Vol.34 CASE
独自開発のグリップとヘッドでスルッと落とす!職場の床掃除をラクにするフローリングワイパー
掲載日 2025.11.26
Interviewee
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大枝柊斗(おおえだ しゅうと)
ビジネスサプライ事業本部 Bサプライ商品企画室
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本間愛彩(ほんま あや)
グローバルステーショナリー事業本部 リージョン開発部
今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト
今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト
<文具のコクヨが本気で消しやすさにこだわった軽い力でスルッと落とせるフローリングワイパー>
握りやすく力が伝わりやすい独自開発のグリップ&汚れをかき取る高密着ヘッドで、ガンコな職場の汚れにアプローチ!さらに、人間工学に基づく本体設計によって腰への負担を軽減し、毎日の掃除が快適に。
製品紹介ページはこちら
https://www.kokuyo-st.co.jp/stationery/hibifull/floor-wiper/
<職場の靴跡汚れさえも落とせるフローリングワイパー用ウェットシート>
独自配合の薬液がたっぷり染み込んだメッシュ模様のシートが汚れをしっかり絡め取る。靴跡、飲みこぼし、泥汚れといった職場のガンコな汚れにも効果的。
製品紹介ページはこちら
“文具のコクヨ”が掃除用品に挑戦!? 職場の困りごとを解決する新たな価値を
今回は生活用品ブランド「KOKUYO HibiFull(コクヨ ヒビフル)」から発売される新商品ということですが、これはどんなシリーズなのでしょうか。
大枝:コクヨ ヒビフルは、“ちょっとした「くふう」で、はたらく場所を少し「ここちよく」”をコンセプトに、職場で使える掃除用品や衛生用品をラインアップしています。例えば、狭い場所でも使いやすい「吊り下げられるキッチンペーパー」や、来客用に便利な「空気の層で手が熱くなりにくい断熱紙コップ」などがあり、購入されたお客様からは好評をいただいております。
新商品は掃除用品。その名称には“文具のコクヨが…”と強調されていますが、そもそもなぜコクヨが掃除用品を開発することになったのでしょう?
大枝:文具のように「手で触れるもの」から何か新しい価値を生み出せないかと考えた時に、掃除用品なら、手で握るグリップや汚れを落とすヘッドの部分に文具の知見を生かせるのでは、という結論に至ったことが企画の始まりでした。そして、コクヨのものづくりの強みは、お客様の困りごとに寄り添ったちょっとした工夫をすることで他社の商品と差別化を図ることです。今回は掃除用品の中でも職場での使用頻度の高いフローリングワイパーを取り上げ、「手軽に使えて便利だけど、汚れ落ちがイマイチ」という困りごとに着目しました。
HOWS DESIGNプロセスを取り入れたのは、どのような理由からだったのでしょうか?
大枝:職場は多様な人々がいる場所です。その中で「掃除をする」という場面においては、身体的障がいをお持ちの方や力が弱い方にもやさしい「誰にとっても使いやすいもの」を目指すべきだと考えました。特に、握りやすさが問われるグリップ部分の開発はHOWS DESIGNプロセスが適していると考え、企画の初期段階から取り入れることを検討していました。
ワークショップや産学連携も取り入れ、床に力が伝わりやすい新設計を模索
具体的にはどのように開発を進めていったのでしょう?
