環境

TNFD提言に基づく情報開示

コクヨグループでは、森林資源を活用する企業として、生物多様性の理解や原料リスク、事業所・周辺リスクの把握に努めています。その推進のための仕組みとして、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の動向並びに内容の理解に努めており、その提言に従って、体制整備、重要課題の評価、取り組みの推進と開示の充実化を図っています。

ガバナンス

コクヨグループでは、「自然共生社会への貢献」をサステナビリティに関する重要課題の1つとして位置づけており、生物多様性や自然環境に関連する課題は、その他のサステナビリティ関連の重要課題と同様に、当社のサステナブル経営体制のもとで統合的に管理・監督しています。
生物多様性の保全や復興など、ネイチャーポジティブに向けた取り組みは、取締役による監督のもと、「サステナブル経営会議」によって、関連する課題の特定、経営判断、業務執行を行うこととしています。「サステナブル経営会議」では、生物多様性を含む重要なサステナビリティ関連課題を統合的に管理・監督しており、取締役会は年2回取締役がサステナブル経営会議より報告を受けることで、サステナビリティに関する経営課題への取り組みについて、取締役の監督が適切に図られるよう体制を整えています。さらに、経営上重要な事項が生じた場合には、取締役会にて意思決定が行われます。

サステナブル経営会議はCSV本部長が会議長を務め、全執行役員で構成される会議体であり、外部環境に関するモニタリングを踏まえ、サステナビリティに関する経営課題の特定および実行計画や予算への反映を行うための審議を行っています。生物多様性に関する課題については、サステナブル経営会議を構成する部会の1つである環境部会にて、全事業部の責任者が参画の下、リスクの特定、戦略への反映を行い、全社体制にて課題の解決に向けた事業の推進を行っています。

なお、サプライチェーン管理には、『コクヨグループサステナブル調達方針・ガイドライン』を定め、内部統制の明確化と取引先との信頼構築を図っています。これらの方針及びガイドラインに則ったエンゲージメントの実施状況も「サステナブル経営会議」がモニタリングすることで、適切なサプライチェーン全体におけるリスクおよび機会の監督を図っています。特に、コクヨグループと密接に関連する木材資源の取り扱いについては、個別に「コクヨグループ木材調達基本方針」及び「コクヨグループ紙・木材調達基準」を定めており、資材の調達に関する合法性・透明性・持続可能性に配慮した、森林資源との調和ある発展を目指しています。

戦略

コクヨグループでは、TNFDの提供するLEAPアプローチの手法を活用し、自然との依存影響関係の特定、自然関連のリスク・機会の特定、及び環境負荷の低減施策やリスク・機会への対応策の検討を行っています。
LEAPアプローチの実施にあたっては、TNFDの開示一般要件を参考として、分析対象とする拠点及び地域、対象となるコモディティ(サプライチェーン最上流にて自然界から取得している資源)を定め、事業セグメントごとでの分析を行っています。
2024年に実施しているLEAPアプローチにおいては、SBTNが開発した「SBTs for Nature」において、紙製品が自然への影響が大きいとされる原材料(コモディティ)の1つとしてリストアップされていることに加え、コクヨグループ全体の仕入れ製品のうち紙関連製品が多くの割合を占めることを踏まえ、「ステーショナリー事業(ノート等事務用品の製造・仕入・販売)」を対象範囲としています。
対象拠点は関連する当社グループが保有する主要な工場拠点及び主要な素材である紙資源の供給サプライチェーンとし、一連の事業プロセスにおける環境影響と想定されるリスク及び機会を調査・分析しています。
一連のLEAPアプローチにおける調査分析プロセスは以下の図1に示す通りです。また、調査分析にあたって使用した外部ツール及び参考情報は、以下の表1に取り纏めています。

図1:LEAPアプローチの実施フロー

LEAPアプローチの実施フロー
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表1:使用・参考外部情報

