商品化された作品

RAE

〈2021グランプリ〉

2020年は多くの人が先の見えない状況に直面し、仕事の環境が新しくなったり、変化したりしました。
これは新たな仕事環境にも自然になじみ、ツール、空間、心を新たな状況でもきちんとひとところに落ち着かせることができるデスクトップオーガナイザー(トレー)の提案です。

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作品紹介ムービー:
https://youtu.be/on5wEVfSFjo(YouTube)

コクヨ直営店「THE CAMPUS SHOP」(東京・品川)、「THINK OF THINGS」(東京・原宿)、「KOKUYODOORS」(東京・羽田エアポートガーデン)、 「コクヨ公式ステーショナリーオンラインショップ」 にて販売。

2021年コクヨデザインアワードのグランプリ作品「RAE」は、フィンランド出身のMillaさんとノルウェー出身のErlendさんによる作品です。欧州からの応募作では初めてのグランプリに輝き、大きな注目を集めました。現在ふたりはフィンランドを拠点とし、Erlendさんは工業デザイナーとして活動し、Millaさんは自らの化粧品会社を運営しています。
そんな「Milla & Erlend」が2021年コクヨデザインアワードに応募したのは、それまで拠点としていた韓国からフィンランドに移った直後のことでした。「若手のデザインユニットとしていろいろな機会を探っている時期だったんです。以前からコクヨデザインアワードのことは知っていて、今回は『POST-NORMAL』というテーマに合う良いアイデアが見つかったので応募しました」とErlendさん。

(左)Erlend Storsul Opdahlさん、(右)Milla Eveliina Niskakoskiさん

(左)Erlend Storsul Opdahlさん、(右)Milla Eveliina Niskakoskiさん

2020年からのパンデミックにより、人々の暮らしや働き方が大きく変わるタイミングでもありました。状況の変化に応じて、持ち運びしやすく、簡単に使えて、その佇まいも美しい。ふたりが提案した折り紙のトレーは、審査員全員から高い評価を得ました。Millaさんは「審査員は私たちのコンセプトの本質を理解し、合意してくれました。そのことが本当にうれしかったです」と振り返ります。

最終審査会の様子。パンデミックにより来日できないため、オンラインでプレゼンテーションを行った

最終審査会の様子。パンデミックにより来日できないため、オンラインでプレゼンテーションを行った

新しい要素を加えたい

「RAE」がグランプリを受賞すると、コクヨ社内ではすぐに商品化に向けて動き出しました。商品化を担当したコクヨの藤木武史によると「Milla & Erlendによるプロトタイプの完成度がとても高かったので、このまま商品化することもできました。ところがふたりに相談して、もうひとつ新しい要素を加えることにしたのです」。

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(左)商品開発を担当したコクヨの藤木 (右)ノートを製造する際に出る紙の端材

その新しい要素とは、紙の素材です。コクヨでは「Campus」をはじめとするノートを製造する際に紙の端材(残紙)が大量に出るため、これを有効活用したいと考えていました。「これまではダンボールやトイレットペーパーなどにリサイクルしていましたが、もともとが上質な紙なので商品として提供できないかとずっと考えていたのです」と藤木。「RAE」にこのリサイクル紙を使ってはどうか。Milla & Erlendは「完璧な提案だと思いました」と口を揃えます。
応募時には、紙の折り方と同じように紙の素材についてもかなり時間をかけて模索した、というふたり。「厚みや硬さ、質感などあらゆる面から検討したので、紙がいかに繊細な素材であるかを理解していました」(Erlendさん)。「金属で試したこともありました。でも最終的に紙にこだわったのはそれ自体がサステナブルな材料だから。ですからリサイクル紙のアイデアをもらった時、作品のコンセプトをさらに発展させられると思いました」(Millaさん)。

