KOKUYO DESIGN AWARD 2022

KOKUYO DESIGN AWARD2021

2022テーマ:「UNLEARNING」
1,031点(国内555点、海外476点)の作品の中から一次審査を通過した10点を対象とし、
2022年3月12日に最終審査を開催。
グランプリ1点と優秀賞3点が決定しました。

グランプリ

Flow of Thoughts

Emilie & Joseph(Emilie-Marie Gioanni、Joseph Chataigner)
作品名
Flow of Thoughts
作者
Emilie & Joseph(Emilie-Marie Gioanni、Joseph Chataigner)

作者コメント

「Flow of Thoughts」は思考を整理するための日記であり、マキシマリストな世界のためのミニマリストな手帳です。日々、必要ない言葉は落書きとして吐き出し、重要なものを書き留めます。
頭の中でざわめく声を鎮め、意味のある記憶を形づくりながら心の負担を減らすこと。考えを厳選することで思考のミニマリストになることが大切です。
「Flow of Thoughts」は自分磨きのツールです。
思考を大切にし、文を綴りましょう。

Emilie & Joseph(Emilie-Marie Gioanni、Joseph Chataigner)
審査員講評

白いノートをあらかじめ落書きのような線で埋めて、一部分にしか書けないというデザイン上の制約を設けることで、新しい発想を促す作品。思考の整理方法は人それぞれなので、この制約の有用性を検証する必要はあるが、着眼点はすばらしい。「普通に自由に書けるほうが発想の飛躍には効果的なのでは」と最終審議ではこれをグランプリにするかどうか意見が割れたが、自由帳ではなく日記ということで個人的には納得した。

川村 真司

最終審査では審査員が議論を重ねながら作品の価値を見いだしていったが、特にこの作品は問題作であった。フランスで活動している経験から、自己の存在や知性、思考を相手にぶつけることで未来を拓いていく逞しさがデザインに必要だと感じた。この作品は、使い方が明確に限定されていて、デザインとは何かを問いかけてくる。デジタル化が進む中、文字を書くという行動や精神性、その洞察からか、眺めているうちに段々と使い方が創造的になっていく不思議な魅力を感じた。

田根 剛

『UNLEARNING』というテーマを独自の視点で読み取ったグランプリにふさわしい作品。当初からコンセプトが揺るがず、さらに改善を試みたことも評価したい。一次審査では白いライン以外は真っ黒のページだったが、最終審査ではそこが落書きというノイズに代わった。ノイズの上にネガティブな文章も書き込むことができるので、書いても見えず、忘れたい文字も日記として書くことができるという提案によって使い手のイメージが広がった。コンセプチュアルでありながら使うシーンも想像できる非の打ち所がない作品だ。

柳原 照弘

最初はコンセプトのグラフィックとしての定着が、制約として強すぎるのではないか?と感じたが、審議する中で僕自身がUNLEARNINGされて最終的に票を入れた。デザインを通して新しい価値観やルールを提唱する時、主観を排し、徹底的に客観的理由から造形化する方法もあるが、この作品はぐるぐると描きなぐった落書きの線や白のラインに、作者の世界観が表れている。それが作品としていい意味での強さをもたらし、強く興味を惹かれる作品であった。

吉泉 聡

商品化を担う立場からすると、受賞作は実験的であると同時に実現性についても考える必要がある。この作品は、ふたつのバランスがとてもよかった。商品化については難しい点があるかもしれないが、そこはコクヨの知恵を絞っていきたい。昨年に続いて海外の応募者がグランプリを受賞し、コクヨとしてもこのアワードを通して海外のお客様と繋がる機会になればうれしい。

黒田 英邦

優秀賞

トキヲクム
mrk(武市 美穂、上田 和実、小林 諒)

作品名

トキヲクム

作者

mrk(武市 美穂、上田 和実、小林 諒)

作者コメント

色々な形と香りのお香ブロックを組み合わせ、これから過ごす1時間をデザインするお香時計です。慌ただしく過ぎゆく日常の中で自分のリズムを取り戻してほしいという思いから生まれました。移ろいゆく香りは、嗅覚を通して時間経過を優しく感じさせ、同時に気分をも変えていきます。絵や文章をかく時間、読書の時間、マインドフルネスやヨガ、アウトドアでのひと時など、自分らしい時間を過ごす時に使って欲しいと思います。

審査員講評

なにより見た目がかわいく、時の流れとともに香りが移り変わるという体験も想像しやすく、「実際に使ってみたい」と思わせてくれた作品。商品化のハードルはありそうだが、モノとしての魅力、アイデアのジャンプ、デザインとしてのクラフトの高さを評価した。

川村 真司

過去にも香りの提案はあったが、文房具と香りの相性について常々疑問があり評価をすることができなかった。この作品は、音楽を聴く感覚に近い。アルバムのトラックに身を委ねるように、時間とともに変化する香りに委ねるという、そこにデザインの意味を感じた。技術的な検証によってさらなるブラッシュアップを期待したい。