名称 概要 使用段階 提供/開発元
ENCORE
(Exploring Natural Capital Opportunities, Risks and Exposure)
自然関連リスクへのエクスポージャー(曝露)を調査し、自然への依存とインパクトを理解するために使用されるツール。コクヨグループのサプライチェーン含む事業活動における自然との依存と影響関係の洗い出しに使用。 Locate
Evaluate
Natural Capital Finance Alliance(NCFA)
Global Forest Watch 衛星画像を利用して、森林の状況をモニタリングするオンラインシステム。コクヨグループの木材資源の調達先地域における森林の状況を確認するために使用。 Locate
Evaluate
World Resources Institute(WRI)
IBAT
(Integrated Biodiversity Assessment Tool)
各国の自然保護地域や、IBA(※1)、KBA(※2)、絶滅危惧種の生息域などのデータベースに基づいて、位置情報別に生物多様性に関する情報を取得できるツール。コクヨグループの関連地域における保護地域やKBAの把握に使用。 Locate
Evaluate
国際自然保護連合(IUCN)
世界自然保全モニタリングセンター(WCMC)
バードライフ・インターナショナル
コンサベーション・インターナショナル
Aqueduct 水リスク評価のグローバルツール。コクヨグループのサプライチェーンにおける水ストレス状況や洪水リスクの高さを調査するために使用。 Locate
Evaluate
World Resources Institute(WRI)
Water Risk Filter 水資源に関連する物理的・間接的リスクのスクリーニングと重要性評価をグローバル規模で提供するオンラインツール。コクヨグループの拠点及びサプライヤーの操業地域における水関連の物理的リスク、規制リスク、評判リスクに関連するリスク項目と重要性判断のための指標として使用。 Assess WWF(世界自然保護基金)
DEG(ドイツ投資開発公社)
Biodiversity Risk Filter 生物多様性に関連する物理的・間接的リスクのスクリーニングと重要性評価をグローバル規模で提供するオンラインツール。コクヨグループの拠点及びサプライヤーの操業地域における生物多様性関連の物理リスク、規制リスク、評判リスクに関連するリスク項目と重要性判断のための指標として使用。 Assess WWF(世界自然保護基金)
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  • ※1
    IBA:生息する鳥の種類や多様性を指標とした生物多様性の観点での重要地域(Important Bird and Biodiversity Areas)
  • ※2
    KBA:IBAをベースに鳥類以外の分類群も考慮した生物多様性の観点での重要地域(Key Biodiversity Area)

ステーショナリー事業を対象としたLEAPアプローチでは、グループ内の保有拠点では海外5拠点(タイ・上海・インド3拠点)における水関連リスクが特に懸念されることが示唆されています。また、ステーショナリー事業が展開するノートなどの素材となる木材の調達では、特に東南アジア地域において木材資源の供給のために森林破壊や地域住民の権利侵害といったリスクが想定されることを特定しています。これらの対応に向け、自社拠点においては水使用や有害物質排出の削減に向けた具体的な対応施策の検討や、サプライチェーンコミュニケーションの充実化など、ネイチャーポジティブへの貢献に向けた具体的な対策の方向性が明らかとなっています。

1.依存影響関係の特定

コクヨグループのバリューチェーンにおける自然との重要な依存影響関係には、様々なグローバルデータを参考に、分析対象地域及び拠点での事業活動内容や周辺環境の調査、当社グループの事業活動における自然資源のインプット量及びアウトプット量を踏まえ特定しています。
コクヨグループのバリューチェーンにおける自然との依存・影響関係の評価には、外部ツール「ENCORE」が提供する、事業活動種別ごとの自然との依存影響関係に関する業界代表値に基づく評価を参考に整理を行っています。「ENCORE」における事業活動種別ごとの依存影響関係に関する程度の評価ロジックを参考として、コクヨグループの拠点については実際の事業活動状況(自然資源のインプット/アウトプット)を確認し、以下のようなヒートマップに取り纏め、特に懸念するべき依存影響関係を把握しています。

