も試作を重ねた結果、一度に刃で抜くのではなく、まず2枚ずつ抜き加工した紙を職人が丁寧に手で貼り合わせることで、なめらかなRの形状を実現できました。

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(左)機械でブロック全体をひとつひとつ裁断。(右)職人が手作業で切り込みを入れた表紙部分の紙を貼り合わせる。

作者の4人とコクヨのやり取りは、数ヶ月ごとに実際の試作を見て対話しながら進んでいきました。4人は、「課題に対して色々試してくれていることはわかったが、技術的にどう解決しているかまでは知りませんでした。あとから実際に職人の方が手作業で紙を貼り合わせている写真を見せてもらって本当に驚きました」と振り返ります。

そして3つめの課題にして最大の難関は、留め具の成形です。当初、作者がつくったモデルの留め具は、金属パーツにゴム紐を取り付けたものでした。「紙と留め具の一体感を出すため、本当なら輪ゴム1本で留めたい。できるだけパーツの存在感がない方がいい」という作者の要望に応えるため、まず留め具全体をシリコンで一体成形してみましたが、強度の問題で断念。そこで、コクヨ テクニカルセンターによるサポートの元、ゴム紐を金型に入れて樹脂で固めるインサート成形を採用することになりました。

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(左)シリコン、金具、樹脂といったさまざまの素材の留め具を検証。(右)工場の職人とコクヨ開発メンバー

ゴム紐については、取り付け・外しを繰り返すうちにポリエステル繊維の内側で芯のゴムが抜けてしまうことがわかり、細い3本のゴムを、太い1本のゴムに変更。また成形時に樹脂を流し込む際、ゴムと金型との隙間から樹脂がはみ出さないように金型形状を工夫するなど、経験豊かなエンジニアのノウハウと工夫の積み重ねによって、抜けにくく、強度も保たれる留め具ができあがりました。

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商品化された「すっきりとした単語帳」を手にして喜びを語る「あら部」の4人(左から、高橋杏子さん、伊藤実里さん、室屋華緒さん、山中 港さん)

こうして、いくつもの技術的な課題を乗り越え、開発から約1年半の時を経てようやく完成した「すっきりとした単語帳」。作者の4人は、「コクヨの開発メンバーがとても親身になって、私たちの理想をかたちにしてくれたことに感動しました。お客様のことを考えた商品開発や品質試験の厳しさなど、つくる過程に参加してはじめて学んだことも多かった。大切なアイデアをためながらずっと使ってもらえるような1冊になれば嬉しいです」と語ります。受賞者と開発メンバーの二人三脚による渾身の力作です。ぜひ手にとって、その成果を確かめてみてください。