SUTENAI CIRCLE

Vol.08 CASE

“色覚特性がある方はどのような世界が見えているのか”から生まれた、視認性に配慮した「USBメモリ スライド式」

掲載日 2024.3.25

画像:黒田と田中美咲さんのトークに耳を傾ける社員の様子

Interviewee

  • 宮川 由紀

    株式会社カウネット
    MD本部 商品企画部

  • 小原 弓佳

    株式会社カウネット
    MD本部 商品開発部

今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト

今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト

磁気研究所 カウネット×HIDISC USBメモリ スライド式

スライド式かつ低容量タイプのUSBメモリ。視認性にこだわった5色のカラーバリエーションがあるため、プロジェクト等での色分け管理にも便利な商品。

ワークショップを経て気づいた色の見え方の違いと、それをどのように補うか

今回の商品の特徴と企画の背景を教えてください。

宮川:この商品は、色の区別がつきにくい色覚特性のある方にも識別しやすい本体カラー選定と、印字するフォント・太さにもこだわった5色展開のUSBメモリです。元々、カウネットとしてUSBメモリのPB商品が欠落していたので、そこを補おうということで企画がスタートしました。

小原:カウネットでは主に企業向けの商品を扱っているのですが、ビジネスシーンでのUSBメモリの使われ方として、「複数個を一緒に買って、色ごとにUSBメモリに入れるデータを分けることが多い」という情報を聞いていました。企画を進めていく中で多色展開をしようという前提はそこで持っていたのですが、コクヨ社員の意識としてD&Iの考え方があったことや、1つ1つ色指定のできる商品であるということから、インクルーシブデザインの観点を入れて、多様な人にとって見分けやすいUSBメモリを作ろうということに決まりました。

カウネットの商品に20色展開の「マニュアルリングファイル(※)」というものがあります。この商品も、“見分ける”ということに着目し、ビジネスシーンでファイリングしたマニュアルを管理するとき、背表紙の文字を見なくても「このマニュアルはこの色」というように瞬時に判断できることを目的としたものです。また、私たちはデザインをしたり購入する商品を選んだりするとき、全体的に統一感のある色合いか、ぱっと見で惹かれるかなどの見た目を基準とすることが多いと思います。今回、そのような見分け方や選び方は、色覚特性のある方や視覚障がいのある方にとっても同じなのか、それとも色ではない文字などの情報を使っているのかということを知るためにワークショップを開催しながら開発を進めていきました。

※「マニュアルリングファイル」の製品紹介ページはこちら

ワークショップでは具体的にどのようなプロセスを踏み、どのような気づきを得たのでしょうか?

小原:今回は株式会社ミライロさん協力のもと、色覚特性や視覚障がいのあるリードユーザーの皆さんに集まっていただき、「視認しやすさ」を追求していきました。ワークショップの前半では、対話の中で視認しやすい色を探していきました。既存の「カラーユニバーサルデザイン推奨配色セット(※)」が本当に多様な人にとって見やすいものなのかどうかを知るために、リードユーザーの方に「あなたが商品開発で3色、5色、10色セットをつくるとしたら、それぞれどういう配色を選びますか」と問いかけ、折り紙を用いて配色セットをつくってもらいました。また、それに対して選んだ理由も教えていただくようにしました。すると、ある程度皆さんが視認しやすい色があったものの、何色かに絞るとなると、バランスや統一感にこだわる方もいれば、黒と白と黄などのわかりやすい配色を選ぶ方もいて、やはり、選び方はその人の特性や好みによることがわかりました。また、色覚特性や視覚障がいがある方の中でも、人によって見え方に違いがあるということも改めて実感しました。

はじめは、カウネット独自の視認性が高い配色セットをつくろうと思っていたのですが、前半のワークショップを経て、色だけでない他の配慮が必要だという結論に至りました。

※一般の人にも色の見え方が異なる人にも見分けやすい候補色20色を絞った配色セット

宮川:前半で実施したワークショップの気づきを受けて、後半では、USBメモリを形にするにあたって工夫する点について皆さんと対話をしていきました。事前に、色覚特性がある方の見え方を体験できるメガネやカラーユニバーサルデザイン推奨配色セットを使って視認しやすい配色を想定していくつかの試作品をつくり、ワークショップに持参しました。

そこで、私たちが試作品をつくっていた時はあまり違和感を感じなかった部分でも、リードユーザーの皆さんへヒアリングをしてみると見分けづらいことに気づく場面がありました。具体的には、同類色の見分けにくさは試作段階でも気にかけていたのですが、意外と明るい色と暗い色のようなかけ離れた色でも見分けづらいことがあると教えていただき、不意をつかれました。この経験から、普段の生活では気づかないけれど、私たちの日常は、色覚特性のある方や視覚障がいがある方にとってわかりづらい世界だったのかもしれないと改めて認識する良い機会になりました。

