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2019.7.19

審査員インタビュー

17回目を迎える「コクヨデザインアワード2020」は、国際デザインコンペティションとしてより成長していくことを目指し、審査員として新たに建築家の田根剛氏とデザイナーの柳原照弘氏をお迎えします。テーマ会議のディスカッションを終えた両氏に、アワードについての思いなどを伺いました。

コンペから企業としての考え方が伝わる

――  コクヨと審査員が顔を合わせて議論するテーマ会議がその年のコクヨデザインアワードの幕開けとなります。会議では審査員の方々が、応募者の立場になって議論している様子が印象的でした。まず、審査員として初めてテーマ会議に参加された感想を伺えますでしょうか。

田根:建築を専門としていると、デザインは近いようでいて実際には少し距離があります。僕はこのアワードについて存在は知っていたものの、具体的な応募状況などについては詳しくありませんでした。でも今日の会議を通じて、応募者やコンペに関わるすべての人たちがチャレンジし続けているコンペだと知りました。僕が建築という違う分野の人間だからこそ、あえて審査員として声がかかったのだと認識しています。ものづくりやプロダクト、デザインの専門の方々とは異なる発想やものの生み出し方、あるいは現在はパリを拠点に活動していますが、海外での活動経験が長いので、インターナショナルな視点が審査員として期待されているのだととらえています。

柳原:僕にとってコクヨデザインアワードは、ヒット商品ともなった「カドケシ」(コクヨデザインアワード2002佳作)が強く印象に残っています。ただ文房具をつくるだけではない、面白いチャレンジだと感じた記憶が今も残っています。コンペを企画し商品化する取り組みは、コクヨという企業を広く知らせる機会でもあり、その後の経緯は気にしてきました。話題性があるだけではなく、このコンペから企業としての考え方が伝わってきますよね。そして今日、審査員としてテーマ会議に参加し、その実践を詳しく知ることができました。

歴代受賞作品を見ながら、意見を交わす両氏。「モノや情報を多く知っている現代こそ、才能を発揮する可能性を感じる」(田根)。「今回は挑戦的なテーマ。自由に解釈してほしい」(柳原)。

直感的に見えない力を引き出したい

――  審査員としてどのようなことを意識していますか。

田根:コンペですから提案する側の力量が見られますが、同時に選ぶ側も力量が問われるので、緊張感を大事にしたいと考えています。コンペはチャンスです。一方で、似たような作品が多く集まってしまう傾向もあります。でも1,000を越える応募から選ぶ際は、自分も見てみたい、世の中に一緒に出せたらいいな、という気持ちで向き合いたいですね。建築の審査でもそうですが、寄せられるプランには想定内のものが多くなりがちで、ある程度経験を積んだ立場から見ると、先行きがわかってしまうものなのです。反対に、提案している本人にはまだ明確には見えていなくても、こちらには直感的に作品が内包しているもの、思いもよらない部分が見えてくる場合もあります。それをこちら側がぐっと引き出すことが、選ぶ側としての大きな楽しみなのではないでしょうか。想定外のものをあえてつくってみるのもいいでしょう。新たな才能と出逢うことをとても期待しています。

柳原:田根さんは先ほど、建築という異なる分野だからこそ審査員に指名されたと話されましたが、僕もプロダクトを手がけますが、いわゆる量産品をつくるようなデザイナーではありません。僕たちは共に一般的なプロダクト開発の視点から見るのではないので、あえてコクヨらしさから離れて、面白いものを引っ張り出して、ミスマッチングが起きることに期待しています。コクヨという企業が、いいアイデアがあれば商品化すると言っている。これはデザイナーにとって夢のようなことですが、俯瞰すると、企業がコンペというプロジェクトを通して、課題や問題を見つけ出そうとしていることに気付くでしょう。企業側にとっても発見できる機会になっているのです。コクヨは、単に売れるものをつくろうとしているのではなく、社会に課題を見つけながら成長していこうとしている会社です。お互いが成長していくきっかけになるコンペであると感じています。

田根:そうして、やがてこのコンペが次世代のデザイナーを輩出する場となったら、すばらしいですよね。そのために少しでもお役に立てればと思っています。審査をする立場での参加ではありますが、僕はまだチャレンジャーでいたいので、テーマ会議でも自分だったらどういうチャレンジをしたいかと考えながら皆さんの話を聞いていました。

2019年度の「♡」というテーマについて

――  応募する側にとっても、チャレンジしていく気持ちが大切なのですね。

田根:その気持ちがあれば、どんどん面白いものになっていくでしょう。チャレンジしたいという気持ちを引き出すには、テーマが重要です。今年度の「♡」は、チャレンジングなテーマです。普段の自分では絶対に選ばないテーマですが、議論を重ねるうちに、そこに込められたメッセージを感じとり、他の案よりも押したいという気持ちが高まっていきました。最初は、記号だけみると男性が尻込みしてしまうかもしれないとも懸念しましたが、そこでイマジネーションやクリエイティビティに制限をかけてしまうようならば、既にデザイナーにはなれませんからね。