本間:企画自体は2023年から動き出していて、私たち開発チームが合流したのが2024年の2月頃。その時には、既存の商品に少し手を加えたモックがすでにある状態でした。
大枝:本間さんたちが合流する前に、そもそもどういう困りごとがあるのかを探るため、手や足に障がいを持たれている方にヒアリングをしました。そこで聞こえてきたのが、「力が入れにくい」「力を入れようとすると、前かがみになって腰に負担がかかる」という声。
本間:フローリングワイパーの持ち手の部分は基本的に棒状ですが、つかむと手首が曲がってしまって力が伝わりづらくなってしまいます。この観点を軸に企画・開発チームでアイデアを出し合い、たどり着いたのが手首を曲げずに持てる輪の形状。都度ヒアリングを挟みながら何度も展開・検証を繰り返し、握った時のフィット感や力の伝わりやすい角度などを細かく調整していきました。最も開発に時間をかけたのがこのグリップ部分で、気付けば半年以上。今日ここに持ってきたサンプルはほんの一部で、この10倍は試作しています。
すごく地道な取り組みですね!柄やヘッドのこだわりについてもぜひお伺いしたいです。
本間:まず、柄については、家庭用の細いものだと、グッと力を入れることでしなってしまい、力が逃げていることがヒアリングを通して分かってきました。そこで、より床に力が伝わりやすい設計を考え、家庭用よりも太めの柄を採用しています。また、柄の長さについては、工業大学と連携して行ったワークショップの結果に基づいて決定しました。柄の長さが異なるS・M・Lサイズのフローリングワイパーを用意して、身長155cmから180cmまでの学生80名に使ってもらい、「一番使いやすかったもの」と「一番使いづらかったもの」をヒアリングしたところ、55%の人がMサイズを「使いやすい」と評価し、「使いづらい」と回答した人は80名中1名だけ。この結果から、使う人の身長を問わないちょうどよい柄の長さを採用しています。
大枝:本商品を「人間工学に基づく設計」とうたっているのは、工業大学で人間工学を研究している教授に、柄の長さ決定の部分で監修していただいたからです。腰に負担がかかりにくい長さを設計に落とし込み、既存品と比較した検証も行っています。
本間:次に、ヘッドについて。裏面はエラストマーという柔らかいゴムのような素材を使っています。一般的な家庭用フローリングワイパーに使われている発砲PEよりも弾力があり、靴跡や飲みこぼし、泥汚れといった職場特有のガンコな汚れに効果的です。エラストマーには様々な硬度があるので、様々な硬度で検証をして汚れが最も落ちやすかった硬さを採用しています。模様は5パターンほどの候補の中から、より汚れを絡め取りやすいメッシュ加工になりました。さらに、「力を入れるとシートがはずれやすい」という困りごとを受けて、表面の挟み込み部分を強化したのもポイントです。
大枝:ただ、あまりに挟む力が強すぎると、指が痛いのでは……という懸念もありましたよね。
本間:そうなんですよね。それもあって、ギザギザの部分を両端に避けたちょっと変わった形になっていて、真ん中にシートを引っかけるように入れ込めば痛みを感じにくい仕様にしています。
今回は専用のウェットシートも同時に開発されたんですよね。
本間:はい。こちらはフローリングワイパーとの相性を第一に開発されました。例えば、ヘッド裏面の効果が最大限に引き出せる絶妙な厚みにこだわったり、ガンコな汚れに効く薬剤を独自に配合したり。一番効果を発揮できる組み合わせになっていますので、ぜひフローリングワイパーとセットで使っていただきたいですね。
大枝:コクヨ ヒビフルは、色覚特性に対応したパッケージを採用していることも特徴です。今回の商品は「汚れ落ちに強い」と主張しているので、これまでにないディープな色合いに挑戦し、少数派の色覚特性をお持ちの方にご協力いただいたワークショップで、商品の違いやタイプの識別のしやすさの検証も行っています。
これまでにない発想を生み出すきっかけをくれたのはHOWS DESIGNプロセスだった
文具の事業部が、掃除用品の開発に挑んだ今回のプロジェクト。そこには、どんな苦労がありましたか?
本間:そもそも掃除用品の開発プロセスも知識もゼロの状態からのスタート。掃除用品を作ってくれる協力工場のツテすらなく、工場探しから始まったプロジェクトは私にとっても大きな挑戦でした。
大枝:工場探しについては、コクヨグループの取引先にも打診はしていたものの、新規性の高い設計だったこともあって、なかなか条件に合うところが見つからなかったんですよね。
本間:そこで、中国にあるコクヨの子会社に協力をあおいで、現地の工場を1軒ずつ視察し、契約した工場との関係構築から始めました。そこからようやく開発段階に入ったものの、商品の設計も品質の基準もイチから決めなくてはならない……。いつもの文具の開発であれば、ある程度決まったベースにのっとって進んでいきますが、商品のバックグラウンドにある仕様・品質・特許など、あらゆるものを自分たちでリサーチしながら構築していく作業は想像以上に大変でしたね。
HOWS DESIGNのプロセスを組み込んだことで、いつもの開発とは違う気付きはありましたか?
