結の森座談会
第十回 森と水の研究者が「結の森」に注目するわけ
筑波大学の水文地形学講座の先生に聞く
「結の森」は、地元・四万十町や高知県の方々など多くの皆さんの支えにより運営されています。そのなかで、茨城県から片道1,000kmの道のりを四万十町に駆けつけてくださっているのが、筑波大学大学院の恩田裕一先生と学生さんたち。不思議な縁によって結ばれた恩田先生と「結の森」の関係についてお聞きしようと、先生の研究室を訪ねました。

恩田裕一(おんだゆういち)先生
1962年、新潟県生まれ。筑波大学大学院生命環境科学研究科准教授(理学博士)。
地理学の分野を振り出しに、水の循環、土砂の生産、土地利用、洪水などについて調べる「水文地形学」の研究に着手。日本でも数少ないこの分野のエキスパートとして、国内各地はもちろんアメリカやモンゴル、インドネシアなど海外調査でも豊富な実績を残してきた。一方、プライベートでは子煩悩なお父さん。研究室のパソコンの壁紙は、プールで遊ぶ息子さんの"フルサイズの笑顔"だ。
人工林の中は“木の生えた砂漠”
恩田先生にお目にかかるのはいつも自然の中なので、研究室での先生には新鮮な印象を受けますね(笑)。

調査装置の設置はすべて手作業
私たちの研究は、山や森林、川といったフィールドでデータを取ることから始まります。研究室にばかりいたのでは、仕事にならないんですよ。
9月の「結の森」モニタリング調査では、間伐林から流れ出す水の流量調査について学生の皆さんに中間まとめと発表をしていただき、ありがとうございました。発表を聞かれた高知県庁の文化環境部の方や森林組合の皆さんも、高く評価されていましたよ。
今年の1月にパーシャルフリューム(流量測定機器)を設置して以来、おかげさまで「結の森」での調査は順調に進んできました。大学院生を中心に研究班を組織していますが「結の森」で得られたデータからいくつかの重要な仮説も立てられており、彼らにとっても非常にありがたい実践的な勉強の場になっています。
ところで恩田先生は「結の森」以外にも三重県や長野県などいろんな地方の山で調査を続けておられるそうですが、どのようなテーマについて研究されているのですか。
ここ数年は、森林の荒廃が自然環境に及ぼす影響を実地的に調査しています。
具体的にはどういうことなのでしょうか。
最近でこそ、間伐などの手入れがされていない森林は土地が痩せて雨水を貯める能力が落ち、雨が降るとすぐに泥水が川に流れ出すことが理解されてきましたが、少し前まではそうではありませんでした。間伐のされていない人工林でも雑木や草などが自然に生えて、それなりに植生が回復してそれらの力で、雨水が蓄えられると考えるのが一般的だったのです。しかしこの“定説”をデータに基づいて実証した人はほとんどいません。私はそこに疑問を感じ、条件の異なる各地のさまざまな森林で人工林の荒廃と土壌の保水力の関連性についてのデータを集め、真実はどうなのかを明らかにしたいと思っているのです。
そうしたテーマに興味を持たれたきっかけは、何だったのでしょう。
15年ほど前、ある研究で人工林に足を踏み入れたときのことです。その山にはヒノキなど人が植えた針葉樹は生えているけれど、その他には草も木もまったく見られません。足元の土は雨水によって侵食され、何本もの溝が掘られていました。土が固まったために雨水が山にしみ込まず、泥を巻き込みながら一気に川に流れ出して行く、いわば「砂漠」なんです。いったいなぜこんな状況になってしまったのだろうと思って聞いてみたら「この森は植林しっぱなしで手入れがされなかったために、土地がすっかり荒れて、他の草木が育たなくなったのです」と言われたのです。このときの経験が、人工林の保水力について調べようと思った発端です。
日本中の人工林が、そういった状況だったのですか?
まずその点を調べることが重要です。そこでいろんな研究者の方々と多くの森林を調査したり、文献を調べたりしたのですが、各地で人工林の荒廃によって山の土壌に問題が起きていることが分かりました。
四万十町の場合は、間伐がされていない人工林から濁った雨水が四万十川に流れ込んだために、きれいな水を好むウナギやアユが減り、ナマズが増えたという話を聞きましたが。

調査区画に人工的に雨を降らせて、土の吸水量を測定
同じような川や海の環境破壊は、多くの場所で起きていると思いますよ。森林は日本の国土の約7割を占めていますが、温暖化の抑制や資源保護の観点などからその価値を見直そうという気運が高まってきました。この動きに弾みをつけるためにもさらに調査を進め、適切な間伐を行うことが山の土壌を守り、川や海の環境保全にもつながることを実証的に示したいですね。
| 結の森とは | イベントレポート |
| 四万十高校生によるレポート | 結の森座談会 |




