SUTENAI CIRCLE

Vol.10 CASE

コミュニケーションから始まる合理的配慮のために。第一歩としての環境整備をサポートする特集WEBページ

掲載日 2024.05.15

画像:感情豊かな手話を。会話を増やし、人と人のつながりを作るために始めた手話解説YouTube

Interviewee

  • 本澤 真悠子

    株式会社カウネット
    MD本部
    MD3部

  • 吉村 彩

    株式会社カウネット
    CXデザイン本部
    CX戦略部 戦略グループ

  • 小林 悠

    CXデザイン本部
    CX戦略部 広報・ブランディンググループ

  • 平畑 裕基

    コクヨKハート株式会社
    BPO統括部
    ビジネスサービス1部 ビジネスサービスグループ

今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト

今回取り上げるHOWS DESIGNプロジェクト

「合理的配慮の提供」の義務化に対応する事業者を支援するための特集Webページ

2024年4月の「障害者差別解消法」の改正法施行に際し、合理的配慮の提供における基礎となる環境整備について、どのような取り組みができるのかを事例とともに紹介したWEBページ。

How toの提示ではなく、合理的配慮のための環境整備をサポートするWEBページ

2024年4月から「合理的配慮の提供」が義務化されました。今回の特集ページはどのような想いや狙いで作ったのか、教えてください。

本澤:今回、障害者差別解消法の改正に伴って、事業者という立場でも「合理的配慮の提供」を行っていくことが求められるようになりました。合理的配慮について考えていった時、これはハードウェア的に対策をとるものというよりも、個に合わせてソフトウェア的に対応をしていくものなんじゃないかと感じるようになったんです。第三者が介入して何かをするというよりは、個々のケースで当事者と向き合う中で生まれていく部分が多いものなのかなと考えた時に、ものづくりやプロダクトの販売を行っているカウネットにできることは、そうした個々への配慮の前提や土台になる「環境の整備」に関するお手伝いや情報提供なんじゃないかと思いました。

吉村:「合理的配慮の提供」という言葉も、「義務化」ということもそうですが、なんだか難しそうに感じたり、こうした配慮は決まりとしてやるべきことだという印象が強まることで、実際の双方向の対話が生まれづらくなってしまうのではないかという懸念もありました。だからこそ、コクヨの特例子会社であるKハートでの実践事例を盛り込み、「決まった何かを提供することではなく、コミュニケーションを取りながら柔軟に考えていくことなんだ」ということが少しでもイメージできるようなコンテンツを目指しています。

オンラインで取材に参加する吉村(写真右)
実際にページを制作される中で、皆さんの中でも気づきや発見がありましたか?

本澤:企画を始めた当初は、How to的な情報をお届けできたらいいなと話していたんです。けれど、Kハートの皆さんとお話をしたり、一部監修に入ってくださったミライロさんとお話をしたりする中で、結局は個々の特性や性格や好みといった変数が大きい「対人」の取り組みである以上、「これはこうするといいですよ」といった情報は作れないんじゃないかという気持ちに変わっていきました。

オンラインで取材に参加する本澤

吉村:Kハートの事例を盛り込もうという方向で動き出した後、何度か足を運んで実際にオフィスの中を見させてもらったりもしたんですが、基本的に「当たり前にやっている」空気感があるのがすごくいいなと思いました。実際にページにも掲載しているトイレのハンドソープやペーパータオルを複数種置いているお話も、それが「合理的配慮をしないといけないからやっていること」では全くなくて、色々な人がいて、それぞれが使いやすい方がいいからこうしようよと自然に生まれている感じがあるんです。ハードウェアとソフトウェアが共存した、対話によって生まれる合理的配慮ってこういうことなんだなと強く感じました。

平畑:今回、モニター評価という形で、カウネットから送られてきた商品をKハートの社員に使ってみてもらってヒアリングし、良いという声や使いやすいという声が多かったものをページ掲載する流れになったのですが、僕が「これは使いやすそうだな」と思って持っていった商品が「すごく使いにくいです」と言われてしまったり、意外な商品が好評だったりと、僕自身も「え、そうなん?」と戸惑ったり驚いたりする機会は多かったです。商品の特徴の伝え方など、発信の参考になる発見もありました。あとは今回、Webに掲載する写真をKハートの社員が撮影したりもしていて、今後の連携に向けた発見もあったんじゃないかなと感じています。

Kハートの社員によって撮影された写真も活用された特集Webページ

合理的配慮の真ん中には「コミュニケーション」がある

皆さんも戸惑いや発見を経たということですが、合理的配慮について、今後気をつけていく必要がありそうなことってありますか?

小林:今回のページを公開する2週間前くらいに、コミュニティサイト・カウネットモニカの会員を対象に実施した「身近な多様性について」の調査結果を公開しました。その中で、多様性に関する話題については見聞きする機会が多くなったと感じる人が増えている一方で、合理的配慮については20%程度しか認知度がないということがわかったんです。ニュース記事などもまだまだ情報が少なく、そもそもどのようなものなのかが理解されないまま4月を迎えてしまう方も多いのかもしれないと感じました。実際に4月から義務化が始まったわけですが、具体的なイメージはまだまだ広まっていないのかもしれません。

取材に参加する小林。今回の取材は大阪と東京を繋ぎ、オンラインと対面のハイブリットで実施された。

小林:カウネットとして今年はHOWS DESIGNの取り組みを中心に「誰一人取り残さない」というメッセージを表紙に掲げたカタログも作ったのですが、これってすごく強いメッセージだなと思うんです。合理的配慮ということに関しても、そもそも何なのかという部分とともに、自分たちの姿勢が伝わるような発信が必要なのだろうなと感じます。

