SUTENAI CIRCLE

Vol.02 CASE

多様な人が過ごしやすい公共空間をつくる。シーンに合わせて柔軟に変化する 新カウンター「VaMoS(バモス)」

掲載日 2023.12.07

画像:多様な人が過ごしやすい公共空間をつくる。シーンに合わせて柔軟に変化する新カウンター「VaMoS(バモス)」

Interviewee

  • 酒井 宏史

    コクヨ株式会社
    ワークプレイス事業本部
    TCM本部 マーケティング部

  • 林 友彦

    コクヨ株式会社
    ワークプレイス事業本部
    ものづくり本部シーティング開発部

今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト

今回取り上げるHOWS DESIGNプロダクト

VaMoS(バモス)

DXによる庁舎や施設の変化に柔軟に対応するカウンターテーブル。シンプルな設計ながら時代の変化への対応機能と従来の窓口カウンター機能を兼ね備えた次世代型カウンター。

時代に合わせて変化を遂げる、空間に寄り添うカウンター

VaMoSが開発されたきっかけについて教えてください。

酒井:もともと私たちの部署では自治体の庁舎などにも導入されているEFシリーズ(※)のカウンターを主力商材として提案・販売してきましたが、この商品が開発されたのは今から約10年ほど前になります。時代の変化に伴い、今後DX化が進んでいくだろうと考えた時に、必要な機能やカウンターとしての役割にも変化が生じるのではないかという仮説のもと、新しいカウンターの企画が始まりました。
たとえば市役所では、今は申請用紙の記載台があり、そこで手書きした用紙を持ってカウンターへ行くスタイルが一般的です。カウンターの奥にはその用紙の処理をする職員スペースがあり、来庁者と職員はカウンターを隔てて、各種証明書の発行や手続きをひたすら行う場となっています。今後DX化が進んでいくと、WEBによる手続きや証明書の発行が中心となり、わざわざ庁舎の窓口には出向かないで済むようになるでしょう。そうなってきた時のカウンターは、WEB申請の方法が分からない方への対応や、困りごとの相談で訪れた方とのコミュニケーションの場になってくることが予想されます。そのように変化した先の姿を想像しながら、同じチームの濱田が中心になって企画を進めていきました。

※接客時のプライバシー確保とアメニティ向上にこだわって開発されたコクヨのカウンター製品シリーズ。業種・業務に合わせてカウンターのパーツを組み替えて形を変えることができる。

残念ながら今回のインタビューには参加できなかったが、
VaMoSの企画を中心となって担当した濱田萌。

林:私はEFシリーズのカウンターを開発する際のチームにも入っていたのですが、やはり当時は今とは時代も異なりますし、ユニバーサルデザインやインクルーシブデザインのような手法も一般的ではなかったため、リアルな声を直接取り入れるということがどれくらいできていたか?というのは考えさせられる部分があります。今回のVaMoSの開発では、当時多様な人が利用するシーンを想定して必要だろうと思って組み込んだ工夫や機能について振り返る、“ショックだけれど気持ちの良い裏切られ方”ができた経験になっています。

開発過程で、どのような変化や工夫が必要だと見えてきたのでしょうか。

酒井:今回の開発では、何度かに分けてワークショップを行いました。試作を作り、それを使ってみてもらえる機会を作り、改善していくという形です。インクルーシブデザインやユニバーサルデザインの思考の根源にある「多様な人にとって使いやすいものを」というのは、自治体などの公共の場には特に必須の視点だと思います。まずは天板形状について、これまでは長方形が一般的だったのですが、台形のような形に変えて同一のカウンター天板の中で来庁者と職員の距離感を変えられる設計にしてみようという案が内部で出たのですが、実際に車椅子ユーザーの方やご高齢の方に使ってみてもらうと天板に沿った横移動は難しいということがわかり、改善には繋がらなさそうだという発見ができました。他にも、開発メンバーだけの検討の中で、車椅子ユーザーの方や身体の動きに制限がある方にとっては天板の裏に手が引っ掛けられる掘り込みを入れると、座る時に体を引き寄せる際の補助になるのではないかと考えていたのですが、実際はそのような気遣いは不要だということもわかり、驚きと発見の連続でした。

林:今回は「機能を増やす発見」だけではなくて、「不要な機能を減らす発見」に繋がることも多かったですよね。EFシリーズには備えていたキックガードや天板裏の掘り込み、杖を置きやすくする天板の切り込みが「なくても良い」という発見は、当時の自分や開発者の思い込みに気付かされる場面でした。本当に必要な要素を残して洗練させていった結果、コストダウンにもつながったのは意外でした。