柳原:でも意外性のあるものだったにもかかわらず、思いの外、すんなりと決まって驚きました。反対意見が多く出るかと思いきや、柔軟に発想していましたね。「♡」にしたことで、以前ならば応募を考えなかったような人たちにも訴求できるのではないでしょうか。僕たちは応募の中から審査する立場ですが、コンペ自体は世に何百もあり、その中から選んでもらっているわけです。どのコンペに力を注ぐか。エネルギーは無限でないので、選んでもらえるきっかけとしてテーマは重要なのです。

――  今回は、コクヨの印象も変わるようなテーマになったといえるかもしれません。

柳原:多くの人がコクヨと聞いてイメージするのは、堅実さではないでしょうか。でも実際は、すごく柔軟だと思います。柔軟性や発想力において、みんながイメージしがちなコクヨとは違うものがある。それを商品ではなく、コンペというアプローチを通して知ってもらえるのが、面白いですね。

国際的コンペならではの多様な視点で評価したい

――  昨年は世界50カ国から、総数の41%を占める応募が海外から寄せられました。国際コンペとしてより成長していくには、今後、どのようなことに目を向けるべきだとお考えでしょうか。

田根:国内でのプロジェクトにおける常識のようなものからは離れて、違う視点で見ていきたいと思います。そもそも僕は海外に出て20年ほど経つので、日本のデザインの現状についてあまり詳しくありません。そうしたことに囚われずにやらせていただけそうな審査員が集まっているので、楽しみなんです。近年の受賞作を例にすると、コクヨのイメージも影響していると思いますが、シンプルで白っぽいものに偏っている印象がありました。そんななか、前回の優秀賞を受賞したインドのSochによる画材セット「Palletballet」は、国際コンペならではの作品で、日本からは出てこないような発想で魅力的に感じました。

柳原:審査する側の偏らない視点は必要ですね。商品化が前提としてあると、どうしても色使いや形に、日本で売れるかどうかという判断基準ができてしまいます。でも海外からはそのようなマーケティングの視点のない提案が届きます。「Palletballet」は、色鮮やかでろくろの造形が見事な容器に目を奪われ、プロダクトとしての所有欲を満たす作品となっていました。日本は色を無難に選びがちですが、色をコンセプトのプライオリティとして重視するデザインだってあるのです。いろいろな視点があるなかで、選んでいきたいと思います。

――  柳原さんは会議の中で、コクヨデザインアワードのことを「関係性」という言葉を使って表現されていました。

柳原:プロダクトはデザイナーのアイデアだけでは商品にはなりません。相手がどういうものを求め、どうしていくのか。歯車みたいな関係性なんです。野球で喩えると、ピッチャーが速い球を投げないとバッターはホームランを打ちにくいのと一緒で、そういう関係性は通常のコンペになかなかはありません。だからいいアイデアは生まれにくいんです。でもコクヨデザインアワードは、関係性の中からものが生まれているように感じます。だからアイデアを出す側も速球を投げていくことを意識するようになる。僕は双方の関係性を意識しながら取り組みたいと思っています。

――  コンペだけで終わらず、商品化という関係性もありますね。

柳原:審査し、賞を授与した後にものをつくっていきますが、それは一方的に商品化するのではなく、作者と共につくりあげていく関係性があり、そこには商品として売っていく企業としての責任もついてくる。これでは売れないだろうと却下するのではなく、これをどう市場に展開していくのか、考えていく。それはお互いのチャレンジでもあるのです。そういうチャレンジが見えてくる結果になることも期待しています。

夢を共有し、共に成長していく

――  コクヨにとっても可能性を秘めたチャレンジで、畑を耕すような活動です。

柳原:通常のコンペは、賞金を授与したらそれで責任が終わるというのが多いと思います。カルチャーとは、カルティベート、耕すが語源です。1回のコンペのこととしてではなく、これまでの17年で耕してきた結果、蓄積したものから可能性が生まれてくるのではないでしょうか。まさに文化をつくっているんですね。この活動が、文化になっていると言っても過言ではありません。

――  建築とプロダクトではコンペのあり方は異なりますが、ご自身の経験をふまえ、コンペに対する思いを語っていただけますでしょうか。

田根:建築のコンペは一人しか勝てないし、勝つことによって人生が変わるので、毎回、本気で挑みます。そんなこともあり、最近は年間で1、2回しかできません。だから本気でチャレンジすることが絶対条件なのです。軍用滑走路を再利用した「エストニア国立博物館」や、新国立競技場国際デザイン競技案「古墳スタジアム」など、これらの作品がなかったら、いまの自分はなかったと思っています。もちろん結果が実らなかったコンペもいくつもあります。でも、それらがなければ、古代から未来へ、記憶をつないでいく今の考え方も出てこなかったでしょう。その人のチャレンジした結果は、がんばっただけの力がつく。そういう場をどれだけつくり出せるかが、クリエイターとして成長していくためには必要なのではないでしょうか。コンペには夢があります。でも一步を踏み出さないと得られないものもある。やってみたいという思いがあれば、ぜひ、踏み出してほしいですね。

柳原:僕はコンペに応募したのは若い頃の一回だけですが、自分がデザインをするうえでのベースとなる、企業が何を求めて、何を提案するべきなのか。関係性の中からものが生まれてくるということを、コンペを通して実感できました。コンペには夢があると田根さんはおっしゃいました。コクヨデザインアワードは、夢を共有するような関係のコンペです。お互い成長できる。僕ら審査する側も、応募する側も成長できるようなコンペになっていくことを願っています。