表2:依存影響関係ヒートマップ

依存影響関係ヒートマップ
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「ENCORE」によるステーショナリー事業の工場拠点に関する分析では、大気汚染や廃棄物、水利用による環境負荷が示唆されました。しかしながら、これらの評価はいずれも「パルプの製造工程」からの排気・排出を懸念するものであり、当社グループの活動実態とは乖離しているものと捉えています。当社グループのステーショナリー事業のうち、ノート等の紙製品の製造プロセスでは、原材料となる紙資源はパルプから加工された半製品の状態で仕入れており、当社工場ではそれらの半製品の加工(主に印刷等)を行っています。したがって自然資源のインプットとしては一般的な上下水利用やエネルギーの利用に留まるため、水の利用のほか、水域への有毒物質、空域への大気汚染物質の排出については「ENCORE」の示す業界代表値に比べ関連性は低いことが想定されます。このことを踏まえ、当社の活動域内における紙製品の製造プロセス上においては、特に懸念される接点は廃棄物の取り扱いや処理による環境影響の懸念が高いと整理しています。一方で、テープのりや絵具、画材を取り扱う工場でも同様に、大気汚染物質の排気、水域への有毒物質の排出、水資源の利用に関して、特に関連性の高い依存影響関係として示されており、本件については有害化学物質の使用実態などを鑑みて、懸念するべき依存影響関係の1つとして識別しています。
また、紙資源の供給網における依存影響評価では、特に森林の伐採や造林による森林資源の生産活動に伴う環境影響及び生態系サービスシステムへの依存性が非常に高く示されており、これらは当社の認識とも一致しています。
加えて、上述の通り当社グループでの紙製品の生産プロセスでは、パルプ加工工程はすべてサプライチェーンの上流にて処理されているため、紙製品の製造プロセスで懸念される大気汚染物質の排気、水域への有毒物質の排出、水の利用など、環境への影響について懸念されることを認識しています。

2.要注意地域の把握

TNFDでは要注意地域を「生物多様性の観点での重要性」「生態系の健全性の高さ」「水リスクの高さ」「生態系サービスの文化的側面での重要性」の4つの観点で判断することを推奨しており、その考え方に従って、IUCNの保護地域カテゴリやKBA(Key Biodiversity Area:生物多様性重要地域)との接点、洪水リスクや水ストレスの状況、自然の変化の状況について、外部の地図分析ツールを参考としながら調査しました。
その調査の結果は次の表通りです。なお、その調査範囲は、拠点所在地を中心に半径1km圏内を対象としています。

表3:要注意地域該当拠点

会社名 施設名 生物多様性の重要性 水リスク
指定保護区 IUCN
保護地域管理カテゴリー
関連性 水ストレス 洪水リスク
株式会社コクヨ工業滋賀 本社工場 県立自然公園(湖東) V 半径1km圏内 Low - Medium Low - Medium
株式会社コクヨMVP 鳥取工場 鳥獣保護区(湖山池) IV 半径1km圏内 Low - Medium Low - Medium
青谷工場 県立自然公園(西印旛)
共同漁業権区域(鳥取県)
V,VI 半径1km圏内 Low - Medium Low - Medium
コクヨサプライロジスティクス株式会社 首都圏IDC 鳥獣保護区(東京港) IV 指定域内に所在 Low - Medium Low - Medium
滋賀NDC 県立自然公園(湖東) V 半径1km圏内 Low - Medium Low - Medium
KOKUYO-IK (THAILAND) CO., LTD. タイ工場 - - - High Extremely High
国誉商業(上海)有限公司 上海工場 - - - Extremely High High
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  • 水リスクにおける評価は、Aqueductにおける評価基準に依拠しています。

2-1.コクヨグループの拠点について

コクヨグループのステーショナリー事業に関連する保有拠点は、主に工場と物流倉庫に大別され、工場については印刷を担う拠点と、文房具を製造する拠点があります。日本工場及び上海工場(国誉商業(上海)有限公司)は紙製品加工工場で、上海工場を除く海外拠点にて筆記具やクレヨン、テープ糊、修正テープといった製品を製造しています。
日本グループ拠点については、紙製品加工工場であるコクヨ工業滋賀、コクヨMVP鳥取工場のほか、物流拠点であるコクヨサプライロジスティクス株式会社首都圏IDCが、鳥獣保護区に所在もしくは近接していることが調査結果から判明しています。また、紙製品加工工場であるコクヨMVP青谷工場は日本海沿岸にほど近く、周辺は共同漁業権区域や県立自然公園に囲まれています。ただし、いずれの拠点においても大気や水域への有害物質の排出は無い、もしくは限定的であることに加え、一部拠点では鳥類の保護を念頭とした対策も実施しており、保護対象の生態系への影響は最小限に抑えています。
一方海外拠点では、Aqueductによる水リスクに関する調査の結果、紙製品加工工場である上海工場、クリヤーブック、PPファイル、テープ糊、修正テープなどを製造するコクヨ-IK(タイランド)にて、洪水リスク及び水ストレス共に高い懸念が示されています。特にコクヨ-IKでは有害物質を含む水の排水を含む水資源の利用実態があるため、注意が必要な拠点となる事が分かっています。
なお、クレヨンや絵の具などの画材を製造するコクヨカムリン(インド)の工場拠点については、半径1km圏内における水リスクはタイ・上海工場と比較した場合には低い評価結果が示されています。一方で、地域特性として、所在するマハラシュトラ州では内陸部等で干ばつ等の水リスクが発生しており、その下流域に所在する当社拠点においても取水制限が懸念されるなど、地域単位で見た場合にはタイ・上海拠点同様に水リスクが懸念される地域であると認識しています。

