その人は、夢を手で書き実現する。「てがきびと」

第6号 「新しいお笑いを書く人」笑い飯:哲夫

“あるある”ネタの次に来るものは?そのノートには、お笑いに真摯に取り組む芸人がいました。


第6号 「新しいお笑いを書く人」笑い飯:哲夫

芸人さんのネタ帳って見たこと、あります? 一体、どんなことが書いてあるんだろ。どういうふうにアイデアを文字に落としていくんだろ。興味津々!今回は、その企業秘密とでも言うべきネタ帳を、『笑い飯』の哲夫さんに見せてもらいました。

── うわ、こりゃまた、使い込まれたノートですねえ!表紙が外れてバラバラ寸前。

すいません、百均で買うたもんなんです。もう3年くらい使てる。ああ、ハズいなあ。コクヨさんのなら、こんなことないのに。すんません(笑)

── このノートにネタを書き付けてるわけですね。

まあ、設定とか、テーマですね、書いてあるのは。

── つくづく思うんですが『笑い飯」の漫才って、すっごく新しいですよね。二人で交互にボケて行くWボケ。

ありがとうございます。でも漫才で二人ともボケるいうのは昔からあったんですよね、オール阪神・巨人さんとか。ただ1回交代でボケるゆうんはまあ、新しいかもしれへんけど。

このポーズも、ちょっとハズいですわ…

── あの速いテンポが、とっても好きなんですよ。見てて気持ちいいんだな。どこから始まったんですか、あのスタイル?

あんまり、本人たちは意識してないんですわ。もともと、僕ら二人とも、別の相方と組んでるときからボケ役でしたから。そんなにはっきり、ボケとツッコミ分けんでもええやんと思うてたし。だから「替われ!」いうのも意識して使うとるわけやないんです。ごく自然に言うとるだけ。今や『我が家』のもんになってますけど(笑)。

── ネタの打ち合わせは、どうやって?

僕がテーマ決めた場合は、相方(西田幸治)に「こんなんやりたい」言うて、それで許可下りるやつと下りんやつがあるんです。

── え、ダメ出しされることもあるんだ。

そうなんですわ、「やりたない」言われて。

── で、許可が下りたら先に進むと。

ほんで本番みたいに二人で喋くって。どんどんやって、もう同じようなボケしか出て来んなあ、てとこまでやるんです。あんまり話が転がって行かんかったら、設定からやり直し。

── どれぐらい、続けるんですか。

15分くらいは喋り続けてますね。

ネタ帳に向かう表情は真剣そのもの

── 本番は4分いかないこともあるから、はるかに長い!

それでさっき自分でボケたやつ、さっさっさっと箇条書きしといて、ていう感じです。

── それにしても話のテーマが、いつも斬新。天才的です。

そうでしょ?(笑)

── ああいうテーマって、どこから出て来るんでしょう。

ふっと浮かぶときもあれば、うんうん言いながら、こねくり回すときもある。『M1グランプリ』(注・漫才の王者決定戦。『笑い飯』は2010年第10回でついに優勝)出とったときは、毎年でしょう? 毎回、前年を上回るやつ作らないかん。

── そりゃ確かに大変だ。具体的には、どんな方法で?

色んな記憶を探るんです。ああ、あるあるって話を思い出すんですね。例えば、蚊取り線香の雲とか。

── なんですか、それ?

ある日、ウチ帰って来たらオヤジもオカンもゴロ寝しとったんです。蚊取り線香、点けっぱなしで。ほしたら人の動きないから空気も流れんで、こう、畳の上から、ぽわ~っと雲になっとった(笑)

ノートには白い部分を残してはいけない

── そういうのをノートに書き付けて置くんですね。

そう、そういう「あるある」はノートの、この上の空白のとこに。ここが僕の「あるある」コーナーなんですわ。

罫線の上、欄外にも「あるある」が

── それにしても小さな字で、びっしり書いてある。てがきびとって、そういう人が多いなあ。

子供の頃、先生に言われたんですよ、「ノートにあんまり白いとこ残すな!」て。

── それを今でも守ってるんだ。

小5くらいからやったかなあ、これもやっぱ言われたんですけど、こう、ノートのページを縦に半分に折ってね、ほんで上から下まで書いたら、また半分、上から下まで書く。ほしたら倍使えるやろ、って(笑)。中学から高校まで、そうしとったんです。友達からは「なに、しとんの?」とか言われてね。さすがに今はそこまでせんけど。

── なるほど、だから1冊で3年も保ってるんですね。

うん、凝り性やと思います、子供の頃から

でもね、中学生になったら女の子が良う、手紙みたいなん廻しますやん。それで僕もノートの後ろのほうにおもろいこと書いて、破って友達に廻しよったんです。そしたら僕のノートは、前より後ろから無くなって行った(笑)

── しかし、素早く書くのに、よくまあ、こんなに小さい字で。

めちゃ、ちっさいですよ。もう、マス目があったとしたら、その2割くらいの、ちっさい字で書く。ほしたら一杯書けますやん。

もう、ちっさい字は得意ですわ

── ちっちゃいけど、漢字もしっかり書いてますね。

あ、忘れてる漢字はケータイでピピピっと(笑)

── でもキレイな読みやすい字です。

いやいや、走り書きですもん。けどね、子供のときは字は下手やったと思うんですけど、気い付いたら他の子より字うまいて言われるようになってて。そうかなあ、俺うまいんかなあ、思うて習字を習いにも行きました、芸人になってからですけど。まあ、芸人の中ではうまいほうかな、思います。世間一般ではたぶん、偏差値45くらいやけど(笑)

── 芸人活動しながら、わざわざ習字を学ぶ。凝り性なんでしょうか。

それはあると思います。ひとつのことに夢中になるタイプやった、子供の頃から。おばあちゃんに良う言われましたもん、「あんた、汗かきながらレゴブロック作りよったな」て。

── もしかして、手先も器用?

