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漆デザイナー・桐本泰一さんの挑戦

新しいページをひらく人たち(4)
2020/03/30
大きな変化が期待される2020年。この東京で、日本で、この世界に驚きと変化をもたらしてくれる人たちにインタビューします。新しい変化を起こす人たち、挑戦する人たちの話は、私たちの日常にもちょっとした勇気を与えてくれるに違いありません。今回は、石川県で、漆(うるし)と木工を製造販売されている「輪島キリモト」七代目・桐本泰一さんにお話を伺いました。

石川県の能登半島北部にある輪島市の伝統工芸「輪島塗(わじまぬり)」は、小学校の教科書でも伝統的な技術を活かした工業として紹介されているため、一度は耳にしたことがあると思います。この地で長く輪島塗に携わってきた「輪島キリモト」は、現在は、木工や漆器の製造販売で「木と漆の創作工房」を営んでいます。伝統を重んじる世界で、実は「輪島塗」とは謳ってない商品や、これまで漆が使われてなかった場面に用いたり、枠にとらわれない技法で、数多くの工芸品を生み出していることが最大の特徴です。

木地を手に生き生きと話される桐本さん。朴(ほう)の木は、適度に柔らかく刳(く)りやすいという。

輪島キリモトについて教えてください。

木と漆に携わってきた家系としては、二百年七代続いています。現在は、輪島塗と言われる技法ではないものも扱っています。もともと「木地(きじ)業」といわれる木を彫ったり、箱を組んだりする加工を生業としてました。いわゆる下請けですが、それが悪いってわけではない。ただ、自分でデザインしたり、作りたいものを造って行こうと決めて、いまでは木地から最終工程まで一貫した生産を行っています。その中で、輪島塗の技法、ノウハウなどを使って、新しいものを創っているので、「木と漆の創作工房」と名乗っています。

箸に漆塗り作業をする職人。

木の香りと色合いが心地よい工房。素材や工程ごと様々な道具が使われるが、刳る作業に使われる「豆がんな」は5cmほど。

01

美しさだけではなく、しっとり口当たりがよい漆器

いろんな技法などがあるようですが、そもそも「輪島塗」って何ですか?

「輪島塗」は、いろいろな手順で下地を施したり、使う材料などが決められています。その定義で作られたものだけが、「輪島塗」と言えるものなのです。例えば、下地に使う珪藻土(けいそうど)なども、輪島漆器組合員にしかにしか提供されないようになっています。

漆塗りの表面は、分子レベルで乱反射して、ぼうっと見える。使い込んでくると、表面はいろいろなもので隙間が埋まり、平滑になって光沢のある遣い艶がでてくる。

輪島で作られた漆器すべてが「輪島塗」ではないんですね。漆器の魅力は何でしょうか。

漆器の良さは、磁器陶器と違って軽くて扱いやすく、しかも修理もできます。その他にも、食べ物の色を映えさせる、美味しそうに見えるというような、特性が漆にはあります。これは、後ほど説明しますが、単に美的感覚のようなものではなく、分子構造上の特性でもあります。それと、扱いにくいという誤解もありますが、傷もつかないし、酸やアルカリにも強いので丈夫で長持ちします。金を溶かす王水にも溶けないんですよ(笑)。

他の塗料との違いでいうと湿度が重要で、気温25度湿度70%の状態で乾きます。H2O(水)を抱えながら存在するので、乾いているけどしっとりとした感触になる。器にした場合に、口につけたときの柔らかさ、やさしさ、感受性の高い皮膚(口や指など)とダントツに相性が良いんです。

能登は梅雨が長く、降雪が多いので、年間を通じて湿気があります。北陸3県は降水量が全国トップクラス。
そういう土地柄なので漆器の生産に向いています。土壌も肥沃なので、キノコなどの農作物も豊富に採れますよ。

漆の特徴を分子レベルの話で説明してくださった桐本太泰一さん。

02

あえて伝統技法から離れることで、
様々なシーンで漆を伝えることに挑戦

数多くの仕事をされていますが、これまでの一番の挑戦はなんでしょうか。

桐本さんが手掛ける漆器や、漆を使ったインテリアやテーブル。国内外のレストランやホテル、ショップで使用され、モダンで華やかな雰囲気を演出する。

やはり一貫生産をしたことですね。分業制の世界では珍しい挑戦をしたのですから、いろんな意味で大変です。一貫生産することで、仕事の幅も広がってたくさんの挑戦をすることになりました。イタリアンの食器、ラグジュアリーホテルのバーカウンター、来年オープンされる日本橋駅のリニューアルなどにも携わりました。

大変だったことと言えば、能登半島地震で、甚大な被害を受けたことがあります。これはもう大変でした。そんな時に、「いつもの漆」という本を出版してたことがきっかけで、ルイ・ヴィトンが手を差し伸べてくれて、集英社の雑誌「SPUR(シュプール)」と組んで、輪島塗を助けようとチャリティイベントをしてくれたことがあります。最初電話を頂いたときは疑いましたよ、嘘でしょって(笑)。

ところが、その依頼を工房で話したら、職人から「断れ」って言われて。「え~!」震度6で尋常じゃない時に、大きな注文を頂いたのに驚きましたよ(笑)。よく話を聞くと「難しい形だから、できなかったらどうする?」っていうことだったんです。結局、説得して受注することにしましたが、職人さんとトラブルを起さないのも大事なんです。

すごいお話ですね。そのように、いろんな挑戦をされる原動力は何でしょうか。

好きなことだからでしょうね。だから、喜びや達成感を得られるし、漆をもっと知ってもらいたい、当たり前にしたいという気持ちでいます。あと、逆境になると燃えるタイプ(笑)。アドレナリンがぶわっと出るんです。自分の好きなことを決めておかないと、これは出てこない。

役割としては、経営者、デザイナー、職人、いろいろやってますが、デザインプロデューサーというのが一番しっくりきますね。僕は、優秀な経営者じゃないです。自分が作りたいものが一番になっちゃうから。図面を描いてるときが一番面白いですね。

スケッチから、木を刳って、塗装し、仕上げていく。この作業は何層にも及ぶ。

仕事をうまくやっていくコツみたいなものはありますか?