2-2.主要サプライヤーの操業地域について

コクヨグループのステーショナリー事業に関連する保有拠点は、主に工場と物流倉庫に大別され、工場については印刷を担う拠点と、文房具を製造する拠点があります。国内工場及び上海工場(国誉商業(上海)有限公司)は印刷工場で、上海工場を除く海外拠点にて筆記具やクレヨン、テープ糊、修正テープといった製品を製造しています。
国内グループ拠点については、印刷工場であるコクヨ工業滋賀、石見紙工業本社工場、コクヨMVP鳥取工場のほか、物流拠点であるコクヨサプライロジスティクス株式会社首都圏IDCが、鳥獣保護区に所在もしくは近接していることが調査結果から判明しています。また、印刷工場であるコクヨMVP青谷工場は日本海沿岸にほど近く、周辺は共同漁業権区域や県立自然公園に囲まれています。ただし、いずれの拠点においても大気や水域への有害物質の排出は無い、もしくは限定的であることに加え、一部拠点では鳥類の保護を念頭とした対策も実施しており、保護対象の生態系への影響は最小限に抑えています。
一方海外拠点では、Aqueductによる水リスクに関する調査の結果、印刷工場である上海工場及び、クリヤーブック、PPファイル、テープ糊、修正テープなどを製造するコクヨ-IK(タイランド)にて、洪水リスク及び水ストレス共に高い懸念が示されています。特にコクヨ-IKでは有害物質を含む水の排水を含む水資源の利用実態があるため、注意が必要な拠点となる事が分かっています。

2-3.木材資源の調達地域に関する考察

コクヨグループにとって木材資源は、事業運営上最も重要な自然資源であり、その資源を育む世界各地の林業プランテーションや林業従事者の方々の活動地域を取り巻く自然環境や社会の変化は、持続的な紙資源の利用の上で非常に重要な要素の1つです。当社グループでは木材資源のトレーサビリティの把握に努めており、持続可能かつ健全な形で生産される資源の調達を目指しています。LEAPアプローチにおいても当社グループのサステナビリティ調達方針に則り、資源調達地域における自然関係の状況調査を実施しています。
分析対象としたステーショナリー事業で取り扱う紙製品の原材料には、主に広葉樹由来のパルプを使用しています。しかしながらパルプ用の木材チップは複数の地域から調達された木材資源を複合的に利用しているため、地域別の調達量の特定は困難です。従って、主要な紙製品サプライヤーへのヒアリングを踏まえ、定性的な情報も含め大まかな仕入割合を統計調査し、当社グループに供給される紙資源の主要な原材料調達地域を以下の図2のように整理しています。

図2:木材チップ調達先マップ

木材チップ調達先マップ
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  • 本データは、コクヨグループのtier1サプライヤー各社様へのヒアリングや開示情報に基づいて推定したもので、実績値ではありません。木材チップは、パルプ加工時に調達地域に関わらず混合して加工されるため、正確な仕入割合の算出が難しく、実際の使用状況とは乖離している可能性があります。

