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江戸切子職人・熊倉隆行さんの挑戦

新しいページをひらく人たち(2)
2019/11/30
大きな変化が期待される2020年。この東京で、日本で、この世界に驚きと変化をもたらしてくれる人たちにインタビューします。新しい変化を起こす人たち、挑戦する人たちの話は、私たちの日常にもちょっとした勇気を与えてくれるに違いありません。今回は、江戸切子の店華硝(はなしょう)三代目の熊倉隆行さんにお話を伺いました。

江戸切子は、ガラスの表面を彫刻した独特の美しさのある東京の伝統工芸です。華硝は1946年に江戸切子の製造を創業して以来、新しいモノづくりをすることで、国賓の贈呈品などに選ばれる独自のブランドを作り上げられています。販売は、都内の本店(亀戸)と日本橋の2か所の直営でしか行っていません。もともと大手企業の下請けをされていましたが、二代目(現会長)が自分たちで好きなものを作っていきたいという想いがあったことと、バブル崩壊で取引先が倒産したことがきっかけで、直販に舵を切ったといいます。製造販売以外に、教室を経営しているのですが、こちらにもユニークな経営の狙いがありました。なぜ教室をしているのか、華硝にしかないというこだわりの商品開発など、独自の経営哲学についてお伺いました。

01

教室はサッカーのユースチームのようなもの

華硝の三代目になられた経緯をお聞かせいただけますか。

学生の時にはバイトなどで手伝っていたことなどはあったのですが、実はぜんぜん継ぐ気はなかったので、他の企業に入ろうと就職活動をしていました。その時に、大学の同級生から「ほかの人がやりたくてもできないこと(家業)なんだよ」と言われたのがきっかけで、心機一転して入社しました。もともと図工とかも苦手で、手先は器用ではなかったというのも、躊躇した理由の1つなのですが、いまは天職だと思っています。

1人前の職人になるのにどれくらいかかるものなのですか。

最初の2年くらい下働きが多かったのですが、休みの日に遊び感覚でカットしたりしていました。1年目とかだと、身につけられる技術は限られているのですが、その時期に作ったものが、いまだに商品として残っているのは嬉しいですね。ここでは、教えてくれないことはなく、聞いたらなんでも教えてくれるんです。

工場で硝子を削る華硝の職人

一人前になるのに10年とかよく言われてますが、いまの時代だとそれではやっていけないので、5年でできるようにしています。それでもお客様に出せるレベルになるには、最低そのくらいの時間はかかります。1個作ることができても、同じものができないといけないですし、あと時間が大事。1時間でできるのか、3時間かかるのかで、製造としては全然違うんです。

製造販売をしながら、教室も経営をされているのはどうしてでしょう。

お客様からやってみたいという要望はもともとありました。一方で、窯業(ようぎょう)とかだと、例えば有田焼など地域ごとの専門学校があるのですが、硝子の世界はそれがなかった。それなら自分たちで作ってしまおうと。サッカーのユースのように、すそ野を広げながら、その中でよい職人が出てきたらトップチームに引き上げるみたいなイメージをしてます。実際、いま雇用している職人の半分は教室出身です。
最初4人から初めて、いまは120人くらい生徒さんがいて、お蔭様で予約もいっぱいです。生徒さんに聞くと、硝子はやり直しがきかないので、集中できるのがいいとか、デジタルデトックスなんてことも言ってま

02

お土産でクチコミが広がりリピーターになる、
世界のどこにもない繊細な工芸

江戸切子の定義ってありますか?またその魅力ってなんでしょうか。

まず都内で作られている江戸硝子を使います。次にカッティング。種類もいろいろあって、華硝独自のものもありますが、江戸切子としての紋様が決められています。江戸切子は生活の中で生まれてきたものなので、着物の模様などのデザインモチーフが多いです。麻の葉柄とか最近よく使われたりしますけども、江戸切子にもありまして。その紋様の繊細さは、世界のどこでもできないカッティング技術があって作られます。

洞爺湖サミットのお土産に採用された『米つなぎ』ワイングラス

色にも独特の繊細さがあって、例えば同じ「青」でも、たくさんの青があります。それこそ紫なんて「〇〇紫」とか本当に多様にあります。それだけの繊細な色と紋様を楽しむというか、そこから生まれる華やかさが魅力ですね。

たくさんのお客様が華硝さんの切子をリピートされていますが。

江戸切子を製造しているのは何十社とあるのですが、ほかにない、世界中でもないというものが華硝にはあります。例えばこの『米つなぎ』は意匠登録もしていて、洞爺湖サミットの時にも選んで頂いたものです。
知的財産権ももちろんですが、作れる人が会長一人しかいない。私も練習していて作れるのですが、時間がかかってしまって、まだ自分のものにできていません。このお米のような模様は256粒あるんです。前に貸出した時に数えてくださった方がいて。(笑)1個でもどこか繋がってしまったらダメなのですが、まともに256粒というと途方に暮れちゃうので、数えないようにしてます。(笑)

オリジナルを作るのも大変ですが、それを再現して商品にするのが難しい。ただ、みんな全く同じコピーである必要はなくて、その人だけができるものでよい、時代によって変えてもよいというのが、会長の教えですね。

あとは硝子以外のオリジナルグッズもコラボレーションして作っています。江戸切子の紋様を硝子以外のいろんな素材に活かして展開していきたいです。

江戸切子紋様の扇子

スマホケースは『米つなぎ』と『麻の葉』(写真)の2種で展開(現在は終売)

