その人は、夢を手で書き実現する。「てがきびと」

第1号「こだわりを書く人」みうらじゅん




窓辺には怪獣やら仏像やら…何やら分からぬフィギュアが所狭しと並べられています

スクラップは資料じゃない、作品なんだ!

もう、僕ね、完全にコクヨ派だから。

── のっけからチカラの入る、みうらじゅんさんなのである。

だって、これ見てくださいよ。僕がね、小学校2年の時のスクラップ。ほら、コクヨのラ-40でしょ。

── なるほど、怪獣の写真やイラストが所狭しと貼付けられたその年季の入ったスクラップブックには、「昭和40年」と記されてます。

確か、ラ-40の発売って昭和39年だから、僕はず~っとコクヨと一緒に育って来たわけ。それで、ついこないだですけど、全部で360冊になりました。

── うわ! ホントにたくさん有りますねえ。怪獣に仏像系に…。そもそも、なんでスクラップにハマったんですか?

母方のおじいちゃんがやってたんですよ、古美術関係の新聞記事なんかを集めててね。その影響があるのかなあ。

── 怪獣にしろ仏像にしろ、写真やイラストの脇には自筆で文章が添えてありますね。小学生だったみうらさんが一所懸命に書き込んだ文字。

はあ、確かに筆書きみたいです…

スクラップってね、これ、資料じゃないから。僕は作品だと思ってますから。

── 確かに一冊一冊、雑誌か書籍の趣があります。

レイアウトを考えてね、貼付けて、文章を書いてね。編集長からデザイナーから読者まで、全部ひとりでやって楽しんでる。

── そうか、みうら少年は編集者だったんだ!

これなんか、俳句まで書いてますね、仏像写真の脇に。しかも、まるで筆で書いたかのように書体を崩してあるのね。当時、まだ筆ペンなんて無いですから。

── で、こういうスクラップを作るにはコクヨが最適だったと。

この紙じゃないとしっくり来ないし、この背表紙じゃなきゃダメ。コクヨのラ-40にヤマト糊で貼付ける、この組み合わせじゃないと。でね、年月重ねるとこういう風にベコベコになってくるでしょ? これがまたいいんです。

ああ、ベコベコ感が、たまりません

── かなり、ベコベコしてます。

この背表紙じゃなきゃダメなのよ

このベコベコをめくる時の感触と音が、いいんです。僕ね、一度、これをめくる音を録音して配信したことがあるんですよ。「さあ、これは何の音でしょう?」ってクイズにして。誰も分かりませんでしたけどね。

── スクラップって眼だけじゃなくて、指や耳、五感全部で楽しめるんですね! 他の人たちもやればいいのに。

今、スクラップブック使う人って、せいぜい領収書貼ったりとかね。もっとスクラッパーが増えれば良いんですけど。おかげで近所のコンビニじゃ売ってなくて。僕なんか、どこかのお店で見つけたら全部、大人買いですよ。

── 確かにコンビニじゃ見かけないような気がします。

ね。でも僕が買い占めれば、きっとそのお店、また仕入れてくれるんじゃないかなと思って。だからラ-40がバカ売れしてる地域があれば、それはきっと僕が住んでる町です。

── そうやって360冊。この先もきっと増えて行くんでしょうけど、良くこんな昔のものまで保存してあったもんですねぇ。

裏のページにも良い写真があったら? 2冊買えば良いんです!(きっぱり)

そう、普通、親は捨てちゃいますよね、子供が大事に取ってある雑誌やなんか。だけどスクラップという作品にしちゃえば、それはもう捨てられない。アンチ断捨離としての作戦でもあったわけ。

── これは貴重な作品群だなあ。

だから僕ね、時々、悪夢を見るんです。

── 悪夢?

うん、神田の古本屋街かなんかで、自分が死んだ後、このスクラップ達がバラ売りされてる夢。うわあ、それは耐えられない。これは全部揃えて誰かに渡して死にたいくらいなんですよ。

── うん、分かります、その気持ち。

あ、そうだ。ねえ、コクヨ記念館みたいなもの、ないんですか? ある? そしたら全部寄贈しますよ、僕。ああ、それがいいなあ! そうしましょう!

コクヨは湿気に強いのだ

── ところで、みうらさんって原稿は原稿用紙に手書きだとお聞きしました。

幼年期にして、すでにイラストレーターであります

うん、こないだ言われたんですけど、今、手書きで原稿入れてるのって、まわりでは僕と、泉麻人、大槻ケンヂの3人しか居ないんですって。

── それって何かのこだわりがあって?

