KOKUYO DESIGN AWARD 2015

2015テーマ:「美しい暮らし」
世界41カ国から集まった1,659点(国内:1,232点、海外:427点)の作品の中から
一次審査を通過した10点を対象とし、11月17日に最終審査を開催。
グランプリ1点と優秀賞3点が決定しました。

グランプリ

グランプリ
作品名 すっきりとした単語帳
作者  あら部
    (伊藤 実里/高橋 杏子/室屋 華緒/山中 港)


作者コメント

リング部分がカードをまとめるバンドとしても機能し、ブロックのようにすっきりと重ねられる単語帳です。一体に同一色を用いることで、断面から用途を判断したり、色に意味をもたせて使うことができます。従来の使い方を越えて、日常の気づきやアイディアをパッと書き留める等、小型のノートとしても活用できます。使うときも、片付けたときも美しく暮らしに馴染み、あらゆる世代がつい持ち運びたくなる、新しい単語帳の提案です。

あら部
審査員講評

単語帳は、混沌とした頭の中から今必要なアイディアをキャッチするためのツールにもなり得る。単語を覚えることに限らず、暮らしのさまざまな場面で使いこなすアクティブな提案が面白い。その狙いと相反するとも言える、整然とした作品のネーミングやその佇まいは現代の価値観にも合いそう。

鈴木 康広

最終審査のプレゼンテーションが緻密で無駄がなく、美しい映像やプロトタイプには説得力があった。単語帳というプロダクトカテゴリは、スマートフォンの浸透によって市場から消える運命にあったかもしれない。その運命がこの作品によって変わるかもしれない。ぜひ商品化に向かってすぐにでもスタートを切ってほしい。

田川 欣哉

道具がライフスタイルを変える、ということを実感できた作品。この単語帳で実現される、自分の成果が美しく整理された状態で視覚化される達成感、喜びは、スマートフォンでは得られない感覚ではないか。

植原 亮輔

ほんのちょっとした気づきから、素晴らしいものが生まれる好例。持ち運びの際に単語帳のリングが邪魔になる、という切り口から、ここまで完成度の高いアイディアへと発展させた発想力、そして紙を束ねる仕組みの完璧さに感心した。

渡邉 良重

単語を覚える用途に限定せずに、日々の献立を考えるシーンなど、あらゆる人が日常的にアイディアを出すシーンを想定した提案が印象的だった。「美しい暮らし」を、学び続ける楽しさを大切にする暮らしと捉え、美しい作品の佇まいとともに単語帳の可能性を広げた提案だ。

KOKUYO

優秀賞

優秀賞
上田 美緒 作品名
儚く、美しく

作者
上田 美緒

作者コメント

花は散るから美しい。
日本人には、季節の移ろいを日々感じ取る独特の感性があります。その感性を、より繊細な方法で、カレンダーと結びつけてみました。
このカレンダーの数字は、一本の長い糸で縫われています。下にのびている糸を引っ張っていくと、縫われていた糸がほどけ、数字が一つ一つ消えていきます。一日が終わるごとにこの糸を少しずつ引っ張ることで、儚く過ぎてゆく時に日々思いを寄せることができるカレンダーです。

審査員講評

誰もが実際に糸を引き抜いてみたい、という衝動に駆られる作品。機械による製造は難しいかもしれないが、「儚いことの美しさ」は手作業で制作してこそ感じられるものかもしれない。作品を通じて、人の手による技術を磨く大切さにまで、考えは及んだ。

鈴木 康広

守ってあげたくなるような「儚さ」と、日々に寄り添うカレンダーとしての機能性がシンクロした作品。プレゼンテーションシートではその「儚さ」が繊細な素材の扱いに現れていると思っていたが、試作は若干力強い印象としてまとまっていた。タイトルのとおり良い意味での弱さを追求できていれば、なお良かった。

田川 欣哉

コンセプトとデザインの整合性と、糸をほどくというカレンダーとしてのアイディアが秀逸。紙を束ねる部分の表現や数字部分に使っているフォントの選び方など、グラフィックデザインとしての精度を上げる余地はあるように感じる。

植原 亮輔

詩的なニュアンスがある作品としての完成度は突出していた。作り方が難しそうなので実現の可能性は未知数だが、シンプルなアイディアで「儚いことに美しさを見出す」日本人らしい気持ちを表す素敵なカレンダー。

渡邉 良重

手作業でよく作り込まれたプロトタイプ、実際に糸をほどく実演など、想像力を刺激されるプレゼンテーションだった。紙製品が糸で縫われ、それを一日一日ほどくいていく、という使い方は、独創的かつ感性的で面白い。