いろんな挑戦をされて来られたわけですが、その中でも一番のチャレンジってなんでしょうか。

TVの取材で、大きいものを作ってほしいという依頼があって。いま床の間とかないので、そんなに大きなものは求められないんですね。3kgくらいの重量で。自分でどこまで大きいものができるか、試すよい機会だと思って。腕力が続かないので、3日くらいかけて創りました。

中央に『米つなぎ』

重いし、やり直しがきかないので大変だったのですが、ここまでやれるんだな、という自信にはなりました。そこから花瓶とかお皿の注文を頂いても、迷いや不安なくできるようになりました。 不安から自信になるっていうんですかね。

03

失敗しても責められない。
不確実性をチームワークで乗り越える経営スタイル

いろいろ挑戦されてますが、失敗したり挫折したことなどありますか?

失敗は本当にいっぱいありますね。発注数間違えてみんなにも迷惑かけたり。ある時には、1個しかない硝子なのにカットを失敗してしまって…。その時に会長が「ここ、こうすれば大丈夫」ってフォローしてくれたんですね。この会社がいいなって思うのは、失敗を責めないんです。失敗したら、その場で全員でフォローする。
そのあと、何で失敗したのか振り返るというのはありますが、ワザとやるとかでない限り、失敗して責められることはないです。誰しも失敗はするので、その時にはみんなでフォローする。そして失敗を連続させないようにしています。

昔読んだ本に「不確実性をこなすノウハウ」という言葉があって、何か起きたときに対応できるかが、その人の技量ということが書いてあったんです。いまもそれは常に胸に刻んでやっています。

とても楽しく仕事されているようですが、同時に緊張感持ってるようにもお見受けしますが。

自分で楽しくないって思うと、それはモノに出ちゃうんですよね。ただ、それだけでも成立しないので、緊張感と楽しさの比率だと思うんです。それがよいバランスになった時に、良いモノができるんだと思います。

会長から常に言われてることが3つありまして、「早く」「正確に」そして「美しく」という言葉です。「早く」「正確」だけではなくて、それが「美しく」ないと江戸切子ではないということで、そこが緊張感と楽しさのバランスの中で作られるのだと思います。

最初の工程の割付ではマーカーでデザインを書き込む

仕事で使っている文具などはありますか。

紙にデザインとか描く人もいますが、僕は絵心がないので、硝子に直接ペイントマーカーで書いていきます。本当にいろんなやり方があると思うのですが、僕の場合は、硝子を持った時にデザインが浮かぶんです。調子がいい時は、こういう食卓に並んだ時にポンと置いてあったらどう映えるんだろうとか、思い浮かぶんですね。そいいうときは、だいたいうまくいってるんです。まったく思い浮かばない時もあります。

一発勝負ですね。

あとはノートですね。差し替えできるものを使ってます。ポケットもたくさんあっていいんです。
手帳は必要です。セパレートに上下に分かれているのがすごくいいんです。
打ち合わせした時に使いますし、工場にも持っていくので、水が飛んだりいて、だいぶ汚れてしまっているんですが。絵心ないのがバレちゃいますね。(笑)

愛用するカバーノートと手帳

いま注目していることや、今後取り組まれるチャレンジがあれば教えてください。

個人的にはパラリンピックに注目してます。ある種、いろんな技術の集大成の部分があって。選手をサポートするために、例えば陸上とかでも、いろんな素材と技術が使われているのが、すごいなと思っていて。それを間近で見れるという貴重な機会なので、可能な限り観てみたいです。超一流が一発勝負にかける緊張感にも期待しています。

華硝の挑戦としては、都が主催している『キラリ東京プロジェクト』にいま取り組んでいます。2020年の大会の時に、海外の人向けに日本、東京のよさを伝えていこうという活動で、華硝はその10社に選ばれています。ただ知ってもらうだけではビジネスにならないので、世界に江戸切子を広められるように、いろいろ模索しているところです。

職人としては、『米つなぎ』のような新しい紋様を作りたいですね。すぐにできることではないと思うのですが、この仕事を生涯やっていく中で、達成したい目標です。次の江戸切子の歴史に 残るようなものを創りたいです。

これから何か挑戦しようとする人へのメッセージをお願いできますか。

「いい加減」が重要だと思っています。入り込みすぎてもいけないし、「いい加減に」視界を持つ、「いい加減に」見切るとか。この言葉を使ってみると、思い詰めたり、追い詰められないで済みます。

挑戦しようとすると、つい集中して入り込んでしまうものですが、そうすると見落とすことが出てきて、大きな過ちに繋がってしまうので、いつも気を付けるようにしています。

本日はありがとうございました。

これまでも華硝さんは多くの様々な挑戦をされていますが、その経営理念はとてもシンプルで力強いと感じました。例えばそれは名前の由来にも伺うことができます。「華やかな硝子(ガラス)」と書いて、文字通り切子の華やかさを表していますが、もう一つ、江戸(東京)は「先端」「流行」など、新しいものが集まり、華やかでないといけないという想いを込められているそうです。そこには日本を代表する切子職人としての誇りや、常に新しい挑戦をしていくという気概を感じます。

その名前の通り、伝統工芸として技術を継承しながらも、単に過去を踏襲することなく、常に先端であり続ける挑戦をすることで、新しいページをひらかれています。

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