何事も小まめにするってことでしょうね。そして、新しいことをすることに意欲をもつこと。商談でも何気ない雑談の中でも、関連する写真やサンプルをその場で見せることでプレゼンの場になる。そしてすかさず、サンプルを貸し出すんです。昔、建設現場の事務所にいたときに、たくさんのサンプルを渡しても、相手はタダでもらったものは、しまい込んで見ない。そんな様子を目の当たりにしていたので、サンプルは貸し出すことにしています。そうすると、返さないといけないので見てくれるんです(笑)。

スマートフォンやタブレットで、作品を紹介する桐本さん。

色や質感、表現の豊かさを伝えるサンプル。

03

自分にあったツールを使いこなした仕事術

たくさんの仕事をこなされていますが、よく使われるツールなどありますか?

メール、メッセンジャー、タブレット、ケータイ、方眼紙、シャーペン、MACですね。MACはQuadra時代からずっと愛用しています。

実は新卒で2年ほどコクヨで働かせて頂いたからではないですが(笑)、方眼紙や集計用紙をずっと愛用しています。実はコクヨで初めてCADを使った人間なんですが、手書きが好きです(笑)。

新聞を広げて読みたいタイプなので、資料もデータでクラウドとかに入れると、どこにやったかわからなくなっちゃうから、書類を全部もって肩掛けカバンに入れて持ち歩いていたのですが、姿勢のバランス崩して体を壊したので、いまはリュックに入れています。

愛用の方眼紙に書かれたアイデアスケッチ。

お聞きするエピソード一つ一つが豪傑ですね(笑)これからどんな挑戦をされていくのでしょうか?

世の中が変わってきていて、商売も変わってきている、その中でキリモトが今後どうしていくのかといえば、漆を当たり前のものにしたい。例えば、ふつう、漆器は傷がつくのでナイフやフォークは使えない。ところが、輪島塗の下地に使う珪藻土を、表面にも使うことによって、フォーク、スプーン、ナイフを使うようなイタリアンレストランでも使っていただけます。これは輪島塗とは言えないが、新しい用法です。このように今の時代にあった、新しい使い方を提案しています。

輪島の珪藻土を表面に塗った蒔地技法で、表面に傷がつきにくくなる。

04

道具で生活を豊かにするということに挑む。

漆器は決して安くはないので、そんなに売れるものではないですが、いまの暮らしの中で、「気持ちの良い素材」としてもうちょっと存在感を出したいし、生活の中でほっとさせるものを提供したい。そのためには、どうすればよいか。構造、性質、工程全てに、疑問と質問をあびせて、そこから再構築していっています。

食器として使っても味は変わらないけど、しっとりとした触感を与える。人をほっとさせる要素を持ってる道具が漆です。その漆の魅力を伝えていくこと。「深み」があって「ふっくら」「しっとり」するので、食べ物の色味も、口当たりも変わってきて、食事が豊かになる。そんな漆の伝道をしていきたいです。

食べ物の色を映えさせる、美味しそうにみえるのも漆の特性の1つ。

これから挑戦されようとする方たちにメッセージをお願いできますでしょうか。

「好きこそものの上手なれ」です。何をするにせよ、自分がやろうとすることを本気で好きになる。そして挑戦をとめないことです。

あとは、「ダメ」と言わない。言霊ってあると思うですね。自分で発した言葉が、自分を洗脳しちゃう。「できない」ではなく、「こうできないか」って言うことが肝心です。周囲にも、「この人本気だな」って思ってもらわないと仕事も回ってこない。僕は「任せてくれたらやります、できます。」と言うことを大事にしています。

やはり好きなことがが一番ですね。桐本さんのうるし愛がいっぱい伝わってきました。本日はどうもありがとうございました。

「輪島朝市」にある輪島キリモト本町店。定番の輪島塗はもちろん、思わず使う場面を想像したくなる器からかわいらしい小物まで購入することができる。

職人的な芸術肌という先入観を持って桐本さんにお会いしましたが、実際にお話を伺うと、日付や数字が会話の随所に出てくるような理論派でした。また、数々のエピソードの一つひとつに、たくさんの人の名前が出てくるところあらも、人を気に掛ける人情豊かな方であることが伺えます。能登地震やリーマンショックなど、数々の苦難を乗り越えてきた苦労の人であるからこそ、語られる漆の優しさにも惹きつけられました。

お話を伺ったあとには、わが家にも漆を1つ置きたいという気持ちになりました。これまで、漆を敷居の高い装飾品として捉えていましたが、ふだんの生活を豊かにしてくれる可能性を大いに感じました。いきなり家族分のお膳を揃えるのは難しいですが、1つずつそろえたり、ぐい飲みを買ってみたり、そういう楽しみ方から取り入れてみたいですね。

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