KOKUYO

優秀賞
久保 貴史作品名
エンボスノート


作者
久保 貴史

作者コメント

日々の中で小さなことに目を向け、感じ、考える
そういう日常のことを「美しい暮らし」と考えました

このノートは罫線をエンボス加工することで
移ろう光の中で自然を感じさせてくれます
無色の世界が創造性を育ませてくれます
最小限の素材で資源の価値を考えさせてくれるでしょう

私の考えるこの「エンボスノート」は
紙のみで作られた単純で美しいノートです
光と影だけで作られるノートです

審査員講評

全面真っ白な、非常にシンプルなノートでありながら、ノートとは全く違うものとして差し出されたような強さを感じる作品。書くのがもったいない、でも書いてみたい・・・。人とノートの新しい向き合い方を提供するかもしれない。

鈴木 康広

引き算の先に残るミニマルな美しさを表現した作品。試作には手づくり感が残っており、ミニマルゆえに到達しうる完璧性が不足していた。今後の商品化プロセスで、思わずはっとするようなディテールの緻密さと完璧さの追求を期待したい。

田川 欣哉

視点はとても良いと思う。作品名の「エンボス」とは加工方法のことなので、そのまま商品名にするのではなく、このノートが提供する新しい価値について、ユーザーの想像力を刺激するような名前を考えてみてほしい。

植原 亮輔

ノートとしては日本で最もメジャーな商品である「キャンパスノート」だからこそ、このエンボスノートには特に意味があると思う。「キャンパスノート」の高級ラインとして、通常の「キャンパスノート」に慣れ親しんでいる人たちの所有欲を刺激しそう。

渡邉 良重

エンボス加工を施した際のノートの膨らみを懸念したが、プロトタイプを見て払拭された。エンボスが生み出す質感は、思わず凹凸に沿って、あるいは凹凸の上を書いてみたいという欲求を起こし、利便性だけでないノートの新しい価値を提案する作品。

KOKUYO

優秀賞
塚田 圭作品名
Bubble Ruler


作者
塚田 圭

作者コメント

自然は美しい。有機的な形を持つ気泡もその1つであり、同じ曲面は1つとなく、個性があり、美しい。
その多くが人工的な直線という要素で構成される定規に、泡という有機的な要素を取り入れた。
アクリルに1cmごと間隔をあけて泡をいれてあり、その間隔と測りたいものを照らしあわせて定規として使うことが出来る。
使い手は日々の暮らしの中に自然の持つ美しさを手に入れる。

審査員講評

手の届くところに自然を再現する、というコンセプトとビジュアルの美しさが印象的。掘削した2枚の板を組み合わせて泡に見せる、という予想だにしなかった作り方も興味深い。

鈴木 康広

自然界に存在する泡を、生活の道具の中に封じ込めるという美しいコンセプト。試作の完成度も高かったが、製造方法や最適なサイズについては今後検討の余地がある。

田川 欣哉

一般的な定規が持つ、道具としての繊細な機能はあまり果たせそうにないにもかかわらず、モノとして机にぽんと置いておきたいと思わせる美しさがある。何かに追われていることが多い現代の生活の中で、ささやかな癒しを与える効果を感じる。

植原 亮輔

プレゼンテーションの模型が、想像していた一般的な定規のサイズよりも小さく、一見しただけでは定規だと思えない不思議な存在感がある。

渡邉 良重

直線定規の目盛りの代わりにファジーな泡がデザインされており、定規の機能は最低限しか担保されていない。そういったギャップを楽しめる人に使ってほしい作品。身の回りに置いておけるオブジェのようで、小さいながらビジュアルの美しさが印象的だ。

KOKUYO


審査員総評(※審査員の肩書は審査当時のものを掲載しております)

佐藤 可士和

SAMURAI代表/アートディレクター・クリエイティブディレクター


「美しい暮らし」のデザインを考えていくには、まず「美しい」とは何かを考えなければならない。「美しい」の定義は極めて個人的であり、また時代や時間とともに移ろいでいくものだ。規定をすることが極めて困難なこの概念を、より多くの人々と共有しようという強い思いこそが、良い作品を作る源なのではないだろうか。自分の考え感じている「美しい暮らし」はこうあるべきだ、またこうであってほしいと信じる思いがデザインという行為に昇華するのだ。受賞作品の多くからは、そんな作者の思いが強く伝わってくる。この澄んだ情熱から生まれた美しい作品の中から、実際に商品化されたプロダクトが誕生し、世の中の一人でも多くの人々の暮らしを美しくすることを、心から楽しみにしている。

鈴木 康広

アーティスト


「美しい暮らし」というテーマから具現化された受賞作品には、その時々の見方や工夫によって、目的すら変化しうる「余白」があることに気付きました。決められた用途にとどまらず、生活の中で使い手の記憶や感性が作動する、美の発生装置と言えるのではないでしょうか。茶の湯で使われる道具や設えは、ある機能を担いつつ、季節の兆しをはじめとする「他者」を招き入れ、「一期一会」を生み出す装置。そこで主客ともに求められるのは、特別なひとときを感受する心の持ち方ではないでしょうか。日々の暮らしの中で使い手の美意識によって生かされる文具や家具の在り方を深く考える機会になりました。