ウチの実家、三輪そうめん(注・奈良県三輪地方の特産。哲生さんの生まれは奈良県桜井市)出してる食堂なんですわ。ほんで使い終わった割り箸洗うてもろて、それをボンドでくっ付けて色んなもん作ったりね。綾取りも得意ですよ。

── あの、女の子がやる綾取りですか。

ええ、四段ハシゴとか、普通やったら絶対ほどけんのですけど、僕がやったら、すうーっときれいにほどける。1回、それだけの取材、受けたことありますよ(笑)

── 哲夫さんって関西学院大学の哲学科出身でしょ? ちょっとピンと来ないなあ。ネタのシュールさは哲学的ですらあるけど。

名は体を表す、と思うて入ったんですけど。

── 哲夫、ってくらいですもんね。もともと、哲学に興味はなかったんですか?

いや、学問としてというのはないですけど、高校の時とか、友達と夜中まで喋ってると、意外に深い話がおもしろいやんけ、というのはありましたね。

般若心経を訳した名著であります

ネタ考えるために般若心経の写経を

── そういえば、哲学と関係あるかどうか分かりませんが、哲夫さん、『えてこでもわかる 笑い飯哲夫訳 般若心経』(ワニブックス)って本出されてます。

ああ、あれはね、ネタ考え出すためやったんですよ、最初は。

── 般若心経がネタ?

いやいや、そうじゃなくて、ネタ帳に手動かして字書いてたら、なんか浮かぶやろと思うてですね。で、どうせ書くなら、般若心経を書き写してやろうと。

── 写経ですか。

そうなんです。それでネタ帳と般若心経、カバンに入れて持ち歩いてたんです。

── うんうん。

そしたら「抜き打ち持ち物チェック」みたいな番組があってですね。それまで絶対、他人に見られることもないし、大丈夫やろと思うてたのに、うわあ、こんなん出てきたら何よりもハズいやん!(笑)

あ、また、ちょっと ハズい

── で、暴露されちゃった。

それから、ちょいちょいイジられるようになってしもうて。ウィキペディアでは「哲夫は毎日、写経している」とか書かれる始末で(笑)。そしたら会社のほうから「本書かへんか」ちゅう話になってですね。あの本もほとんど手書きですね、そういえば。

── 手を動かして字を書いてたら何か考えが浮かぶ.....素晴らしい!てがきびと、そのものです。

やっぱり、キーボード叩くより、圧倒的に手書きが好きですね、今でも。

── 哲夫さん、誠に恐縮なんですが、実際にここでネタ帳書いてみてもらったり出来ます?

哲夫流考察「四段目のスカについて」

ほな、今度また「ひとりイベント」やるんで、そんなんでもいいですか?

── もちろん、もちろん。企業秘密に触れない程度で。

毎回、色々なテーマを持って、お笑いの原点みたいなものを探るイベントなんですけど、今回は数字で行こうかと思うてるんです。

── 数字、ですか。

ええ、「三段落ち」って言うけど、ホントは四段目にスカが来ると一番おもろいんだよ、って話をしようかと。例えば、一、二、三、四と、こう漢数字で書いていくとね、三の次は横棒4つでも良かったのに、なんで変えたん?それでもってさらに次の五は、なんで画数4つなん?(笑)

── なるほど!

人間、3回同じものが続くと、あ、その先も同じやろと思うんですね。そこで4つ目をスカにするとおもろい。車のバックするときの音もね、ピーピーピーときて4つ目に半音上がったりするやつ、あるでしょ。前、自分で乗ってて、あ、俺、ハズいわあ、って思ったんです(笑)

── ああ、それこそ、あるある!

ね? これは視覚よりも聴覚なんやないかと。「恥」という字は「みみごころ」と書きますやん。耳に心のある人は恥ずかしさが分かる(笑)

── う~ん、哲夫さんの考えつくネタは、やっぱり、哲学的です(笑)

今度のイベントも、楽しみにしといてくださいね。よろしくお願いします。

2013年12月24日

笑い飯:哲夫

お笑いコンビ、笑い飯のひとり。相方は西田幸治。
1974年12月25日生まれ。奈良県出身。
趣味・特技はスキー、花火鑑賞、モーグル。

<主な受賞歴>
2003年 第34回「NHK上方漫才コンテスト」最優秀賞
2003年 第24回「ABCお笑い新人グランプリ」優秀新人賞
2003年 第38回「上方漫才大賞」新人賞
2004年 第2回「MBS新世代漫才アワード」優勝
2005年 第34回「上方お笑い大賞」最優秀新人賞
2010年 「オートバックスM-1グランプリ2010」優勝