田根剛

その時の感情を香りに転換させるというアイデアの新しさもさることながら、コンセプトに合った色や形の検証を重ねた点もよかった。一方でこれらのよい部分が、実際のお香として落とし込まれる時にはネックになる心配もある。引き続きのブラッシュアップを楽しみにしたい。

柳原 照弘

時間は共通認識を生み出すとても大きな概念のため、時間について取り組む企画が多かったように思う。その中でも、この作品は時間と香りという要素が無理なく結びついていた。ただ『UNLEARNING』というテーマに対してどれだけ有用性があるのかが、モデルからはやや未知数な部分が残った。

吉泉 聡

描画で広がる質感の世界
21B STUDIO(時岡 翔太郎、コエダ 小林、有村 大治郎)

作品名

描画で広がる質感の世界

作者

21B STUDIO(時岡 翔太郎、コエダ 小林、有村 大治郎)

作者コメント

さまざまな質感を描くことができる画材セットの提案。性質が異なる同色の画材で描画することで、素材感やマチエールといった、普段は意識していなかった「質感の世界」を広げてくれるプロダクトです。
色使いが得意な画家がいるように、質感を使うことが得意な画家が出てくるかもしれない。色に違いがあるように、質感の違いを遊ぶ子供がいるかもしれない。モノを色で選ぶように、質感により注目して選ぶようになるかもしれない。
多色な画材で絵を描くことが当たり前ですが、このプロダクトをきっかけに、多質な画材で絵を描くことも当たり前になる未来が訪れたら幸いです。

審査員講評

色を単色にすることで逆にテクスチャーの違いにフォーカスさせ、実は描く色には質感があるという発見を促してくれるすばらしいアイデア。惜しくも優秀賞に留まったのは、ワークショップで描いた絵から使った際の魅力が伝わりきらなかったこと。マチエールが混ざることでおもしろい結果が見えていたら、より評価は高かったかもしれない。

川村 真司

アイデアとプレゼンテーションがすばらしく楽しみな才能。一方で、作者がどの段階で何を考えてきたかという思考の階層性が見えづらかった。そのためか、作品に自由度を与えながら投げ出しているのか、使い手に可能性を委ねているのかが際どく、審議では物議を醸した。デザインはアイデアだけではなく、モノづくりを信頼し、作り方から使い方までを考え抜いてほしい。これからに期待したい。

田根剛

色に焦点を当てる作品はこれまでにもあったが、色に制限を加えることで見えてくる新たな視点や気づきを与えるというコンセプトが新鮮だった。ひとつの色に制限することで質感という、色の道具ではなく、色と質感をもった素材であるという、見落としていた価値を浮かび上がらせるという点も『UNLEARNING』に合っていると思った。

柳原 照弘

テーマに対して力強く、鮮やかに応えていた。プロダクトが見方や考え方を規定してしまっていることは意外とあり、色彩もそのひとつだ。当たり前だと思っていた認識をゆさぶってくれる一方で、提供するUNLEARNINGの度合いが強いため、既存の認識をもつ使い手とどう出会えるのか?そして受け入れてもらえるのか?その機会の作り方ついて考える必要がありそう。

吉泉 聡

果実の楽器
21B STUDIO(時岡 翔太郎、コエダ 小林、有村 大治郎)

作品名

果実の楽器

作者

21B STUDIO(時岡 翔太郎、コエダ 小林、有村 大治郎)

作者コメント

種や房といった、果実の構造を模したシェイカー。振ったり転がしたりすることで、果実ごとに個性ある音を奏でます。
形から音を、音から中身を想像する体験によって、「目で聴く」「耳で視る」といった知覚の相互作用を促し、五感の学びほぐしを行うプロダクトです。
楽器で五感を楽しむ体験が、想像することの豊かさに繋がるよう期待します。

審査員講評

スマートなアイデアで、形もきれいなので手に取ってみたくなるし、実際に音を出してみても楽しい作品。『UNLEARNIG』というテーマにどれだけ沿っているかが見えれば、より評価も高かっただろう。素敵なプロダクトになる可能性があるので、素材やディテールに気をつけて商品化を目指してほしい。

川村 真司

コンセプトを作る過程でさまざまな視点で議論できるのはユニットの利点だと思う。果物の種子を鳴らすという視覚以外の情報を与えることで、想像力が生まれるというアイディアはすばらしいが、議論の過程で同調するだけでなく、さまざまな人々が使用する状況をもう少し深く追求することができれば、さらによいモノが生まれたかもしれない。

柳原 照弘

コンセプトやストーリーがおもしろく、ビジュアルもよく、プレゼンもすごく上手。ただモノとして見たときに素材がプラスチックなのが少し気になった。人間は全体で「これは何」と認識するので、プラスチックの感触がコンセプトと響き合っていないようにも感じた。形にすることで、言葉で説明できない部分がむしろ際立ってくるような、今後のさらなるブラッシュアップに期待。

