受賞者インタビュー

Milla & Erlend(Milla Eveliina Niskakoski、Erlend Storsul Opdahl)
「RAE」

2021グランプリ

コクヨデザインアワード2021において、応募総数1,401件のなかからみごとグランプリを受賞したMilla & Erlend。2020年は多くの人が先の見えない状況に直面し、仕事の環境が新しくなったり、変化したりしました。これは新たな仕事環境にも自然になじみ、ツール、空間、心を新たな状況でもきちんとひとところに落ち着かせることができるデスクトップオーガナイザーの提案です。長くアジアで活躍し、現在はフィンランドを拠点にするおふたりに、応募から受賞までのプロセスや、受賞後の変化を聞きました。

フィンランド&ノルウェー出身のユニット

――  いつからふたりはユニットで活動しているのですか。

Milla:6年ほど前からです。私はフィンランド出身で、Erlendはノルウェー出身。私たちは韓国の大学院で出会ったんですよ。ふたりとも同じプロダクトデザインの学科にいたんです。

Erlend:僕のバックグラウンドはより工学的なデザイン。Millaはプロダクトデザインが専門です。

Milla & Erlend(右:Milla Eveliina Niskakoski 左:Erlend Storsul Opdahl)

Milla:デザインはふたりで一緒に考えますが、自然と役割分担ができるのです。私はどちらかというと手を動かすほう。材料を切ったり、折ったり、実務的な作業を担当しています。

Erlend:僕は、計算やテクニカルなが好きなので、理論担当です。ふたりで活動するメリットは、僕が計算で行き詰まった時でも、Millaはずっと手を動かしながら解決策を見つけていきます。逆にMillaが行き詰まった時には、僕が理論的に分析してアプローチすることで視点を変えることができるのです。

――  日本に来たことはありますか。

Milla & Erlend:何度も!

Milla:日本は行くたびにインスピレーションを受ける国です。いいデザインもたくさんあって、デザイナーとしては楽園のような場所です。

Erlend:日本には友人や仕事仲間もいるので、会いに行きます。日本は世界有数の、最高の食事がある国ですからね。今回、 最終審査会で日本に行くことを楽しみにしていたので、行くことができずに本当に残念です。

最終審査でRAEのプロトタイプを確認する審査員たち。美しい構造デザインに注目が集まった。

テーマのとらえ方と作品のコンセプト

――  コクヨデザインアワードに興味を持った理由と、応募したきっかけを教えてください。

Erlend:僕らは韓国を拠点にしていたので、以前からコクヨデザインアワードのことは知っていました。シンプルでスマート、ミニマルであることが評価される、非常にレベルの高いコンペだと思っています。僕らはミニマリストだと思っているので、ぜひこのアワードに応募して実力を試してみたかったんです。

Milla:実は、コクヨデザインアワードに応募したのは2回目です。コロナ禍で生活が変わり、考えたりものを作る時間がたくさんできました。レベルの高いコンペで勝つためには、時間をかけて真剣に取り組まなければいけない。今ならそれができると思いました。

――  「POST-NORMAL」というテーマをどのようにとらえましたか。

Erlend:当時の状況において、とても大切なことに踏み込むようなテーマだと思いました。パンデミックによってすべてが閉鎖され、社会は変わりました。多くの人々が元の状態に戻ることを期待していますが、戻るのではなく、これまでのNORMALの後にある、POST-NORMALに向かうのみなのです。僕らはデザイナーとして、新しい視点で当たり前のものごとを見つめ、新しい環境のなかでもきちんと機能するように考えなければならない場面が多くあります。

Milla:私たちにとっては、生活の変化も大きかったですね。それまで韓国を拠点にしましたが、フィンランドに戻ってきました。スカンディナヴィアの生活スタイルに戻るということは、個人的な意味でもPOST-NORMALといえます。

