SUTENAI CIRCLE

Vol.06 INTERVIEW

ともにつくる仲間として。特例子会社「コクヨKハート」にとってのHOWS DESIGNとは

掲載日 2024.02.01

カラフルなハウズパークのロゴが添えられた入り口の壁の前でインタビューを受けた西林さんと車いすの近藤さんと平畑さんが横に並び、笑顔でカメラを見ている様子

Interviewee

  • 西林 聡

    コクヨKハート株式会社
    代表取締役社長

  • 近藤 哲史

    コクヨKハート株式会社
    BPO統括部

  • 平畑 裕基

    コクヨKハート株式会社
    BPO統括部

  • (写真右から)

コクヨグループでは、特例子会社であるコクヨKハート株式会社(以下、Kハート)と連携しHOWS DESIGNに取り組んでいます。今回はKハートの3名の方に、これまでの取り組みやダイバーシティオフィス「HOWS PARK」に関してなど、Kハートから見るHOWS DESIGNについてお聞きしました。

はじめに、コクヨの特例子会社である「Kハート」とみなさんの普段の業務内容について教えてください。

西林:わたしはKハートの代表として、組織全体のマネジメントを担っており、障がいを持つ方の活躍の場や機会をつくることを行っています。
コクヨKハートは、2003年9月にコクヨ株式会社の特例子会社として設立されました。現在、従業員126名のうち66名が何らかの障がいを持ち、全社員の半分強がいわば「障がい者」です。

事業としては大きく分けて2つで、印刷・デザイン事業事業と、BPO事業を担っています。印刷・デザイン事業は、コクヨ商品の店頭のPOPをはじめ、オフィス家具の取扱説明書なども作っています。元々は印刷が中心でしたが、現在ではデザインから担うことも多く、30秒くらいの動画制作なども行っています。

BPOは、Business Process Outsourcing(ビジネス プロセス アウトソーシング)の略で、コクヨ社員が行っていた事務処理系の業務を請け負い、デジタル化や効率化を図りながら行っています。例えば、データ入力やメールセンター業務、経理関連業務など50種類以上の業務が存在します。

深い海の色のような青いセーターを着て、両手を広げ語りかける西林さん

平畑:2013年にKハートに入社し11年目です。もともとは印刷・デザイン事業部で勤務し、5年前から今の部署「BPO統括部」に異動しました。コクヨグループからの業務の受託管理、働くメンバーのサポートをメインで行っています。

近藤:BPO事業のデータ入力が主な仕事で、事業の中のオペレーションの役回りを担っています。HOWS DESIGNの取り組みでは、車椅子ユーザーとしての視点をもった意見を伝える機会が多いです。

コクヨはいち早く障がい者雇用を始めたいわれますが、どのような歴史があるか改めて聞かせてください。

西林:もともとコクヨは、戦前から聴覚障がい者と共に働いてきました。1976年に法律で身体障害者の雇用が事業主の義務となりましたが、その35年以上前からです。創業者の黒田善太郎は障がい者雇用は産業人としての当然の責務だと考えており、それが代々続いて今も行われています。

そこからKハートの誕生までには「17人の聴覚障がい者」が転換の鍵となりました。文具を製造する工場で聴覚障がい者が勤務していましたが、2003年に工場統合をすることになった際、その統合先への転勤が難しかった社員がいました。コクヨとして彼らの働く場を作らなければと考え、元の勤務先から遠くない場所に特例子会社をつくろうと管理者数名とその17人でKハートがスタートしました。

チラシ・カタログ制作など小さくスタートしたKハートですが、BPO事業が増え、大人数の組織体へと変わってきました。戦前から続いてきたことが時代にあわせて変化し、そこからHOWS DESIGNへとつながります。

全国にはさまざまな特例子会社が存在しますが、Kハートならではの魅力やユニークなポイントはどのような点でしょうか。

西林:業務の種類の多さが特徴です。一般的な特例子会社は、一律の固定化された単純作業ばかりになりがちなんですが、その点Kハートは、いろんな障がい特性のある人が、いろんな業務をしているという状態が特徴だと思います。

平畑:事業部や部署を越えた様々な業務を担うので、働いていても仕事の切り替えになっていて、気分転換になります。また、自分にとってこの業務は向いていないなと思うものがあった時に、通常だとその会社を辞めて転職するという選択肢を検討しますが、Kハートの場合は別の業務を選べます。業務内容だけでなく、働き方としてもコロナ禍以前から業務や特性に応じてテレワークが選択できたりと、自分にあった働き方ができるようになっています。

作業着を着て、パソコンを手元におきながら優しい笑顔で返答する平畑さん

近藤:実際に働く中でも、自分の特性によってその多くの業務の中から別の業務を選ぶことで、自分に向いているものを行いやすくなるのが良い点だと感じています。

西林:精神障がいのある方は一般的に就職先の定着率が49%くらいと言われています。一方、Kハートでは定着率は90%を超えています。様々な業務を行っているからこそ、あわない業務や部署があれば違う部で復活しやすいのではないでしょうか。それゆえに離職率が低いのも特徴のひとつかもしれません。

コクヨとKハートは共に「HOWS DESIGN」を創りあげていますが、それぞれの役割や関わり方について教えてください。

平畑:HOWS DESIGNでは、Kハートのメンバーは商品開発のプロセスにユーザーとしてワークショップに参加したり、開発中のプロトタイプを使ってみてのレビューをします。私の役割としては、コクヨの各事業部から依頼を受けて担当者と打ち合わせをし、どういう方を対象とした製品なのかを確認します。その上で、メンバーのアサインをしてワークショップ開催の準備などを行います。ワークショップの場では、Kハートのメンバーが意見を言うにあたって言葉に詰まっていたら少しサポートをしたり、参加してくれたメンバーがまた参加したいと思えるような工夫をしています。

