コクヨデザインアワード2022 
最終審査レポート

不透明な時代だからこそ、学びなおす。本質に切り込む作品が受賞

2022年3月12日、コクヨデザインアワード2022の最終審査が行われ、グランプリ1点、優秀賞3点が決定しました。応募総数1,031点(国内555点、海外476点)の中から、グランプリに輝いたのは、フランスからの応募作「Flow of Thoughts」(Emilie & Joseph)。昨年2月にリニューアルオープンし、1周年を迎えたコクヨの品川オフィス「THE CAMPUS」を会場とし、新型コロナ感染拡大予防のため、最終審査と表彰式、審査員によるトークイベントはインターネットで同時配信されました。

19回目を迎えたコクヨデザインアワード2022。今回のテーマを決めるにあたり、審査員たちからは「より本質に切り込むデザインの提案を求めたい」という声があがり、さまざまな議論の末「UNLEARNING」に決まりました。

「UNLEARNING」とは「学習棄却」や「学びほぐし」とも呼ばれます。パンデミックに端を発し、世界規模での劇的な変化が起こっている今だからこそ、これまでの常識や知識をいったん忘れて、身の回りの「当たり前」を見直し、学び直そうという期待をテーマに込めました。

まだ日本では馴染みの薄い言葉であったことや、さまざまな解釈ができるがゆえに難易度が高かったとみられ、昨年の応募数を大きく割り込む結果となりました。一方で、全体的にレベルの高い作品が集まり、海外からの応募が半数近くを占めるなど、デザインのコンペティションとしての質と、グローバルでの高い認知度を示しました。

グランプリはフランスからの作品

3月12日に行われた最終審査では、事前に撮影されたファイナリスト10組によるプレゼン動画を上映した後、会場あるいはオンラインで質疑応答が行われました。その後別室で審議が行われ、最終的に審査員による投票で受賞作品を決定しました。

グランプリは、フランスからの応募作「Flow of Thoughts」(Emilie & Joseph)に決まりました。この作品は、情報過多な社会で自らの思考を整理するための日記帳です。自分にとって重要だと思われる文章だけを白いライン上に綴り、頭の中に浮かんだ雑音やネガティブな考えは、落書き状のパターンが印刷された部分に書き込んで発散します。作者の Emilie & Joseph は「考えを厳選することで思考のミニマリストになることを目指す」と説明します。

審議では意見が割れ、白熱した議論が繰り広げられました。半数の審査員は「テーマに合っており、書くという行為や精神性を含めた総合的なデザイン」と高く評価し、半数は「デザイン的な制限で本当に思考が整理できるのか、有用性が理解しにくい」と難色を示しました。最終的に、コンセプトはロジカルでありながら、造形や表現においては白いラインを「旅路」と見立てるなど、言葉では説明できない詩的な魅力がポイントとなりました。

グランプリを受賞した Emilie & Joseph(Emilie-Marie Gioanni、Joseph Chataigner)

グランプリを受賞した Emilie & Joseph(Emilie-Marie Gioanni、Joseph Chataigner)

Emilie & Joseph は受賞について、「今、世界で起きていることを考えながら、感覚や感情のデザインに取り組めたことは大きな意味があった。またユニットとして応募し、受賞できたことも私たち個人としてうれしかった」と喜びを語りました。

ユニットが強かった優秀賞

優秀賞は、「トキヲクム」(mrk)、「描画で広がる質感の世界」(21B STUDIO)、「果実の楽器」(21B STUDIO)の3点に決定しました。

「トキヲクム」(mrk)は優秀賞と、視聴者からのオンライン投票によるオーディエンス賞のダブル受賞となりました。お香のブロックを積み重ねて、時間と共に移り変わる香りを楽しむという作品です。パッと見てカラフルで楽しそうなルックスと、ユーザー自身が「これからどういう時間を過ごしたいか」を考えて、時をプログラミングするという体験の新しさが評価されました。「これまで文房具との相性を考えると、香りの提案を評価したことはなかったが、この作品はおもしろい」と話す審査員の田根 剛さんは、「音楽のトラックを聴く感覚に近い。香りを聞くともいうが、時間や香り、音といった目には見えない部分をデザインしたところが魅力」と語りました。

「描画で広がる質感の世界」は、さまざまな質感を描くことができる画材セットの提案です。水彩や油彩絵具、マーカーやクレヨンなど異なる画材で描くことにより、色の世界にもテクスチャーが存在することを発見させてくれます。過去にも色彩にまつわる提案はありましたが、審査員の吉泉 聡さんは「既存のものの見方や概念をここまで鮮やかにゆさぶってくるものはなかった」と評価。一方で、今回の応募作品全体に通じる課題として、「どのようにユーザーとプロダクトが出会うのか、UNLEARNINGの機会を作るのか、併せて考えていく必要がある」と投げかけました。

「果実の楽器」は、モモやトマト、カボチャなど野菜や果物の形をしたシェーカーで、中にはそれぞれの種子を模した木製のビーズが入っており、振ると個性ある音を出します。形から音を想像し、音から中身を想像する体験を通して五感のUNLEARNINGを行なうという提案で、審査員たちも実際に音を出して楽しんでいました。川村 真司さんは、「よくわからないが手に取りたくなる。振ってみても楽しく、いいプロダクトになる可能性が大いにある」と評価。一方、「グランプリと優秀賞の差は、ロジックではデザインできない部分なのかもしれない。素晴らしい才能があるからこそ、足りなかったのは何なのかをぜひ考えてみてほしい」と話しました。

注目は、21B STUDIOが優秀賞を2つ受賞したことです。21B STUDIOは、それぞれデザイナーとして活動する時岡 翔太郎さん、コエダ小林さん、有村 大治郎さんによるユニット。審査員の柳原 照弘さんは、「今回のテーマは、多様な視点から議論できるユニットにとって有利だったかもしれない」と分析。その上で、「コンセプトはよく練られてすばらしい。しかしモノとしてのアウトプットがそれを上回っていない、アイデアを形に変える詰めの段階で『本当にこれでいいのか』という議論を3人でもっとしてもよかったのでは」とあえて辛口のコメント。それに対して21B STUDIOの3人は、「メンバーで意見をぶつけ合いながら生まれたアイデアを評価されたのはうれしいが、今後は商品としての観点や使用シーンなど踏み込んで考えていきたい」と応えました。

来年はいよいよ20周年

審査発表と授賞式の後には、木田 隆子さん(雑誌「エル・デコ」ブランドディレクター)をモデレーターに迎えて、審査員によるトークショーが行われました。各審査員が今回のテーマ「UNLEARNING」とファイナリストの10作品について振り返りながら、感想を語り合いました。「いつも以上にバラエティに富んだ提案が集まり、楽しく審査できた」(川村さん)、「僕らも普段とは違う視点や思考が求められ、審査を通じてUNLEARNING された」(柳原さん)、「さまざまな議論が生まれ、応募者も審査員にとっても学びの多い年だった」(田根さん)「根源的なテーマで難易度も高かったが、デザインの力というものを強く感じる結果となった」(吉泉さん)。

最後に、アワード主催者として1年間のプロセスを見守ってきた黒田 英邦が次のように語り、コクヨデザインアワード2022を締めくくりました。「今年はテーマを決めるだけでも大変な議論があった。応募者にとっても審査員にとっても難しいテーマだったと思うが、どの作品も捨てがたく充実した内容になった。来年はいよいよ20周年。グローバルなアワードとして海外からの応募はさらに増やしていきながら、アワード創設の理念である”日本のデザインの登竜門”として日本の若い方々にもっとチャレンジしていただけるような機会にしたい」。