――  そこから作品「RAE」に行き着いた経緯は。

Erlend:これまでにもいろいろな材料を使って、何度か折りたたみ式の作品を作ったことがあり、RAEの基本となったアイデアは自然に生まれました。
今回は、オフィス環境を整えるデスクトップオーガナイザーを作りたいと思いました。テレワークのみならず、オフィスの移転や、自宅の引っ越しのシーンを想定しています。フラットにたためて、しっかりと安定して、見た目も魅力的な形で、簡単に折ることのできるものにしたいと思ったので、形も単に硬く直線的なものではなく、丸みを帯びたものがいいと考えました。
さらに、使う人が自分で作るというプロセスも大切です。みずから組み立てることで、ものに対する感情が生まれるのです。

最終審査の様子。

Milla:コロナ禍では運送料金が高騰しました。それを踏まえて、軽量化や容積を減らすことを考えました。多種多様な素材がありますが、紙は軽量で輸送も簡単、かつどこにでもある素材ということで紙を使うことにしました。私たちはデザイナーとして、美しいデザインを提案するだけでなく、素材や製造面も考慮する責任があると思うのです。環境負荷の少ないかたちで、持続的なプロダクトをデザインするよう常に心がけています。

――  ちなみにRAE(ラエ)のネーミングの由来は。

Milla:私の好きな、フィンランドのお菓子の名前なんです。作品の形が完成した時、このお菓子のやわらかい質感と楕円形が似ていると思いました。日本の友人に尋ねたら「あられ」というお菓子もあると聞いて、音の響きが似ているのもおもしろいと思って名付けました。

審査のようす、受賞の気持ち

――  1次審査ではどんな工夫をしましたか。

Erlend:プレゼンシートは1枚でシンプルに表現しなくてはなりません。インパクトのある大きな図のなかに、サイズ、形、機能が一目で分かるように工夫しました。どんな目的で使うのかを直感的に伝えるため、関連するアイテムや手を添えました。さらに、組み立て前と組み立て後の絵によって、これがたった1枚の紙でできていることも一目瞭然です。

Milla:応募数が1,400を超えるわけですから、いかに一瞬で目を引き、「もっと見たい」と思ってもらうか。まずは大きな絵で興味を持ってもらい、小さな図で詳しく説明する。1枚の絵がストーリーをすべて語るようなものを心がけました。

一次審査時のプレゼンテーションシート

――  最終審査に向けて苦労したことはありますか。

Milla:11次審査を通過して最終審査に残ったと聞き、そこからが大変でした。形のコンセプトはすでにできあがっていましたが、折り方のメカニズムはまだ完成していなかったのです。テープを使わずに組み立てられるように完璧な形にしないといけませんでした。当時、韓国から戻ってきたばかりで道具も何もなかったので、ひたすらハサミで紙を切って、リビングいっぱいに試作を広げてさまざまな折り方を検討していきました。

Erlend:テープや糊を一切使わずに折るメカニズムを考えつくまでが本当に大変で、あきらめかけたこともあったんです。ある時、こうすればできるとひらめいた瞬間があって、それで完成させることができました。

――  最終審査はオンラインで行われました。どんな印象でしたか。

Erlend:事前に撮影した動画によるプレゼンテーションだったので、僕らにとってはストレスもなく、言いたいことをすべて盛り込むことができました。審査員のコメントはどれも含蓄の深いものばかりで、提案の背景までよく見てくれている、と感じました。特に印象に残っているのは、「1次審査ではそれほどいいとは思わなかったが、実際に組み立ててみたらデザインのすごさがよく分かった」という講評です。最初の印象から覆されたことを、率直に言ってもらえたことが嬉しかったですね。

コロナ禍の影響で最終審査に来場できないファイナリストとの公平を期すため、すべてのファイナリストは事前に撮影したプレゼンテーション映像でプレゼンを行なった。

――  グランプリ受賞を受けて、どういう影響がありましたか。

Erlend:答えるのが少し難しいかもしれません。それまで鈍かった世界の動きがようやく戻りかけて、新しいことも始まっているので、それが受賞のおかげなのか判断しがたいところがあります。ただ間違いなく、今回の受賞が僕らのエネルギーを飛躍的に高めてくれました。皆さんが僕らのことを認めてくれて、「RAE」を世界中の人々に知ってもらえたことが嬉しいですし、商品化に対する期待感も大きいです。