吉泉 聡

コクヨには知育や教育に関する事業もあるので、そうした領域にもぴったりはまる作品。中身の種子を木で作るという改善点もポイントが高い。ただ、例えば大人と子どもが知的好奇心を刺激しながらコミュニケーションするといった使用シーンの提案があるとさらによかった。

黒田 英邦

審査員総評
(※審査員の肩書は審査当時のものを掲載しております)

川村真司
川村真司

川村真司

Whatever/チーフクリエイティブオフィサー

『UNLEARNING』というテーマはさまざまに解釈できるため難しかったと思うが、国内外からバラエティ豊かな作品が集まった。審査を進めながら「何を基本に選ぶべきか」という軸を審査員全員で作っていったところがあり、その対話が僕らにとっても学びになった。最終審査では、例年以上にプロトタイプとプレゼンが重視されたように思う。テーマに対して回答となる部分をしっかり精錬させた作品が受賞した。

田根 剛
田根 剛

田根 剛

Atelier Tsuyoshi Tane Architects 代表/建築家

テーマ『UNLEARNING』のねらいは、閉塞感のある社会やこれまでの生産システム、近代的な思考に基づく常識や前提条件について考え直してみること。その結果、多様な作品が集まり、審査員自身もものの見方や審査の仕方を見直す機会になったと思う。最終審査では、審査員でも議論が大きく分かれ現在進行で各作品の価値を見いだしていき、個人的にもその過程を推し進めながら審査する結果となった。

柳原 照弘
柳原 照弘

柳原 照弘

デザイナー

今年はキービジュアルを担当し、自らも『UNLEARNING』について深く考えた。方向性のない、さまざまな捉え方のできる言葉であるがゆえに、昨年に比べると一次審査のシートだけでは応募者の意図が伝わりきらず、「実物を見たい」と思う作品が多かった。審査員も『UNLEARNING』という言葉を多用して意識的にテーマに立ち返りながら、普段とは違う思考や視点で審査しているのが印象的だった。

吉泉 聡
吉泉 聡

吉泉 聡

TAKT PROJECT 代表 / デザイナー

初めて審査に加わり、どの作品もレベルが高いという印象。『UNLEARNING』というテーマは自由度が高い分、どこに着眼するか、どういう風に世の中を見ているか…、という個人の起点が一層重要となり、顕在化した問題の解決とは違ったクリエイティビティに期待が集まった。審査員自身もUNLEARNINGされ、問題を解きほぐし合意形成しながら審査を進めていった。作者自身の視点を恐れずに打ち出し、UNLEARNINGへの強い信念がある作品が評価され、根源的なデザインの力を感じた。

黒田 英邦
黒田 英邦

黒田 英邦

コクヨ株式会社 代表取締役社長

『UNLEARNING』を通して今までの常識を一度手放そう、というお題は難しかったかもしれない。一次審査では応募者の苦労が見えたが、最終審査はよい意味で裏切られた。コクヨでも考え方を刷新する取り組みを増やしているところで、皆さんのチャレンジは自身にとっても大いに学びになった。海外からの応募が全体の半数にのぼるなど、グローバルなデザインアワードとして定着してきた点も喜ばしいことだ。

トロフィー&表彰状

トロフィーと表彰状も、テーマ『UNLEARNING』に即してその在り方を新たにデザインしました。リモート時代でも喜びを分かち合えるバーチャルなトロフィーと、トロフィーにアクセスする「カードキー」としての表彰状です。
トロフィーは、応募総数と同じ1,031個の要素を持ったトロフィーが1ヵ月に1つずつ完成し、1年間で12種類のトロフィーを楽しめます。全ての変化を見せた1年後には、NFTを付与した3Dデータが受賞者に贈られます。
表彰状は、ルーツである青銅器に立ち返り、紙ではなく銅板で仕上げました。表面には富山高岡銅器の着色技術を用い、1枚1枚風合いの異なる表彰状となっています。

左)バーチャルトロフィー 右)表彰状

最終審査/受賞作品発表/トークショー

レポートムービー

最終審査

10組のファイナリスト達は、今回のテーマ『UNLEARNING』に向き合い、熱い想いを込めたプレゼンテーションを行いました。
審査員はそれに真剣に向き合い、テーマの解釈、プロダクトデザインの完成度、商品化の可能性を視野に入れた慎重な審議を行いました。

受賞作品発表/トークショー

見事、コクヨデザインアワード2022のグランプリに輝いたのは『Flow of Thoughts』。
今年も新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、最終審査・審査員トークショーは無観客で行い、インターネットでライブ配信されました。 海外からの応募が半数近くを占め、デザインのコンペティションとしての質と、グローバルでの高い認知度を示しました。