この調査からは、コクヨグループが展開する紙製品の原材料となる木材資源の調達先は、ベトナム及びインドネシアを中心とする東南アジア地域に集中し、オーストラリアやチリ、南アフリカなどからも比較的多く資源調達が行われていると推定しています。特定した主要な資源調達地域における森林の状態をWorld Resources Institute(WRI)が提供するGlobal Forest Watchにて確認し、樹木被覆率を指標として森林の状態と、その背景情報について調査した結果を表5にまとめています。主に東南アジア地域において土地の商業転用や林業による人為的な森林破壊が進んでいることが示唆されています。また、オーストラリアやカナダといった先進国では、法令規制等によって林業は活動できる地域等が制限され、森林保護の取り組みが推進される一方、地球温暖化の影響による山火事被害が拡大しており、木材資源の持続可能な調達に悪影響が及ぶことが懸念されます。

表4:主要な木材チップ調達先推計地域における森林状況の調査結果

材料種別 調達先地域 仕入割合
(推計※1
森林の状態※2
上質紙原材料
ベトナム 約30% 国土全体で2000年比で3.56Mhaの樹木被覆減少
主な樹木被覆率の減少要因は商業転用及び林業
国策によるアカシア林業の推進
オーストラリア 約18% 国土全体で2000年比で9.03Mhaの樹木被覆減少
主な樹木被覆率の減少要因は山火事及び林業
国及び州レベルによる森林保護規制が推進
南アフリカ 約16% 国土全体で2000年比で1.60Mhaの樹木被覆減少
主な樹木被覆率の減少要因は林業
政府による森林規制により天然林の伐採及び土地の転用が禁止
チリ 約10% 国土全体で2000年比で2.35Mhaの樹木被覆減少
主な樹木被覆率の減少要因は林業
国家森林局による森林の適正な管理の実施
コピー用紙原材料
インドネシア 大程度 国土全体で2000年比で30.8Mhaの樹木被覆減少
主な樹木被覆率の減少要因は森林伐採
森林伐採事業者と先住民との間で土地利用に関して紛争化するなど問題が波及
ブラジル 中程度 国土全体で2000年比で68.9Mhaの樹木被覆減少
主な樹木被覆率の減少要因は森林伐採
国策として国際的な食品需要拡大を見据えた土地の商業転用を推進
カナダ 中程度 国土全体で2000年比で57.5Mhaの樹木被覆減少
主な樹木被覆率の減少要因は山火事
国による規制のもと、森林伐採は認可制で、伐採時には同等以上の植林を要求
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  • ※1
    仕入割合及び程度は、コクヨグループのtier1サプライヤー各社へのヒアリングから推定したもので、実績値ではありません。
  • ※2
    これらの調査はGlobal Forest Watchを活用したデスクリサーチのもと、2025年2月調査時点の内容をもとに整理しています。

3.リスクと機会の特定

コクヨグループのバリューチェーンにおける自然関連リスクと機会の考察にあたっては、主要な依存影響関係の特定結果、要注意地域や資源調達先地域における森林の状態についての調査結果を踏まえ、当社グループのバリューチェーンに及ぼされるリスクと、当社グループの事業活動やアクションが環境や社会に及ぼすインパクトの双方向の観点(ダブルマテリアリティ)で、その識別と評価を行っています。
関連するリスクや機会の識別には、TNFDの提供するTNFD risk and opportunity registers やセクター別ガイダンスを参考にし、関連するリスクや機会項目を抽出しています。それらのリスクや機会がどのように当社グループに関連するかについては、同じくTNFDが提供するシナリオ分析ガイダンスを参考に、シナリオ分析の手法を活用して、当社グループへの影響や発生可能性を考察しています。
また、リスクの重要性判断には、WWFの提供するRisk Filter Suiteにおける地域別のリスク評価指数を参考としつつ、依存影響の重要性評価結果や自然資源のインプット・アウトプット量などの活動量に基づいて評価しています。
TNFDが提供するシナリオ分析ガイダンスでは、所在する地域や拠点の特性、ビジネスモデルに応じた特有の状況を考慮し、探索的予測を通じて生物多様性に関連するリスクや機会の不確実性について考察することが推奨されています。