近藤:ユーザーとしてワークショップに参加する機会が何度かありましたが、参加前は求められていることに答えられるのだろうか、果たして自分が適しているのだろうかという不安がありました。でも、いざ参加し始めてからは、自分自身の意見を伝え、それが反映されて商品化されていく過程を見た時に、「自分でも商品作りに役に立てるんだ」と思い、それがすごく嬉しかったです。

車椅子に乗り、優しく上を見上げながら、経験したことを思い出し語る近藤さん

西林:HOWS DESIGNの取り組みは、Kハートにとっても大きな変化になりました。この取り組みが始まるまで、Kハートは悪くいうとコクヨから「切り離された存在」だったんです。直接コクヨ社員と関わることは少なかったですし、コクヨ社員からすると業務は依頼するけれど顔の見えない存在だったのだと思います。ミーティングやイベントやワークショップなど多くの場を通してコクヨ社員との関わりが増えていきました。この取り組みがきっかけで、私たちもどこかステージが変わったという感じがしています。

平畑:HOWS DESIGNのワークショップを通して一緒に働いていくことで、インクルードされていると感じます。コクヨ社員とKハート、そしてKハートのメンバー同士でも、これまで以上に「喋る」機会が増えていると思います。

近藤:HOWS PARK(ハウズパーク)※ができたことも大きいです。一緒にものを作る取り組みが増えたことで、刺激をもらえたり、その時間そのものが楽しいんです。実は今まではチームメンバーでコミュニケーションをとることも少なかったんですが、その機会も増え、もっと社員のコミュニケーション活性をしていきたいと思えるようにもなりました。今では私は社員のコミュニケーション活性化チームに参加し、組織内のslackを活用して促進しています。そうすることで、みんなの人柄も知れるし、今後のいろんなきっかけにもつながると感じています。

※2023年6月1日に、コクヨ大阪本社1階にて誕生したKハートの新しいオフィスエリア
https://www.kokuyo.co.jp/newsroom/news/category_other/20230601cs1.html

すでにHOWS DESIGNの象徴となっている、新しいオフィス「HOWS PARK」ですが、みなさんにとってはどのような場になっているのでしょうか。

平畑:まさにHOWS DESIGNの考え方をもとにできた最初の作品とも言えるのが「HOWS PARK」だと思います。様々な人が意見を出しあって作られたダイバーシティオフィスですが、個人的に特におすすめなのは「Calm down area(カームダウンエリア)」です。周囲の音や光で疲れやすい方や、一人の空間でのこまめな休憩が必要な方の利用はもちろんですが、障がいに関係なくたくさんの人が使っていて、今では人気がありすぎて使えない場所になってしまっています(笑)。

困りながらも笑顔でお互いを見つめ、喜びを語り合う、平畑さんと近藤さん。

HOWS PARKの中でも、人によってお気に入りの場所ができたりして、それぞれがそれぞれの心地良い使い方をしてくれていると感じます。HOWS PARKのようなオフィスががいろんな場所に広がっていったら、気持ちをリフレッシュすることにも繋がるし、どんな人にとっても働きやすくなり、生産性向上にも繋がっていくのではと思います。

西林:KハートではHOWS PARKを活用して、自発的に活動するクラブ活動なども始めています。まだ正式オープンしてから半年程度なのもあり、発展途上の段階だとは思いますが、いろんな仕掛けをつくり、そして広がりつつあるのが今のHOWS PARKです。

始まったばかりの取り組みではありますが、ここから先、みなさんが描いている夢や展望を教えてください

近藤:これまで携わることのなかった商品企画に携わり、企画をしていく中でコクヨ本社のみなさんや一緒に働く仲間とコミュニケーションが増えていくことそのものが既に嬉しいです。ここから、自分達が参加して意見を伝えた商品が商品化されていき、それを必要とされる方の手に渡り、いろんな人にとっての役に立つものになったらいいなと思っています。

平畑:私も、去年1年間でコクヨの3事業部のいろんなワークショップをやってきたので、ここから続々と世の中に商品として生み出されることを心待ちにしています。それを使う人みんなに手に取ってもらい、さらに意見をもらい、ブラッシュアップして、また私たちも改善に関わっていく。こんな循環ができていけば、Kハートメンバーにとってもいい刺激になると思うんです。いつか、HOWS DESIGNでできたものでHOWS PARKを埋め尽くしたいです。

西林:コクヨグループ全体が目指す「自律協働社会」に向けて、さらに私たちKハートとしては、その目指す社会を実現するために、多様な個性が「らしさ」を発揮し、ワクワクしながら活躍できる場を創出していきたいと考えています。HOWS PARKはそれを実現する象徴的な場所だと思いますし、HOWS DESIGNの取り組み自体ももちろんその機会になると思います。また、今はKハートが障がいを持つ方の働く場となっていますが、蓄積された知見をもとにコクヨグループ全体のいろいろな場所で働いている状態になればいいと思っています。
ワクワクする未来にむけて、楽しい職場、いろんな仲間と繋がる場をどんどん作っていき、障がいの有無に関係なく、みんなが活躍できる場や機会をこれからも生み出し続けていきたいですね。

コクヨKハート
https://www.kokuyo-k-heart.com/

取材日:2024.01.12
執筆:田中美咲
撮影:福崎陸央
編集:中西須瑞化、HOWS DESIGN チーム

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