取材に答える酒井

紆余曲折を経て開発されたVaMoSの特徴を改めて聞かせてください。

酒井:これまでのカウンターは、連続する本体全てをしっかり連結・固定し、各席を仕切るパーティションもカウンター本体に固定するというものが主流でしたが、様々なリサーチを経て、VaMoSは「もっと軽やかなものでいいんじゃないか?」というアイデアから、パーティションは軽いフレーム素材を採用し、カウンター本体も片側にキャスターを付けて動かせる仕様にしています。職員の方でもレイアウト変更がしやすく、車椅子や歩行具を必要とする方でも利用しやすい仕様・モジュールを追求しました。これから先、必要とされる機能や役割の変化にも柔軟に対応できる、しなやかなプロダクトであることは大きな特徴です。元来の「一度設置したら動かせない」カウンターから、「必要に応じて人の手で配置を変えられる」カウンターへと変化したことは、これまでにない特徴になっていると思います。加えて、キャスターが丸出しになっていると仮設感が強くなってしまったり、安っぽさが出て雰囲気を壊してしまうため、程よく重厚感も感じられるように工夫しました。

林:可動性は重要ですが、「あまり簡単に動きすぎてしまうと怖い」という意見もあったんです。誰もが安心して使えるために、可動性とデザイン性の塩梅は何度もやり直しをされたところだと記憶しています。さらにいうと、EFシリーズでは「車椅子の方専用席」がありましたが、VaMoSは「どの席でも誰もが心地よく使えるカウンター」になったのも大きな特徴です。

多様なオプションによって自在に変化させることもできるVaMoS

聞こえていなかった声が届く、
インクルーシブデザインを社会へと

今回の開発を通して、社内やチームとして気づいたことはありますか?

林:今回の開発は、特例子会社として協力関係にあるコクヨKハートのメンバーと一緒にワークショップを行い開発する初めての取り組みでした。私は参加してもらうリードユーザーの選定にも関わっていたのですが、最初は「インクルーシブデザインをやったことのあるユーザーじゃないと上手くいかないのでは?」という不安もあったんです。ですが実際に開催してみると、Kハートの皆さんが本当にしっかり発言をしてくれたことが印象的でした。もちろん課題もまだまだ多くありますし、場の設定の仕方やテーマ設定なども改善しながら、第一回目、第二回目、第三回目と何度も機会を重ねることで少しずつ良い場になっていったので、今後も模索を続けていくことが大切だとは思います。ただ、これから先も一緒に試行錯誤をしていけるという自信を持てた機会になりました。

酒井:社内でいうと、これまでも営業からは「コクヨのカウンターには多くの機能やノウハウが詰まっているけれど、多くのユーザーはそれらの機能を使いきれていない」と言われていたんです。でも、私たちには「多様な人への配慮にはこれが必要なんだ」といった固定観念があって、いまいちピンとこないというのが現実でした。今回のインクルーシブデザインワークショップを通して、初めてそれらの声と目の前の製品がつながったような感覚があったのは大きな変化だったかもしれません。本来、お客様の近くにいる営業が一番わかっているということもたくさんある筈ですよね。その裏付けをとれたというような、そんな気づきでした。

林:「思い込みが破られる」というのはインクルーシブデザインの醍醐味ですよね。対製品/対人、社内/社外などの隔たりなく、あらゆる箇所に関しての気づきが起こり得るのが良いところだなと思います。

今回オンラインで取材に参加した林

今後、VaMoSはどのような存在になっていくでしょうか。

酒井:官公庁以外にも、銀行やスマートフォンショップ、コミュニティスペースなどの顧客接点が必要とされる場であったり、人と人がつながり接点を持つ交流空間などへの展開ができるのではないかと想像しています。今はあらゆる業種が変化の途中にあると思うのですが、現在の姿と未来の姿が大きく変わる業種において、長く使っていただける製品になるのではないでしょうか。VaMoSをきっかけにインクルーシブデザインを知っていただいたり、社会的にもインクルーシブデザインが当たり前になっていくためのきっかけになったら嬉しいです。

林:VaMoSはインクルーシブデザインを経て誕生した製品ですが、VaMoSだけだと空間は作れません。VaMoSが10年20年と愛され評価される製品になることも重要ですが、それを足がかりとして、もっとインクルーシブなプロダクトを増やしてオール・インクルーシブにしていく必要があると思います。コクヨ社内や社会全体にインクルーシブデザインを浸透させていくためにも、VaMoSはその始まりとして、長く売れ続ける製品になってくれたらいいなと思っています。

取材の様子。今回の取材はオンラインとオフラインのハイブリットで実施しました。

取材日:2023.10.16
執筆:中西 須瑞化
撮影:丸山 晴生
編集:HOWS DESIGNメンバー

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