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2021.8.27

審査員インタビュー

コクヨデザインアワードの審査員として新たにお迎えした、TAKT PROJECT代表の吉泉 聡さん。「デザインとは可能性を耕すこと」と語る吉泉さんに、コクヨデザインアワード2022のテーマや期待について伺いました。

――  現在、TAKT PROJECTとしてどんな活動をしているのでしょうか。

自主的な制作とクライアントワークを並行してやっています。自主制作では、製品を作るというよりは、新しい価値を感じられるようなものを考えて形にし、それを多くの人に見ていただく機会を作ることが多いです。クライアントワークでも同じような感覚で臨んでいます。

例えば最近、和歌山県で「丸編み」というニット製法を専業とする会社と展覧会を行いました。世界一の技術なので、その可能性を広げておもしろい表現ができないかと考え、ファッションやテキスタイル、建築などさまざまな分野のクリエイターたちと作品を発表したのです。そうした活動を通じて繋がった方々と一緒に、また別のクライアントワークに取り組むという展開もありますね。

2021年7月、東京のギャラリーで行われたニットをテーマにした展覧会「WHAT’S KNIT?展」(写真:小川真輝)

――  キュレーションからものづくりに繋げるという感じでしょうか。

製品というのは、最終的な「果実」ですが、その前には可能性という土を「耕す」プロセスが必要だと考えています。個人的には、その方がデザインとしておもしろいと思っているところがあって。自主制作であれクライアントワークであれ、いきなり製品のことを考えるよりは、その前に色んな人と議論したり、実験したり、皆さんから意見をもらう機会を作ることで、その領域が活性化するようなことに意味があると思っているんです。

――  誰かから課題を与えられるのではなく、みずから課題やテーマを立てて深掘りしていくような。

そんな感じですね。僕のなかでは、デザインってそういうものだと理解しています。デザインスタジオは基本的に受注産業であるとはいえ、自分たちでもテーマを持っていたいし、立場の違う人たちとも一緒にプロジェクトになるのが一番いいな、と思っています。

デザインを志したきっかけ

――  吉泉さんが、デザインを仕事にしようと思ったきっかけは。

僕は子どもの頃から「もの」が大好きで、クルマとか、自転車とか、模型とか、いつでも「あれがほしい、これがほしい」と言っているタイプでした。大人になって、ものを作る仕事に就きたいと思い、まずは身近にあった工学部に進んだんです。

機械工学科の最適設計学という、まさに「最適に設計するための学問」ですね。騒音を出さずに機械を動かすにはどうするか、どうしたら壊れないものを設計できるか、軽量化できるかなど、皆さんが「こっちが正しい」と言う評価軸に対して、工学的にアプローチするんです。研究室で歯車をずっと眺めていましたよ(笑)。

そのうちに、そもそも人がものを欲しいと思う気持ちとか、ものの魅力ってどういうことなんだろう、と考えるようになったんです。もしかしたら、壊れた方が魅力的な場合もあるかもしれない、とか。でも、そういうことって工学の世界では不確定要素として扱いづらいですよね。僕は、どちらも一緒にやらないと本当に魅力的なものづくりはできないのではないか、とぼんやり思い始めて、卒業後にデザインの道に進むことにしました。

――  そうした発想が、TAKT PROJECTの基本になっているのでしょうか。

僕のなかではすでにあるものを疑うとか、別の可能性を考えてみることがクセになっているんです。今のテクノロジーにどんな色をつけたら新しい可能性が生まれるのか。でもそれは、テクノロジーを知らなければただの理想論になってしまうので、TAKT PROJECTでは僕も含めてテクノロジーもデザインも両方知っていることがひとつの特徴になっているのかな、と思います。

――  吉泉さんを含めて、皆さんとにかく手を動かして作りますよね。

頭で考えられることって限界があって、作ってみて初めて「そういうことが起きるのか」ということがあるので、普段のプロセスでもすごく大切にしています。「わかる」って色々種類があると思っていて。言語化できないけれど身体的にわかる感覚、ってあるじゃないですか。僕はそれも心を動かすひとつの知覚として、デザインの上で大切にしています。

――  ところで学生時代、デザインコンペに応募したことはありますか。

公のものはないんです。工学部の学生だったこともあり、デザインコンペに出すという発想がなかった。でも、その後進んだデザインの学校で学内コンペに参加して賞をもらいました。その時、審査員だった佐藤オオキさんに「事務所に遊びにおいで」と言われたので伺って、そのままnendoで働くことになりました(笑)。ですから、割と早い段階からデザインは現場で学んでいる感じです。ある意味、コンペで人生が変わったと言えるかもしれません。