これぞ、手書きの玉稿なるぞ!

いや、僕の場合、単にパソコンブームに乗り遅れただけなんですけど。もうね、ハイテクはFAXくらいで止まっていいんじゃないかと思うんです。大体ね、パソコンで書いてたらデータが飛んじゃった! なんて皆、大騒ぎしてるでしょ? 原稿用紙はいいですよ、飛ぶのは風で飛んでっちゃうときくらいだもの。

── でも、使ってらっしゃる原稿用紙は、これまたコクヨ製。ここにはこだわりがありそうですが。

そう、この400字詰めじゃないとダメなの。ケ-10って言うんですね。スクラップはラ-40、原稿用紙はケ-10、これに限る。

── それはまた、どうして?

紙が違うんですよね、他とは。梅雨時とか湿度の高い日って紙がヘナヘナしちゃって、シャーペンで書いてると破れたりするんですよ。その点、コクヨはなんともない。消しゴムで5回くらい消しても、また平気で書けるし。多分、湿気に強い良い紙を使ってるんじゃないかなあ。昨日も書いてたんですけど、こんな蒸し蒸しする季節でも快適に書けちゃう。

紙が違うんですよ、紙が

── ホントだ、色んな出版社宛の手書き原稿がたくさん残ってる。

あのね、僕は締め切りが1日早いんですよ。編集者が全部、パソコンで打ち直すもんだから。若い編集者の中には「わざわざ手書きで下さって、ありがとうございます!」なんて感激してくれるのもいますけどね。

── これをFAXで送るわけですね。

そう。でも一度、FAX間違いでアダルト雑誌の原稿をオシャレ編集部に送っちゃいましてね。「あの~、発注した覚えがないのですが」なんて丁重な連絡が来たりして。

── 手書きで原稿用紙に向かうってことは、傍らには国語辞典や辞書を用意して?

いや、そこはスマホで。

── あ、そこはスマホなんだ…。

僕、実は携帯でメール打つの、超速いんですよ。かつてキャバクラのお姉ちゃんとやりとりしてたもんだから(笑)。

原稿用紙は和綴じのためにある

── それにしても、読みやすい文字だなあ。昔、手書き原稿が当たり前だった時代には、クセ字の先生たちの原稿を読み解く、専門の担当編集者がいたもんです。

僕、基本的にはイラストレーターですから。イラストに付ける文字って、読みやすくないとダメでしょ? まあ、子供の頃から変わらない丸文字系なんですけどね。子供の頃って言えば、僕、この原稿用紙で和綴じの本、作ってたなあ。

── 和綴じ、ですか?

これら和綴じの作品集が…

うん、ちょっと持ってきましょうか?

── わ、これもたくさん有る! 表紙も付いてるんですねえ。

そう。元々、この原稿用紙って和綴じにするためにあるんですからね。それでほら、中の原稿は、行替えとか原稿用紙の中の文字の並び方に気を配って作ってるんです。だって文字の配列もデザインじゃないですか。

── 同感です。

この本となったわけです

ね? これも編集長、イラストレーター、デザイナー、そして読者と、全部ひとりでやってる。これ、後に本になったんです。ほらね。(『十五歳』TBSサービス)

── ここにも編集者気質が溢れてるなあ。

今じゃ、こういう仕事も分業化が進んじゃいましたからねえ。ホントは全部自分でやるのが面白いんだけど。

── それも、やっぱり手書きでやるに限ると。

やったあ!ダブルネームだあ! と喜ぶの図

それにコクヨのケ-10に限ると。昔はいろんな編集部で原稿用紙貰って帰ってたんだけど、どうもしっくり来ない。相性があるんですかねえ。それにね、新品買って来てビニール破るときの、あのちょっと静電気を感じる瞬間。あれがもう、たまらない。

── う~む、こうなったらいっそ、みうらさんの名前入りの原稿用紙作りましょうか?

ホントですかぁ! 原稿用紙とスクラップブック、コクヨとダブルネームで出たら、めちゃ嬉しいなあ! だって僕、コクヨ派ですもん!

2013年7月26日

みうらじゅん

イラストレーターなど

1958年2月1日京都府生まれ血液型AB型
1980年「月刊漫画ガロ」でデビュー
1982年ちばてつや賞受賞
1997年「マイブーム」で新語・流行語大賞受賞
2005年日本映画批評家大賞功労賞受賞