「NEW STORY」デザイン
トークショー

2017年テーマ「NEW STORY」について
あなたが考える、新しい物語とは。

7月26日に東京・千駄ヶ谷のライフスタイル ショップ&カフェ「THINK OF THINGS(シンク オブ シングス)」で開催されたトークセッションでは、コクヨデザインアワード審査員であるKIGI(植原亮輔さん、渡邉良重さん)、雑誌「エル・デコ」のブランドディレクター、木田隆子さんが今年のテーマ「NEW STORY」についてヒントやアドバイスを語ってくださいました。

〈パネリスト〉
植原亮輔氏(KIGI代表/アートディレクター・クリエイティブディレクター)
渡邉良重氏(KIGI/アートディレクター・デザイナー)
木田隆子氏(雑誌「エル・デコ」ブランドディレクター)
黒田英邦(コクヨ株式会社 代表取締役社長執行役員)

テーマ「NEW STORY」について

木田隆子氏(雑誌「エル・デコ」ブランドディレクター):コクヨデザインアワードは、私自身とても注目しているアワードです。アワードの方向性というのは、未来のビジョンを伝えていくか、今起きていることをトレースするだけか、そのいずれかだと思うのですが、コクヨデザインアワードは前者のタイプだと感じています。

さて、15回目となる今年のテーマは「NEW STORY」です。モノがあふれ、誰もがすでにたくさんの“良いデザイン”を持っている時代。そんな時代にどのようなデザインが本当に人々の心に響くのか、今回はそれを真剣に考える機会になるような気がしています。黒田さん、テーマの意図を教えてもらえますか。

黒田英邦(コクヨ株式会社 代表取締役社長執行役員):この15年を振り返ってみると、2002年の「ユニバーサルデザイン」からはじまり、実にさまざまなテーマに取り組んできました。

アワードが生んだヒット商品「カドケシ」に代表されるように、以前は利便性や効率性の向上など、どちらかといえば「機能価値」を中心に評価する傾向にありました。しかし2015年からは意図的にテーマを変化させ、機能価値に加えて「経験価値」を訴求しています。世の中の流れがそうですし、コクヨとしてもアワードを通じて経験価値についてのアイデアやヒントを求めているからです。もちろん応募者の方にはプロダクトをご提案いただくわけですが、今回の「NEW STORY」では、モノ単体というよりはそれにまつわるストーリーをぜひプレゼンテーションしていただきたいと思っています。

2015年の優秀賞「エンボスノート」「儚く、美しく」が聴講席に回された。

木田:テーマがどんどん進化して、今は「何が経験できるのか」が大事になっているというわけですね。KIGIはテーマに関してどうお考えでしょうか。

植原亮輔氏(KIGI代表/アートディレクター・クリエイティブディレクター):情報もモノも飽和していますよね。審査員の会議では、つくる側もアイテムありきではなく、新しい文脈をつくるくらいの気持ちで開発することが大切ではないか、という話になりました。

これは僕の考えなんですが、デザインには多かれ少なかれストーリーがついてくるものです。さらに言えば、お客さんが商品を手にとる「ビフォー(BEFORE)」と「アフター(AFTER)」にもそれぞれストーリーがある。

ビフォーは、制作過程におけるストーリーのことです。商品を観察すれば、作り手がどのように考えたのかわかるようなもの。あるいは制作秘話を語ることで「なるほど」と思わせたり、社会的意義を持って生まれてくるような商品ですね。アフターは、ユーザーが使う時に生まれるストーリー。ユーザーが参加することでデザインが変化したり、デザインがプロジェクトとして進化・成長していくようなものです。
それから数は少ないですが、ストーリーがはじめから仕込んであるような「ナウ(NOW)」のデザインもあると思います。絵本や映像を使った商品や、デザイナーが思い描くストーリーや仕掛けにユーザーを誘導させるものもあると思います。

ストーリーのあるデザインとは

木田:一つ一つのデザインのなかにストーリーは含まれているわけで、それがどこで立ち現れるのか。あるいは作り手がどのタイミングでストーリーを仕込んでいくのでしょうか。具体的な例はありますか。

渡邉良重氏(KIGI/アートディレクター・デザイナー):これはFRONTというスウェーデンのデザインチームが、南アフリカの伝統的なビーズ細工を手がける20名の女性グループとコラボレートして創り出したガラスの花器シリーズ「Story Vase」です。読み書きの教育を受けていない南アフリカの女性たちが、自分たちの家族や夢のことを語り、それを英文にしてビーズ細工をし、その後スウェーデンのガラス職人の手により手吹きのガラスが作られた。見た目にもプロセスにもストーリーを感じる作品です。