Milla:コクヨデザインアワードはアジアでもよく知られているので、韓国の友人たちが受賞をとても喜んでくれました。

Erlend:日本は折り紙の伝統文化が有名ですよね。それを考えると、紙を折って作るデザインで応募するなんてどうかしてる!って思いました。今後の応募者の方には、出身にとらわれず、自分のアイデアを臆せずに応募してもらいたいと思います。

底面は強度を保ちながら折り目が美しく収まるようにデザインされ、作品名などが刻印されている。

――  グランプリが決まった時の瞬間の気持ちを教えてください。

Milla:オンラインで授賞式を見ていたのですが、日本語で行われていたので、なんとなく私たちが受賞したのかなと思いながらも確信がなくて……

Erlend:名前を呼ばれた気がしたけれど、もしかしたら参加賞とか奨励賞かもしれないし、喜んでいいのか分かりませんでした。英語で確認取れた時にはすごくホッとして嬉しかったです。

――  Millaさんは涙を浮かべていましたね。

Milla:もともとの目標が優秀賞だったので、その時には呼ばれなかったのでとてもがっかりしました。ですからグランプリを受賞したと分かった時には、どん底から飛び上がった感じでした。頑張りが報われてすごく嬉しかったです。

グランプリの受賞を伝えられた時のMilla & Erlend

自分のアイデアとデザインを愛してほしい

――  コクヨデザインアワードに参加してみて、海外と日本のコンペの違いを感じましたか。

Milla:ヨーロッパのコンペには応募したことがなく、アジアではさまざまなコンペに応募してきましたが、特にコクヨデザインアワードはひじょうによくオーガナイズされ、よく準備されている、という印象でした。

Erlend:事前にいつまでに何を提出するべきかを伝えられていたので、計画が立てやすく、デザインのブラッシュアップや模型の制作に集中することができました。

――  日本のアワードということで気をつけたことはありますか。

Erlend:特にありません。僕らは日本の人たちやコクヨの人が気に入るだろうと思ったものをデザインしようとしていたわけではなくて、自分たちが良いと思ったデザインを生み出すことに努めました。

Milla:日本の場合は細部までこだわり、シンプルであることに重きを置くだろうと思ったので、私たちのスタイルはぴったりだという自信がありました。

4つの形の模型を制作。横から見ても美しく設計されたデザイン。

――  今後、Milla & Erlendとしてはどう活動していきますか。

Erlend:今はフィンランドに戻ってきたばかりで、生活を整えたりどうするか考えたりバタバタしています。僕自身は、簡単に作れて簡単に使えるプロダクトを提供し、世の中に小さな変化を生み出していきたいと思っています。

Milla:それは私も同じ。これからもものを作り続けて、人々に喜びを与えられるような活動をしていきたいですね。個人的には、いつか日本に一定期間住んで、仕事をしてみたいです。

――  最後に、応募者へのメッセージをお願いします。

Milla:まずは、自分が取り組んでいることを大切にし、愛情をかけるということ。アイデア、プロセス、そして自分の仕事を愛してくださいね。

Erlend:僕らは、このアイデアやデザインがいいものだと信じてきました。でもコンペでは、それを人に対して説得力をもって伝えなければいけない。その方法は、全身全霊を込めて作品を作り上げることです。気持ちと努力を注いで生まれたモノは直観的にわかってもらえるはずです。だからこそ自分が信じたこと、大切だと思うことをしっかりやり遂げること。どうか楽しみながら、自分の作品を愛してください。

Milla & Erlend(Milla Eveliina Niskakoski、Erlend Storsul Opdahl)