田川 欣哉

takram design engineering 代表/デザインエンジニア


「美しい暮らし」というテーマは、応募者にも審査員にも改めて自らの生活を振り返ることを要求した。「楽しい」や「かわいい」に比べて、「美しい」にはある種の哲学的な深さが求められる。作品のテーマの裏に込められた思想や、そこから描き出される生活のシーン、そして、それを体現するデザインと試作のクオリティ。これらがピタッと高いレベルで整合したものが、最優秀賞に選ばれたと思う。ぜひ、商品化を実現してもらいたい。優秀賞の作品についても、これからの製品化の検討プロセスの中でブラッシュアップを重ねることで、美しい暮らしに寄り添うプロダクトが完成するのではないかと楽しみにしている。

植原 亮輔

KIGI/アートディレクター・ クリエイティブディレクター


「美しい暮らし」をテーマに掲げたことは、スピード社会に疲れている現代人が「本当の意味での美しい暮らし」への憧れを今最も求めていることともいえる。そんな中、受賞作品はアナログな生活に引き戻されるような感覚をもったものが選ばれたが、それだけではなく、想像力を膨らませるようなユーザーへの配慮も計算されているようにもみえた。特に「すっきりとした単語帳」は、その両方の良さを十二分に引き出された秀作だと思う。コクヨデザインアワードは審査システムや力の入り方などにも非常に感心させられる審査会だった。それに単なるコンペティションではなく、社会貢献の場であることや、社内の士気を上げること、またデザインの底上げにも繋がる特別な意味合いをもった“コクヨだかこそできる”素晴らしい活動だと思った。グランプリ作品の商品化、また来年のアワードも今から楽しみである。

渡邉 良重

KIGI/アートディレクター・ デザイナー


今回の応募作品は「美しい暮らし」というテーマの解釈が大きく分けて2種類あったように思う。一つは生活のなかでわいてくる、ちょっとした疑問、ちょっとした気付きを丁寧に分析して、実現可能な優れた商品になる可能性を秘めたもの。もう一つは、商品にするには少しハードルが高いけれど、気持ちに響いてくる、ポエティックで美しい作品。今回の受賞作品もこの2方向のものが選ばれた。グランプリや優秀賞に選ばれたものはどれも、身近にあることを想像するとほっと嬉しくなる作品だった。商品化されたら是非使ってみたい。はじめてこの審査に参加させていただいて、改めてこのコクヨデザインアワードは多くの才能に光をあてる良い取り組みだと思った。そしてコクヨという会社の誠実で前向きな企業姿勢はさすがだと思った。

黒田 章裕

コクヨ株式会社 代表取締役会長


今回は、コクヨの事業ドメインであるお客様の「働く」「学ぶ」環境を広く捉え、「美しい暮らし」をテーマとして掲げました。人々のライフスタイルが変化し、生活のONとOFFの境界が明確でなくなる中、我々もお客様の暮らすことにもっと視点を合わせていきたいという意思を込めると共に、「美しい」という例年よりも感性的な価値観を設定させていただきました。結果、国内外41カ国より1,659点の作品をご応募いただき、限りなくディテールまで研ぎ澄まされた中にも、ストーリーがあり人々の暮らしを想起させる作品が受賞を果たしました。また、中国の方がファイナリストに残るなど、今後、よりグローバルな展開を志すきっかけをいただいた年にもなりました。これからも、コクヨデザインアワードは、今世の中に必要なテーマについて考え、議論し、多くの皆様にとって意義のある場所になれるよう、努力してまいります。本当にありがとうございました。

 

審査員コメントムービー(受賞作品発表後)

最終審査/受賞作品発表/トークショー

レポートムービー

最終審査

10組のファイナリストは直前まで準備に時間を費やし、熱い想いを込めたプレゼンテーションシートや模型を使って、プレゼンテーションを行います。
審査員はそれに真剣に向き合い、コンセプトメイキング、デザインの完成度、商品化の可能性を視野に入れた慎重な審議を行いました。

最終審査のようす

受賞作品発表

見事、2015年のグランプリに輝いたのは『すっきりとした単語帳』。
受賞者には、2015年のキービジュアルを担当していただいた、柿木原政広氏デザインのトロフィーが贈られました。
受賞作品の模型は会場に展示され、多くの来場者が熱心に見ていました。

受賞作品発表のようす

トークショー

テーマ「美しい暮らし」や、受賞作品の評価のポイントなどについて語っていただきました。
多方面でご活躍されている審査員ならではのトークに、会場は大いに盛り上がりました。

トークショーのようす