2024年に実施したシナリオ分析では、この考え方に則り、依存影響関係の評価並びに要注意地域の調査の結果に基づき、特に重要と考えられる拠点及び地域別に、リスクや機会がどのような形で顕在化するのかを整理し、コクヨグループにおいて想定される財務影響と、発生可能性についての考察を行っています。
シナリオ分析では、TNFDのシナリオ分析ガイダンスにて提供されている考え方の例を採用し、物理的な影響を測る「生態系サービスの低下」、ネイチャーポジティブへの移行に伴う影響を測る「市場と非市場の調整力」の2種類の軸で考察を行っています。設定した軸に基づき、ステーショナリー事業のバリューチェーンにおける主要な拠点や地域をマッピングし、その相互作用を考慮した上で、合理的に予測される将来のシナリオを以下の図3のように設定しています。

図3:シナリオイメージ

シナリオイメージ
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4.分析結果

以上の考え方に基づく評価の結果、以下の表5に示すようなリスクと機会が、コクヨグループのステーショナリー事業における重要課題になると整理しています。
なお、コクヨグループが社会や環境に及ぼす可能性のある影響については「インパクト」、コクヨグループに対して財務的な影響が想定されるものは「リスク」「機会」として整理しています。また、各課題の重要度については、WWFのRisk Filter Suiteにおける関連リスク項目のリスクスコアと、コクヨグループにおける活動量、シナリオ分析を通して想定した発生可能性を考慮して評価したものです。

表5:リスクと機会の評価結果

リスクと機会の評価結果
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5.現在の取り組み状況

今回の分析を通じて特定された重要課題に関連する取り組みとして、コクヨグループ全体では、2011年に「コクヨグループ木材調達基本方針」、2024年に「コクヨグループ紙・木材調達基準」を策定し、持続可能な調達の推進に努めています。また、サプライチェーンにおけるステークホルダーへの働きかけも始めています。さらに、ステーショナリー事業では、コピー用紙やノートにFSC®認証を取得し、持続可能な森林資源の利用促進に貢献しています。
地域貢献努力も進めており、2006年よりコクヨグループでは、高知県の四万十町大正地区の民有林にて、間伐材の有効活用を中心とした森林保全活動を行っております。また、コクヨ工業滋賀では、滋賀県が定めるヨシ(葦)群落保全条例に基づく、琵琶湖のヨシ原の保全活動を支援しており、ヨシの保全活動や、ヨシの保全活動並びに活用による琵琶湖環境の保全・維持に貢献しています。
各取り組み状況の詳細は、「推進のための仕組み」「結の森プロジェクト」「ReEDENプロジェクト」項目をご確認ください。(FSC® C004748)

6.今後の取り組みについて

今回のLEAPアプローチを活用した分析では、紙製品の原材料となる木材チップ資源の調達段階における懸念が強く示され、コクヨグループの木材系資源を取り扱う様々な段階のステークホルダーの皆様とのエンゲージメントの取り組みの必要性を再認識する結果となっています。特に、ベトナムやインドネシアといった東南アジア地域における森林資源の取り扱いについては、森林破壊を助長する可能性がある一方で、適切なコミュニケーションの実施による当該地域の持続可能な森林資源の活用を促すことで、より強固なサプライチェーン構築の可能性を認識しています。そのため、優先地域として特定した各地域に対し、デューデリジェンスプロセスの構築と強化が必要であると判断しています。
また、2024年のLEAPアプローチはステーショナリー事業が対象ですが、今後はファニチャー事業などへ展開し、開示の充実化を図っていく方針です。なお、ファニチャー事業における木材資源の利用状況については、「こちら」をご覧ください。