このまま進めていいのか

ところが取り組んでみると、このリサイクル紙が難題でした。藤木は、「もともとが上質な紙とはいえ、リサイクル工程で紙の繊維が短くなります。それでトレーを作ろうとすると、強度や耐摩擦性の面でコクヨの厳しい品質基準をクリアするのが難しくなるのです」と説明します。
なんとか改良して基準に達したとしても、色や質感など、Milla & Erlendが追求したディテールの品質には届かない。例えば、芯まで染めた紙とは違ってリサイクル紙では断面が白くなってしまうなど、作者のオリジナルを100%再現できないことに、藤木は「このまま商品化を進めてもいいのか悩んだ」と言います。

制作過程のサンプル。数多くの試作を経て、さまざまな面から検証したという

制作過程のサンプル。数多くの試作を経て、さまざまな面から検証したという

そこでMilla & Erlendに相談すると、意外なことに「やるべきだ」という力強い言葉が返ってきました。「これは一度その生を全うした紙です。『RAE』を通して再び命を吹き込めたらすばらしい。私たちのデザインを大事にしてくれるのはうれしいけれど、その取り組みに優ることはありません」。さらにふたりは付け加えます。「全く同じではないからといって、クオリティが低いとは思わない。ただ“違う”だけで、それぞれ紙のストーリーがあるのです。断面が白くなるのも、デザインで克服できると思っています」。
藤木は「打ち合わせをするたびに、ふたりの視野の広さに驚かされた」と振り返ります。「自分のアイデアや表現にこだわるのではなく、常に社会を見ながらデザインの話をしてくれました。僕自身長く商品開発に携わっていますが、改めて、デザインとは単に形を整えることではない、と強く感じました」。拠点や言葉の違いはあっても、オンラインミーティングやメール、そして試作を送り合いながら、コミュニケーションはとてもスムーズに進んでいきました。

完成した「RAE」

完成した「RAE」

自分の直感を信じて

ここで藤木は、Milla & Erlendにも初めて見せるというパッケージデザインを披露しました。「RAE」とほぼ同じ質感の紙を使った封筒型のパッケージです。「当初はビニールで包装する予定でしたが、今回は紙にこだわった商品なので、梱包にもこだわりたいと、しっかりした紙を使うことにしました」と藤木。
それを見たErlendさんは「わくわくします」と思わず笑顔に。「パッケージに至るまで作品のコンセプトを大切にしてくれて本当にうれしい」。工業デザインに携わるなかでオリジナルのデザインやディテールを維持する難しさを日々痛感しているからこそ、意図どおりの商品が世に出るのは喜びもひとしおなのです。

今回は素材にこだわった商品のため、パッケージも紙にこだわった

今回は素材にこだわった商品のため、パッケージも紙にこだわった

Milla & Erlendのふたりに、コクヨデザインアワードの参加から商品化まで一連のプロセスについて振り返ってもらいました。「アワード自体はとてもよくオーガナイズされており、応募者として純粋にデザインに集中することができました。また審査や商品化を通じて、自分たちのデザインをブラッシュアップしていくプロセスがあるのも良かったです」。
最後に、これから応募を考えている人たちへのメッセージとして「自分の直感を信じてほしい」と話してくれました。「自分自身がベストだと思うデザインを信じ、それを伝えればいいのです。審査員やコクヨから何か言われることがあっても、それは決して批判や拒否ではありません。彼らは優れたアイデアを探していて、より良いデザインを世に出すことにこだわり、私たちデザイナーの背中を押してくれる存在なのですから」。
作品名の「RAE(ラエ)」は、フィンランド語で日本の“あられ”に似たお菓子を指します。深いところでお互いの価値観や感性に共感しあいながら進められた今回の商品化。デザイナーも開発担当者も全員が「幸せなプロジェクトだった」と語るその結晶を、ぜひ手にとって確かめてみてください。

コクヨデザインアワードでの受賞と商品化を経て、「自信をもって自分たちのデザインに取り組めるようになった」と話すMillaさんとErlendさん。終始リラックスした表情で語ってくれました。

コクヨデザインアワードでの受賞と商品化を経て、「自信をもって自分たちのデザインに取り組めるようになった」と話すMillaさんとErlendさん。終始リラックスした表情で語ってくれました。