受賞者インタビュー

山崎タクマ
「音色鉛筆で描く世界」

2018 グランプリ

コクヨデザインアワード2018において、応募総数1,289件の中から見事グランプリを受賞した山崎タクマさん。作品「音色鉛筆で描く世界」は、文房具は視覚障がい者から敬遠されているのではないかという気づきからスタートし、鉛筆で書く・描くときの紙との微小な摩擦音という「聴覚情報」を増幅させることで生まれる、文房具の新しい展開やコミュニケーションを提案する作品です。作者の山崎さんに、応募において工夫したことやアワードに参加した感想などを聞きました。

毎年のテーマは目標みたいなもの

――  最初に、コクヨデザインアワードに応募したきっかけを教えてください

山崎:学生の時に友人と応募して以来久々の参加となりましたが、社会に出て経験を積んで、改めて自分の力を試すタイミングだったんだと思います。コクヨデザインアワードは、知名度もあり、多くのデザイナーが参加します。デザインだけでなく、プレゼンのスキルや、量産の可能性まで問われる過酷なコンペです。今の自分のデザイナーとしての立ち位置を知りたいという思いがありました。

――  どのように作品のアイデアを発想されたのでしょうか

山崎:きっかけは、ふとしたことでした。早朝に静かな部屋で考え事をしていて、鉛筆で描く音の美しさに気づいたことがきっかけです。この音が何かに展開できるのではないかと思いました。

――  テーマ「BEYOND BOUNDARIES」から発想したわけではなかったんですね

山崎:もちろんテーマは頭の中に置きつつも、あくまでも自分の中で引っかかっていることや、素敵だと思うことにフォーカスし、アイデアを尖らせていきました。テーマは目標のようなもので、自分が考えたアイデアと照らし合わせる道しるべのように意識していました。

山崎タクマさん

審査員に想像してもらう

――  一次審査のプレゼンテーションシートでは、作品のコンセプト中心で、具体的な用途への言及はありませんでした。

山崎:紙と鉛筆の接点から生じる音色の豊かさを愉しむ、というコンセプトの軸は明確でした。ただ、それが具体的に何になるのか、どんな用途で使われるのかといったことは詰めきれていませんでした。目が見えない方が絵を描くツールになる、楽器のように愉しめるなどいくつかの発想があり、どれも可能性を感じていましたので、今の段階で中途半端に決めてしまうのはもったいないという気持ちがありました。

「音色鉛筆で描く世界」一次審査のプレゼンテーションシート

――  実際、一次審査では作品の全容が見えないことの可否が議論になりました。

山崎:用途や使用シーンが具体的でない分、審査員の方々に可能性を感じてもらえるような仕掛けを工夫しました。プロダクトの音が増幅される構造や雰囲気はできるだけ具体的に表現したり、プレゼンシート内にあえて動画のキャプチャーを貼り付けたようなデザインを取り入れることで、一体どんな作品なんだろうと想像力を働かせてもらうようなことを意識しました。

ユーザーを置き去りにしない

――  一次審査通過後は、視覚障がい者とのワークショップを通じて、作品の具体的なシーンを明確にしていきますね。

山崎:世の中にないものを提案するので、実際に使ってみないとわからないですからね。ユーザーを置き去りにしない、ということは普段から意識しています。プロトタイプを使ったワークショップは、知り合いの視覚障がい者の方に協力していただきました。最初は少し壁があったような気がしますが、パーカッショニストの方にも参加していただいた音当てゲームをした結果、一気に仲良くなりました。ゲームを楽しむうちに、自然とお互いが敬語を使うのを忘れていたり。この「仲良くなれた」という経験は、この作品を通じて提案したいことを明確にしてくれた気がします。

ワークショップの様子

――  最終審査で、模型の試作のバリエーションを提示されていたのも印象的でした。模型作りでこだわったことなどありますか。

山崎:全体的なデザインの重量配分に注意しました。今回の作品は、モノ自体を作ることが目的ではなかったので、そこにフォーカスされすぎるのが嫌だったんです。提案したかったのは、そのツールがあることで生まれる新しい世界やコミュニケーション。そうした本来の意図がきちんと伝わることと、プロダクトのデザインのバランスをとても考えました。

――  最終的に提案されたプロダクトは、とても簡易でシンプルな、ある意味無機質な感じもしますが、そういった計算のもと成り立っている作品なんですね。

山崎:モノの香りを取っていくような作業でした。一緒に受賞したインドのデザイナーSochの作品「Palletballet」と正反対だと感じます。あの作品は個性的な香りの強いところが魅力ですよね。僕も本来はそういった作品が大好きで、プロダクトのデザインもゴリゴリと作り込んでいきたいタイプなんですが、今回の自分の作品においては視覚に頼らないというコンセプトがあったので、それをするのは違うと思っています。そもそも視覚情報を持たない方が使うことも想定していますし、できるだけ引き算して本当に必要な要素だけを残したいと思いました。

最終審査の様子。審査員一人ひとりに模型が配られると共に、検証過程に制作されたさまざまな素材や形状の模型も披露された。

デザイナーとして社会で必要なスキルを見られる

――  最終審査のプレゼンテーションで印象に残っていることはありますか

山崎:作品だけでなく、プレゼンの構成や話し方なども含めて総合的に評価されるということですね。デザインを送ってそれを評価されるだけとは違って、自分の思想やプロダクトのクオリティはもちろんのこと、自分が作ったものの魅力を最大限伝えるという、デザイナーとして社会で活動していくために必要なスキルを見られている印象でした。

――  グランプリを受賞して、デザイナーとしてのキャリアに変化はありましたか

山崎:表彰式で、佐藤オオキさんに「もうコンペをやっている場合ではない」と言われました。現在は家電メーカーのデザイナーですが、個人でも仕事を受けています。受賞後に、コクヨデザインアワード受賞者である事実が信用にもなり、決まった仕事もあります。ツイッターのフォロワー数が受賞後10倍近く増えたのにも驚きました。

グランプリと共に、表彰式に来場した観客による投票“オーディエンス賞”も受賞

完成してなくても良い

――  先日「音色鉛筆で描く世界」のワークショップが開催されるなど、商品化のステップも始まりました。今後どのような展開を期待されていますか。

山崎:受賞後の作品展示で、小さいお子さんが実際に使ってくれたのですが、夢中になって、鉛筆から増幅される音を楽しんでいました。アワード提案時は子供というターゲットはあまり想定していなかったのですが、その様子を見て、この超アナログなツールが、パソコンでもスマホでも提供できない、本物の音を提供するというアプローチがあるかもしれないと感じました。

――  最後に、応募を考えている方にメッセージをお願いします。

山崎:受賞後にも作品の用途が広がっていくように、僕の作品も決して完成された状態ではありません。もちろん完成度も大事ではありますが、特に一次審査については、自分の実現したい目的や解決したい課題というコアな部分がしっかりとあれば、アイデアとしてはまだ途中の段階だとしてもストレートにぶつけてみたら良いのではないかと思います。もちろんプレゼンシートでの伝え方は大事で、まだこれは骨の状態で今後肉付できる可能性がある、という熱意をしっかり表現できれば、そこに審査員の想像やアイデアも加わって、飛躍させてもらえるコンペでもあると感じました。

※2019年6月に開催したワークショップ「音色鉛筆で遊ぶ—視覚にとらわれないコミュニ ケーション」のレポート記事も、ぜひ合わせてお読みください。
https://www.axismag.jp/posts/2019/07/137345.html