リスクと影響の管理

コクヨグループでは、自然との依存影響関係並びに自然関連リスクと機会について、定期的に実施する社内外調査結果を基に、「サステナブル経営会議」の環境部会において、全ての事業部の責任者が参画の下、特定・評価しています。
自然関連課題の定期的な調査については、ガバナンスプロセスやデューデリジェンスプロセスなどから報告された課題や要請に対応し、LEAPアプローチを活用した調査及び分析結果を踏まえて識別と評価を実施しています。表5にて示すリスクや機会の重要性評価を含め、識別した自然関連課題は、その「深刻度」と「発生頻度」の2軸評価に基づいて判断しています。「深刻度」については、コクヨグループ及びそのサプライチェーンにおける活動量(調達量及び調達金額、自然資源の利用量など)や、外部の自然関連評価ツールにおける出力結果などを参考に総合的に評価しています。また、「発生頻度」については、コクヨグループの事業内容や関連する地域の特性(政策規制や市場動向)などを鑑みて、シナリオ分析の手法も活用したうえで定性的な評価に基づいて評価しています。これらの2軸評価に基づき、相対的に重要性が高いと判断される項目を優先課題として選定しています。
特定・評価されたリスクに関しては、事業部に共有するとともに、戦略に関しては「サステナブル経営会議」の環境部会を通じて反映、個別事業に関しては各事業部で管理しています。組織全体のリスク管理については、リスク委員会を組織し、コクヨグループ全体でのリスクマネジメントを行っています。
コクヨグループでは、サステナブル経営会議の環境部会と、リスク委員会との連携体制を構築することで、全社におけるリスクマネジメント体制に自然関連課題に関するリスクマネジメント体制を統合しています。環境部会はリスク委員会に対して、リスク管理上重要な事項や環境関連の法規制遵守状況について報告を行います。

図4:リスク及び機会の評価の考え方

リスク及び機会の評価の考え方

指標と目標

コクヨグループでは、コクヨグループにおける重要な環境課題の1つである「重点課題5.自然共生社会への貢献」に向けて、その活動の推進のための指標(KPI)として以下のような目標を設定しています。

表6:「自然共生社会への貢献」マテリアリティ目標

2030年チャレンジ目標 2027年コミット目標 主な取り組み(2024年度実績)
事業活動における自然環境負荷可視化を実現し±0達成
  • ▶紙木調達基準をクリアする商品売上比率:75%
  • ▶自然環境負荷の見える化:主要事業における見える化完了
  • ▶紙/木材調達基準の運用開始
  • ▶森林/ヨシ原保全活動の実施
森林保全(毎年150ha程度の間伐)
  • ▶自然環境保護活動:3件
ヨシ原保全(毎年1.5ha程度のヨシ刈り)
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また、コクヨグループでは自然資源の利用状況や有害物質等の排出状況について、ESGデータ集サイトにて、年次データを公表しています。これらのうち、TNFDガイダンスにて開示が要求される項目で、LEAPアプローチによる分析結果を踏まえた自然関連課題の管理指標については、以下の対照表よりご確認いただけます。

表7:関連指標一覧

Metric No. 自然変化要因 指標 開示場所
C1.0 総空間面積 組織が管理する総表面積 関連データ(E)>拠点別レポート(日本)
関連データ(E)>拠点別レポート(海外)
C2.0 土壌に放出された有害物質 土壌に放出された有害物質量 ー(放出実態なし)
C2.1 廃水排出 排水量 関連データ(E)>水省資源
排水に含まれる有害物質量 関連データ(E)>PRTR法対象化学物質
関連データ(E)>環境負荷マテリアルフロー
C2.2 廃棄物発生および処理 総廃棄物量 関連データ(E)>省資源・リサイクル対策
有害廃棄物量
リサイクル量
C2.3 プラスチック汚染 プラスチック使用量 関連データ(E)>省資源・リサイクル対策
C2.4 大気汚染物質排出 非GHG大気汚染物質の種類別排出量 関連データ(E)>JEPIX
関連データ(E)>PRTR法対象化学物質
関連データ(E)>環境負荷マテリアルフロー
C3.0 水不足地域からの
取水と消費
水不足地域からの取水量と排水量 関連データ(E)>拠点別レポート(海外)>タイ工場
関連データ(E)>拠点別レポート(海外)>上海工場
C3.1 陸/海/淡水から調達する
高リスクコモディティの量
木材資源調達量 関連データ(E)>森林資源
  • ファニチャー製品に利用する木材データのみ
C7.0 リスク 自然関連の移行リスクに対して脆弱な資産、負債、収益、費用 未公開(準備中)
C7.1 自然関連の物理リスクに対して脆弱な資産、負債、収益、費用
C7.2 自然関連の報告対象年次中に受けた自然関連の悪影響のための罰金/罰則・訴訟行為件数 関連データ(E)>環境会計
C7.3 機会 自然関連の機会獲得のために投入された資本支出、融資、投資額
C7.4 自然に対して実証可能なプラスの影響を生み出す製品及びサービスからの収益額
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