――  コクヨデザインアワードのことは知っていましたか。

もちろん。学生だった僕がデザインを気にし始めた2000年頃はプロダクトデザインがひとつのブームでした。コクヨデザインアワードは“ど真ん中”のデザインコンペとして注目していました。受賞作の商品化も特徴ですよね。自分の考えたものが商品になるってすごいな、と感じていました。ただ応募する暇もなく、寝ずに働いていましたので……(笑)。

テーマについて

――  そうしたなか、新たに審査員として加わった吉泉さんも含めて今年のテーマが議論され、その結果「UNLEARNING」に決まりました。

決まるまでには紆余曲折あって、いったいどういう言葉にまとまるのかな、と少し難しさも感じていました。実は、「shift」という言葉も候補に上がっていたんです。考え方をシフトしよう、というのはデザインそのものの命題だと思っているので、正直、僕のなかではあまりピンときていなかった。でも「UNLEARNING」という言葉は、すっと入ってきました。自分が考えていることと違う可能性もある、ということですよね。デザイナー自身の「UNLEARNING」だけではなく、ユーザーにとっても「UNLEARNING」を促してくれるものがあったらいいな、と思います。

――  日本ではあまり聞きなれない言葉でもあります。

深く学んでいくほどわからなくなることってあるじゃないですか。僕はそれがすごく好きで、「学ぶ→わかる→わからなくなる→さらに学ぶ」という循環が、ひとりひとりの想像力を引き出していくように思うんです。今の社会に対しても問いかけたい課題であり、コンペのテーマとして取り上げるのはとてもおもしろいことではないでしょうか。

――  自身のプロジェクトで「UNLEARNING」の考え方を意識することはありますか。

作り手としてはいつも、誰に対して何を作り提供しているのか、ということは考えています。今の製品って、必要以上に「与えすぎる」ものが多いような気がしていて。なんでもアプリひとつで完結するけれど、本来人間はみずからの知覚や想像力を駆使しながら何かを解決したり、暮らしを営んでいたわけです。
「全部やってくれる」ことが製品のすべてではなく、それを使うことで人間として活力ある生き方を促してくれたり、「やってみたい」という気持ちを高めてくれるもの。僕らも、製品やサービスの開発においても、人間性を開花させるような要素があるといいな、と思いながら取り組んでいます。

今までそれを「素材化」と呼んでいました。素材っていい言葉だと思っていて。音楽の素材とか、小説の素材とか、創造性のスイッチになるような、「自分でやってみたい」と感じられる響きがある。文房具を作るにしても、冷蔵庫を作るにしても、使う人にとっての素材になっているといいな。もう少しみんなを自由にしたり、人間的に自由にしたり、するためのものであってほしい。僕は「UNLEARNING」をそう解釈しています。

自主制作プロジェクト「Dye It Yourself」(写真:林 雅之)

自主制作プロジェクト「glow ⇄ grow」(写真:太田拓実)

――  その上で、今年のアワードに期待することは何でしょうか。

コンペって、アイデアやCGも大事ですが、作ってみることも大事なんですよね。みずからの手で作って、実験して、素材に触れていくうちに、アイデアを超えたところで到達できる領域ってあると思うんです。早い段階からそういうことに取り組んでみたら、今までとは違う次元にいけるかもしれません。そういう取り組みを見てみたいですね。

デザインの役割

――  デザインやデザイナーが果たすべき役割について。コロナ禍によって変化したことはありますか。

僕は、何か新しいことを考えて、それを形にすることがデザインだと思っているので、それはどんな状況であっても変わりません。この1年から2年のあいだに、世の中のさまざまなルールが変わりましたが、僕個人は悲観的になるよりも、むしろ、要ることと要らないことの線引きについて考え直す機会ととらえています。

去年、東北の仙台にラボを構えたんです。広いので、ものづくりはラボで思いきりやろうというスタイルです。また都市とは違った文化を持つ東北という地域について興味をもち、自主的にフィールドリサーチなどを進めているところです。東京とは違う人たちと繋がったり、気持ちよくものづくりができる場所について、以前よりも自由に考えられるようになったのは、もしかしたらコロナ禍以降なのかもしれません。

――  最後に、応募者へのメッセージをお願いします。

「UNLEARNING」とは、これまで自分が学んできたことを問い直したり、解釈をアップデートすることだと思います。それはある意味、デザインの本質に関わる言葉なのかもしれませんが、僕はふたつの視点があると考えています。一つは、応募する人がみずから「UNLEARNING」して、新しい視点でものを作る。もう一つは、使い手の気持ちを「UNLEARNING」させるきっかけになるものを作る。どちらも大事だと思いますが、僕は、今の世の中には後者が足りていないのかな、と感じることがあります。応募者の皆さんがどう考えて、どのような提案をしてくれるのか、とても楽しみにしています。