ワークショップでの気づきについて語る商品企画担当の宮川

小原:私も、ワークショップを通じて色覚特性がある方や視覚障がいがある方は見えている世界が違うということを改めて実感することができました。例えば、試作段階では、おしゃれで大人の女性が使いやすいという理由で、USBメモリの色が“濃いピンク”より“薄いピンク”の方が反応が良いのではないかと思っていました。しかし、青・黒・ピンク・白・緑の中から区別をするとなると、明度が近い“薄いピンク”と“白”は見分けにくいということをワークショップで教えていただきました。そこで、今回の場合は、ピンクは濃いピンクを採用し、かつ、人によって色の見え方は異なるので、誰にとっても共通の認識ができるよう、色の名前と容量の文字情報を大きく記載しました。また、文字の色とUSB本体の色の明度に違いがでるように黒のUSBには白字を、その他のUSBには黒字で記載しました。

試作品や商品化したUSBメモリを並べて説明する様子

色にこだわる商品だからこそぶつかる壁

ワークショップで得た気づきを商品に反映していくなかで、苦労した点を教えてください。

宮川:カウネットの商品開発において、視認しやすい商品を開発するという前例がなかったため、「どこまでこだわるべきか」の加減が難しかったです。例えば、ピンクのUSBメモリの外箱のデザインに関して、はじめにデザイナーさんからいただいたものは全体がピンクでその上にピンクのUSBのイラストが書いてあり、字は白を使用しているというものでした。普段なら、見た目が可愛い上に、パッと見てピンクの商品だと分かりやすいのでこのデザインを採用すると思うのですが、今回は視認性に配慮した商品であるため、商品や文字と背景との境目がわかりづらくなってしまうことをお伝えし、デザインの修正をお願いしました。また、ヒアリングから“黒地に白”のほうが“白地に黒”よりも見分けやすいということがわかったので、最終的に外箱は背景を黒にして、ピンクの商品イメージと白字でのデザインにしました。

今回商品化したUSBメモリ(左)と商品の外箱(右)

小原:他に苦労した点としては、微妙な色の違いを言語化することでした。中国にある工場へ発注する際に、ワークショップを経て決めた色を使いたいとお願いしたとしても、全く同じ色を出すことが難しかったんです。メールなどの文面で色の違いを細かく説明することが難しい上に、紙上の色とUSBの素材であるプラスチックになった時の色とでは素材や立体感が違うため、光の反射や見え方に違いが生まれてしまいます。そもそもつくっている人によっても見え方に違いがあるかもしれないので……。なので、最初に「濃いピンク」や「薄いピンク」などのように色を指定して工場でつくってもらい、何パターンかをあらかじめ送ってもらって使用する色を選定するという方法を取りました。先ほどお話しした外箱のデザインや工場とのやりとりなどの苦労は、色にこだわる商品だからこそぶつかる壁だったかもしれません。

ワークショップで使用した何パターンかの「ピンク」の案

「見分けづらい」に気づくことを当たり前に

リリース後の周囲の反応はいかがでしたか?

宮川:お客様からの反応として、「色違いを購入したので、データごとに分けて保存します」というレビューをいただいたり、今回こだわった“色”を気に入ってくださったというレビューをいただいています。売り上げ自体も初月から順調についてきているので、今回の取り組みに対してお客様が応えてくださっていることを実感しています。

小原:カウネットのPB商品は、「プレミアム」と「プライス」という2つの分類があるんです。「プレミアム」は、世の中にまだない価値を反映しているため、その分価格も一般的な水準より少し高く設定させていただいている商品を指します。一方で、「プライス」は、一般に流通している同じジャンルの製品の一番安い価格帯で作られた、お求めやすい商品を指します。今回開発したUSBメモリは「プライス」の分類の商品であるため、あくまでもスライド式かつ低容量タイプのUSBメモリが、お買い求めやすい価格で販売しているということを中心に発信しています。つまり、「視認性に対する配慮はされていて当たり前」といった捉え方をしているんです。

それでも、取材を受けたり社内で特集を組んでもらったりと、注目されているという実感があります。もともと需要のあったスライド式で低容量タイプのUSBメモリに、プラスして視認性の配慮をしていることによって、露出も増え、興味を持っていただきやすい商品になっていると思います。一番買いやすい商品が実は多様な人への配慮がされているという状況になることが理想ですよね。

宮川:全社でD&Iに力を入れていくと決まった時から、チームの方針として「プライス」の商品であっても当たり前にD&Iの視点を入れ、インクルーシブデザインを取り入れたからといって全ての商品を「プレミアム」に設定するわけではないということが決まっていました。今回、初めてのD&Iの観点を取り入れた「プライス」の商品としては、納得のいく形で着地できたと思っています。

リリース後の反応について話す小開発担当の小原
今回の取り組みを経て、今後の取り組みにどのように活かしていきたいですか。

宮川:今回の取り組みを通じて、今までは気にならなかった「見分けづらい」「わかりづらい」ものにも気づくことができるようになるのではないかと感じています。今回はUSBメモリの開発でしたが、それ以外にも視認しやすさが必要だったり、識別要素がある商品群はたくさんあると思うので、より調査を進めながらそれらの商品開発に活かしていきたいと思っています。

小原:今回、初めて「視認性」にこだわるという色の選び方をしてみて、5つの配色セットとしては納得できる前例をつくることができたと思っています。なので、今後はさらに視野を広げて、同じ配色でなくても「視認性」の観点で様々な商品の色を決定していくということを心がけていきたいです。

取材日:2023.12.14
執筆:清水碧
撮影:中西須瑞化
編集:中西須瑞化、HOWS DESIGNメンバー

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