受賞者インタビュー

三人一組(相原 和弘、原 帆、吉田 智哉)
「紙キレ(筆記用紙)」2007年度 グランプリ
「ガームテープ(ガムテープ)」2008年度 優秀賞

コクヨデザインアワードが
作品づくりの原点に。

2007年のコクヨデザインアワードは"融通のきくもの"をテーマに、ちょっとしたアイデアで現代人の日常にフィットした、柔軟で幅の広い作品を募集。この年に"紙キレ"という作品で、グランプリに選ばれたのが三人一組。彼らは、あらゆるものの素材となる"炭素"をテーマに作品を募った2008年のアワードでも、"ガームテープ"という作品で優秀賞を獲得。2年連続受賞の感想や、作品づくりにおいてのアドバイスをいただきました。

——  みなさんは、どういった経緯で三人一組というユニットを組まれたんですか。

相原さん : 「もともと職場が一緒でした。同じグループで、家電製品のデザインをしていました。」


——  どうして三人一組というユニット名にしたんですか。

相原さん : 「ユニットの構成をそのまま表現しました。」


——  わかりやすくていい名前です。それにしても2年連続して受賞。 すごいですよね。アイデアは、毎回どうやって生み出しているんですか。

相原さん : 「まずは、応募要項に書かれたテーマを読み解く作業から入りました。何が求められているのか、テーマに込められた意図を、自分たちの視点で深堀りするんです。」

——  そこに、どのくらいの時間をかけましたか。

原さん : 「毎回3時間くらい。約1ヶ月間、週に1回のペースでミーティングしていましたね。ああでもないこうでもないと、話し合いを続けました。」

—— "紙キレ"の発想の原点は?

相原さん : 「まず、"融通のきくもの"というテーマは、すごく抽象的で難しかった。テーマに、直接モノが結びつかないというか。悩み抜いた末、用途が限定された"モノ"という完成形ではなく、その一歩手前のいかようにも変化する"素材"にしようというアイデアが出ました。」

原さん : 「紙などの素材は、ユーザー自身でカタチを変えたり、加工することができるんですよね。使い手によって、使い途がいく通りにも広がる。それが"融通のきくもの"だと、考えがまとまりました。」


——  いくつもある素材のなかで、どうして紙を?

原さん : 「誰もが日常的に使用している素材を、あえて選びました。」

相原さん : 「紙、しかもA4サイズ。極めて一般的な素材が、ちょっとだけ手を加えることで生まれ変わる。そんなデザインを目指しました。」

——  まさしく"融通のきくもの"ですね。応募にあたり、ご苦労された点はありますか。

相原さん : 「通常はパネルのみ提出すればいいんですが、1次審査の時点でモデルも作製したんです。審査員に、実際に紙をちぎって感触を確かめてもらわないと、"紙キレ"のよさは伝わらないと思ったので。デザインが固まったのが、提出締切日の1週間前。時間に追われるなか、レーザーで紙に繊細なミシン目を入れられる、高い技術を持つ業者を見つけるのがひと苦労でした。」

原さん : 「インターネットを使い、設定した予算内で、しっかりとした技術を持っている職人さんを探し出しました」 「イケル、と思いましたが、モデルをつくるのは大変でした。」

——  それはすごい。ところで"紙キレ"は商品化されましたよね。メモタイプの「チビット」と、A4サイズの筆記用紙「紙キレ」の2タイプ。1つの作品から2つの商品が生まれたのは、コクヨデザインアワードが始まって以来の快挙! ここまで広がると思っていましたか。

相原さん : 「正直驚きましたね。応募要項に、"商品化できるもの"という評価基準があったので、実現可能なデザインを心掛けてはいました。ですからその点をちゃんと評価していただけたことは、とても嬉しかったです。」

原さん : 「作品というレベルで終わらせるのではなく、一般のユーザーが使うことで初めて、モノづくりは完成するものだと思っています。ユーザーはどんなものを求めているのかとか、審査員の方々のモノづくりへの考え方や視点など、あらゆることをふまえてデザインしました。」

——  コンペにはよく参加されていたんですか。

相原さん : 「いいえ、"紙キレ"が初めてでした。」


——  初参加でグランプリ! しかも次の年も、"ガームテープ"で優秀賞!
2008年のテーマは"炭素"でしたよね。枠が広すぎて難しくなかったですか。

原さん : 「前年度より、さらに難しいテーマでした。」

相原さん : 「これも相当話し合いましたね。審査員はなぜこのテーマを選んだんだろうと、裏の裏まで考えたり(笑)。炭素というと、炭やカーボン、ダイヤモンドなどをイメージしますが、もっとほかに深い意味があるはずだ、という解釈論をずっと3人で繰り返しました。」

原さん : 「勉強になりましたね。考えていて、面白かった。」


——  そして"ガ-ムテープ"にたどり着いた。なぜガムテープを選ばれたんですか。

相原さん : 「炭素は、世の中に存在するいろいろな原子と原子を結びつけて、無数の炭素化合物をつくる。つまり、炭素とは何かと何かをくっつける、接着剤のような役割を果たしているんです。」

原さん : 「それを文房具に落とし込むと何がいいのかを考え、ノリや接着剤ではなく、応用が利くテープを選びました。しかもただのテープではなく、いろいろなものを優しく包み込める、網目の入ったガムテープをつくろうということになりました。」

相原さん : 「柔軟にいろいろなものをまとめられるというところが、炭素の役割に似ていると思ったんです。」

——  繊細で美しいデザインですね。

原さん : 「ありがとうございます。計算を重ね、必然的に網目がいちばん美しく見えるデザインになりました。」

——  なるほど。それにしても美しいデザインに、 "ガームテープ"というネーミングは意外な気がするんですが。

相原さん : 「ガムテープが自在に伸びるので、名前も"ガー"と伸ばしてみました (笑)。」

原さん : 「ネーミングは難しいですよね。シンプルなほうが伝わりやすい、というのは確かなようですが。」

——  そういえば"紙キレ"というネーミングもシンプルですよね。しかも、作品のポイントをしっかり言い当ててる。

原さん : 「ユニット名と同じくシンプルです(笑)。」



——  まさに、"シンプルなほうが伝わりやすい"、ですね。受賞したことで、変わったことはありますか。

原さん : 「賞をいただいたことで、発想の方向性に自信が持てるようになりました。そういった点で、コクヨデザインアワードが私たちの作品づくりにおける原点になっています。」

相原さん : 「アイデア出しの際に、よく話し合う。話しているうちにお互いが考えていることの共通点がだんだん見えてきて、いつしかそれがひとつになる。方向性が見えてくる。そしてできたのが"紙キレ"。いまでも発想に行き詰まったら、僕らの原点である"紙キレ"に立ち返るようにしています。」

——  では最後に、これからコクヨデザインアワードに応募しようとしている人たちにアドバイスを。

原さん : 「審査員はどう判断するのか、ということをじっくり考えたほうがいいと思います。応募要項にあるテーマを、時間をかけて読み解く。それが大事です。」

相原さん : 「そうですね。審査員がどういうふうに作品を見るのか、シミュレーションする。審査員の方々の過去の作品や思想なども知って、今回のテーマでは何を要求しているのかを自分なりに解釈する。そして、プレゼンテーションにつなげる。」

原さん : 「商品化をつねに意識するなど、応募要項にある審査基準は絶対に守るべきポイントです。そこを外さないように、解釈を広げ過ぎずに作品づくりを進めるべきです。」

相原さん : 「主催者側から発信される情報には、敏感に。主催者の立場、つまり使い手の立場に立つことが、重要なのではないでしょうか。」