大枝:障がいを持たれている方たちと一緒にワークショップをしていると、一般のお客様からの口コミとはまったく別の視点から意見をいただくことが多いと感じました。例えば、フローリングワイパーを使うときに、僕なら右手でグリップを持って左手を柄に添えますが、片手に障がいを持たれている方は、そもそも片手でしか持つことができません。前提条件が違えば困りごとの種類も異なり、思いもよらなかった改良のヒントが見つかることも。グリップをはじめ、そういった意見を随所に反映することができた製品に仕上がっていると思います。
本間:商品開発にあたってヒアリングをすることはこれまでの経験としてもあるのですが、例えば女子高生や社会人男性をターゲットにした商品なら、それぞれ誰にヒアリングすればいいかは明確ですよね。ただ、今回は、多様な人が扱うオフィス用品であり、さらにインクルーシブデザインで目指す「誰にとっても使いやすいもの」という軸があるので、メインターゲット自体を絞りづらい状況。設計ひとつとっても何を基準に決定していけばいいのか?という難しさは常に感じていましたね。そんな中で、大枝さんがおっしゃったように、様々な視点からの意見を落とし込みながら「使いづらさを感じないもの」を目指していくことで、通常の開発プロセスからは生まれなかったであろう最良の形を導き出すことができたと思っています。
12月の全国発売を前に、フローリングワイパーとウェットシートのセットをカウネットにて先行販売されたとのことですが、お客様からの反応はいかがですか?
大枝:ありがたいことに2週間ほどで用意していた100セットすべてが売り切れ、実際に使った方からは「グリップが使いやすい」「汚れが落ちやすくなった」といったうれしい評価をいただいています。他にはない新しい形のグリップが付いた掃除用品なので、もしかしたら敬遠される方もいらっしゃるかも……という心配もあったのですが、現時点ではそのような声はなく、むしろ「棒状のものより良い」と言っていただいているので、チャレンジしてよかったなと思っています。
本間:グリップへの反応が集中するかと思いきや、「柄が太くて丈夫なので、力を入れても安心感がある」という意外な反応もありましたね。私たちが思っている以上に、見た目の安心感も重要なんだ!というのは、実際に販売してみて分かった新たな気付きです。
大枝:全国発売を経てもっとたくさんのご意見が集まれば、それをもとに改良していくことも可能ですし、ご要望があれば、ワイドタイプやサイズ違いなど、シーン別で使えるバリエーションを展開していくことも考えられます。ぜひ一度使っていただいて、使い心地をレビューしていただけるとうれしいですね。
番外編 THE CAMPUS SHOPで使ってもらいました!
コクヨが運営する「働く・暮らす」の実験場「THE CAMPUS」内にあるショップ。白い床には、どうしてもクレヨンのこすり跡や靴跡がついてしまうので、日常的にフローリングワイパーを使用。今回、新商品の「文具のコクヨが本気で消しやすさにこだわった軽い力でスルッと落とせるフローリングワイパー」で掃除してもらいました。
使ってみた感想は?
・ハンドルがあることにより、しっかりと掴むことができて力を入れやすかった。
・自然な手首の角度で持つことができるので、ストレスを感じなかった。
・持ち手の角度が良く、あまり腰を曲げず、力をかけずとも汚れが落ちるのが魅力だと感じた。
・普通であれば力をかけて落とす汚れが簡単に落ちた。
・靴跡、クレヨンの跡が、何往復かせずともスムーズに落ちたように感じた。
HOWS DESIGNプロセスで社会のバリアに気づき解決することで、より多くの人にとって使いやすいフローリングワイパーになりました。
取材日:2025.10.16
執筆:秋田志穂
撮影:松井聡志
取材:HOWS DESIGNチーム