吉村:そうした状況や言葉の硬さも含めて、ミスリードは起こりやすそうですよね。私は合理的配慮が「上から目線」になってしまうのは嫌だなぁと思っているんです。「障がいがある人は助けてあげないといけない」「義務化されたから助けてあげてるんだ」という話ではなくて、「困っている人がいたら当たり前に助けるよね」という感覚でいたいし、そうであってほしいなと思っています。

平畑:これからは、立場を問わず「言語化」が重要になるんじゃないかと感じています。Kハートで働いていても思うんですが、何か困ることがあった時に「じゃあどういう風に変えていこうか」というところって、どうしても対話で進めていく必要がありますよね。自分がどんなことに困っているのかを伝えることもそうですし、どんなサポートが必要なのかを伝えることも、本当に必要な改善のためには重要になっていきます。サポートをされる立場になる場合も、サポートをする立場になる場合も、どちらにおいても「対話を省かない」ことと「言葉にして伝える」ことが合理的配慮においては必須かもしれません。ただ、自分の困りごとや感覚を言葉にすることって結構難しいことだとも思うので、そうした対話が普段からしやすい関係性を築いていくことも重要になりそうです。

オンラインで取材に参加する平畑

本澤:合理的配慮はコミュニケーションであるというのは本当にそうだなと思います。個人的には、配慮というより職場の改善活動の一環という感覚です。例えば、自分たちのオフィスを改善していく中で、自分が使いやすいように勝手に机を動かしたら怒られますが、会議などでの合意があれば動かすことができますよね。結局はそれと同じで、「その場の利用者や参加者の声をきちん聞く」ということなんだろうと思います。コミュニケーションなので、時には上手くいかなかったりすれ違ったりすることもあると思いますが、SNSやニュースでそういった事例を見聞きしてネガティブなイメージを持ち、避けてしまうような人が増えないといいなとは感じています。

小林:合理的配慮について、内閣府が出しているリーフレットに「障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が示されたときには、負担が重すぎない範囲で対応することが求められます(※)」という記載があるのですが、これだけを読んでしまうと「受け身でいいんだ」「リクエストに応じるということなんだ」と解釈されてしまう可能性もありそうですよね。コミュニケーションという視点で考えると双方向からの関わりがポイントだと思うので、そこのバランスが崩れないように取り組みが進むといいなと思います。

※引用:内閣府発行リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」(P2-3)

Kハートはすでに合理的配慮の取り組みの実践者でもあると思いますが、どうすればスムーズなコミュニケーションが可能になるでしょうか。

平畑:僕自身は、Kハートで働いている中で障がいの有無を特別強く意識することって少ないんです。皆当たり前にそこにいて一緒に働いていて、だから皆が使いやすい場所を作るためには何がいるんやろ? って自然と考えて会話が生まれるというか。先ほどのトイレの例なんかも、最初はポンプ式で上に押すタイプのハンドソープを置いていたんですが、それだと手の麻痺があったりすると使いづらいんですよね。じゃあセンサー式で自動で出てくるやつにするかと思ったら、それはそれで手の震えがある人にとっては難しい。上から押すタイプのポンプ式だとある程度の人が使いやすいけれど、逆にセンサー式の方がいいなっていう人もいる。そんな感じで、じゃあみんながそれぞれ使いやすいように全部置いとこうとなったのが今だったりします(笑)。

ハンドソープやペーパータオルが複数種設置されたKハートのトイレ(写真<p><span>提供:</span>Kハート)

平畑:その例ひとつにしても、「あれ、ハンドソープの減りが遅いな」と気づくことがあるじゃないですか。そうした時に、ちょっとした対話を面倒臭がらないということなんじゃないかなと思っています。数秒のコミュニケーションを怠って勝手な判断で変えてしまうのではなく、そこでちゃんと声をかけて意見を聞いてみる。Kハートももちろん完璧にできている訳ではないんですが、そういうことの積み重ねは大切かもしれません。

吉村:実は私もHOWS DESIGNの取り組みに参加する前までは、障がいのある方と接することに「どうお手伝いしたらいいんだろう」とか「何を気をつけるべきなのかな」とか、勝手に考えて身構えてしまっている部分がありました。でも、実際にお話をしたり一緒にプロジェクトを進めることで、今となってはそんな風に身構えていたことが恥ずかしいなと思うくらいになりました。合理的配慮ということに関して、人それぞれ印象や捉え方も異なっているのが現状かもしれませんが、まず一人ひとりがどのような捉え方をしているのか気づくことから始めて、表現の仕方や行動の差分ってどこから生まれているものなんだろうと考えてみるところから始めると面白そうですよね。

コクヨの合理的配慮への取り組みについて、今後の展望があれば教えてください。

本澤:カウネットを使ってくださっている皆さんにとって有益な情報は、これからもお伝えしていくことができたらと思っています。私たちは自社商品だけではなく他社メーカーの商品も扱っているので、私たちだけではできないことや足りない部分は、他社さんと連携し協力しあいながら取り組んでいくことができるのではないかと感じています。コミュニケーションや多様な連携を大切にしながら、色々な方にとって使いやすい商品、色々な方の人生を変えられる商品やサービスを生み出していくことにこれからも挑戦していくつもりです。

取材日:2024.04.15
執筆:中西 須瑞化
撮影:丸山 晴生
編集:HOWS DESIGNメンバー

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