受賞者インタビュー

荻下直樹 大石紘一郎
「すける はさみ」

2014年度 グランプリ

今できることを提案するだけでは
「NEXT QUALITY」ではない

コクヨデザインアワード2014で、見事グランプリを受賞した「すける はさみ」の作者、荻下直樹さんと大石紘一郎さんに、参加された経緯から受賞後の状況までをお話いただきました。

――  コクヨデザインアワードに応募したきっかけを教えてください。

荻下:大石君と私は同じ大学の出身で、今は別の会社でそれぞれプロダクト・デザインの仕事をしています。就職して数年が経ち、ある程度仕事にも慣れてきた頃、自然と一緒に何かいいものをつくりたいね、という話になりました。

大石:人の役に立つ道具を真剣に考えて、自分たちでつくってみよう、と。ちょうどコクヨデザインアワード2014の応募が始まり、「NEXT QUALITY」というテーマが自分たちの「真剣にいいものをつくりたい」という気持ちとぴったり合ったんです。



――  受賞作「すける はさみ」のアイディアが生まれた経緯を教えてください。

荻下:まずは徹底的にテーマの文章や審査員のメッセージを読み込み、どういったことを考えなければいけないのか、どんな作品を提案することが求められているのかを紐解いていきました。

大石:今回二つのアプローチを採りました。一つは、募集テーマを起点とした方法で、自分たちが考えられる限りのステーショナリーとファニチャーを書き出して、それぞれに対して何が「NEXT QUALITY」かを考えていきました。もう一つは、思いもよらない新しい発想を生み出すために、文字によるキャッチボールをひたすら行いました。片方が出したアイディアや言葉に対し、軽快に別の言葉を投げかける。直接会って話す時間以外にも常にアイディアをめぐらせていました。

荻下:ある時、「透明」という言葉が出て、それに対して「ペン」「テープ」「カッター」と思いつく文房具の名詞を投げかけていったんです。「透明」「はさみ」となったときに、自分たちの中でイメージが広がりました。



――  審査のプロセスでどんなことにこだわりましたか?

荻下:プレゼンのメッセージをシンプルにすることと、提案のクオリティを徹底的に高めることですね。一次審査で、審査員の方々が一枚のプレゼンテーションシートを見る時間が極めて限られていることはわかっていましたし、最終審査のプレゼンも持ち時間は5分です。伝えたいことはたくさんありましたが、本当に必要なことと余計なことを見極め、一番伝えたいポイントに絞り込みました。何度も練習したおかげで、実際のプレゼンは5分ぴったりでした。プレゼンにリズム感をつけて、聞いている方を退屈させないように、ムービーも用意しました。

大石:テーマが「NEXT QUALITY」だったこともありますが、提案内容の質を高めることにも最後の最後までこだわりました。デザインアワードなので、モノとしての美しさを追求するのはもちろんですが、はさみとしての機能がちゃんとしているものをつくりたかったんです。とにかくたくさんのはさみを買ってきて、研究しました。



荻下:一次審査の時点では、素材は透明のアクリルを想定していました。しかし、たくさんのはさみを試す中で、やはりプラスチックのはさみの切れ味には限界があることがわかってきました。そこで、透明で切れ味を良くできる素材を必死に探しました。出会ったのが「透明セラミックス」という比較的新しい素材です。

大石:まだ、量産の用途が確立されていない素材で、正直最終審査で提案するか迷いました。現実的に無理だよね?と言われてしまうかな、と。しかし一方で、テーマが「NEXT QUALITY」なので、今できることを提案するだけではダメだと思い、将来量産の可能性がある「透明セラミックス」を思い切って提案することにしました。




――  結果的に、具体的な素材を提案したことも含め、高い評価を受けました。グランプリが決定した瞬間はどんなお気持ちでしたか?

大石:うれしかったです。正直なところ、自信はありました。「やりきった」感覚があったからです。コクヨデザインアワードのように二次審査(最終審査)まであって、模型まで制作してプレゼンをする機会はなかなかありません。やればやるほど、やりきった感覚を持てるコンペだと感じました。



――  コクヨデザインアワードでの受賞を経て、何か変化はありましたか?

荻下:二人で「oog」というユニットを結成して活動を始めました。実は、最終審査の待ち時間、緊張をやわらげるために他のことを考えようと、ユニット名やロゴを考えていました!「oog」とは二人の名前の頭文字に由来しますが、オランダ語で「眼」という意味があります。きちんと観察していいものをつくりたい、という自分たちの考え方とも合っていて、受賞後の懇親会の場で、正式に二人で活動していくことを決めました。



大石:コクヨデザインアワードでの経験が、モチベーションやある種の覚悟につながりました。ユニットで活動していくことについては、相性が重要だと思っています。一つのキーワードが出たときに、言葉を多く交わさなくても同じ絵が浮かぶような・・。その上で、アイディアが広がる、分業ができる、あるいは片方が煮詰まったり、妥協しかけたときに、片方が発破を掛けることによりクオリティの担保にもつながる、とも感じています。




――  今後の活動について教えてください。

荻下:アイディアを一つひとつ丁寧にかたちにしていきたいです。「人の役に立つ、良い道具をつくりたい」という純粋な志のもとに、oogとしての活動に取り組んでいきます。


oog HP: http://www.d-oog.com