これは廃棄ペットボトルを裂いてつくった照明「PET Lamp」。スペイン人デザイナーのアルヴァロ・カタラン・デ・ オコンさんが南米を旅行し、コロンビアのアマゾンを汚染しているプラスチック廃棄物に関心を持っていた活動家たちによるプロジェクトに参加しました。そして大量に捨てられているペットボトルを用いて、現地の2つの民族と一緒に照明をつくりました。ペットボトルとヤシ繊維、ウール、コットンなどを一緒に編み込んであり、見た目もストーリーも素敵。もともとある工芸を活かしながら経済的に持続できるすばらしいプロダクトです。

木田:こうした事例を見ると、大きな課題に向き合った時にクリエイターは何をするべきなのかということを考えさせられますね。

植原:僕たちのプロジェクトで、滋賀県の信楽焼の職人さんと一緒に立ち上げた「KIKOF(キコフ)」というプロダクトブランドなのですが、これはブランドの主軸となる陶器です。“紙のように薄い“を目指しました。「琵琶湖は日本の大きな器」というコンセプトを立てて、ロクロを使わずにキギらしく紙で作った形をもとにして成型するという方法を提案しました。職人さんは初めて型でつくるということでかなり試行錯誤したようですが、最終的に鋳込み成型という方法で実現することができました。

渡邉:なかには「あれは信楽焼じゃない」という意見もあるそうです。でもKIKOFを作ってくれている窯元の方は「これを続けていけば10年先20年先に信楽でも当たり前の技術になるかもしれない。やったことがないけれど、信楽全体のことも考えて挑戦してみよう」と希望を見出してくれる。そういう意欲的な職人さんたちと取り組める、とても幸せな仕事なんです。

今年のミラノサローネからのヒント

木田:私からは、今年のミラノサローネからストーリーの感じられる作品をいくつかご紹介しましょう。

まず、フォルマファンタズマという若手のデザインスタジオは、モビールのような照明のシリーズを展示していました。彼らは「光とは何か?」をとても深くリサーチし、レンズの研究にも取り組みました。 何かデザインする時にも、モノそのものではなく、そこから派生する要素について考えてみるとヒントが見つかるかもしれません。

京都の若手職人から成るユニットGO ON(ゴオン)とパナソニックが、伝統工芸と最先端テクノロジーを組み合わせた家電を発表していて、これが大変好評でした。竹細工とLEDなど、今まで出会わなかったものを頭のなかで掛け合わせてみると、新しいストーリーが見いだせるかもしれません。

柳原照弘さんとショルテン&バーイングスが総合ディレクターを務める有田焼ブランド「2016/」が「エル・デコ インターナショナル デザイン アワード 2017」のテーブルウェア部門で受賞しました。有田はすばらしい産地ですが、生産量が減って立ち行かなくなった窯元も多くあります。そうしたなかで、海外で売れるもの、若い人の食卓にも使われるようなものを開発しているのがこのプロジェクト。世界中から16組のデザイナーが集まって有田焼について学びながら、ときには過去の色や模様を用いて再構築し、ときには土の開発まで行うなど、職人とコミュニケーションしながらモノが生まれてくるところにストーリーがあると感じます。

柳原照弘さんとオランダのショルテン&バーイングスによる「2016/」

ストーリーを伝える場としてのショップ

木田:新しいストーリーをつくることも大切ですが、今の時代は使い手とモノが出会うシーンも考えないといけませんね。今、皆さんがいらっしゃるこの「THINK OF THINGS」もそうした配慮を含んで生まれた場所だと聞いていますが。

黒田:ライフスタイルやワークスタイルがどんどん変化していくなかで、改めてモノやコトについて考える場所にしたいと「THINK OF THINGS」をつくりました。ここでは、コクヨが新しいモノやコトをつくってお客様に直接問いかけ、それに対する反応から時代のニーズを汲み上げていこうというねらいもあります。

1階はショップとカフェ、2階はイベントスペースとプロジェクトルーム、3階はオフィスになっている。

そうした目的を実現するためにオリジナル商品をつくったり、インテリアやカフェのメニューを決めています。2万点を超える過去のコクヨ製品からリ・デザインしたプロダクトもありますし、自分たちで建物やインテリアの設計も手がけています。

木田:ショップ内にはコクヨデザインアワードコーナーがあって、商品化された受賞作も置いてありますね。

黒田:多くの方々に商品化されたアイテムを手に取ってもらい、様ざまな反応をいただくことができます。もちろんモノをつくる時にもストーリーを込めますが、それをどう伝えてどう感じてもらうかまでをデザインすることが大切だと実感しています。

過去受賞作「本当の定規」(2014年優秀賞)は今や売り切れ必至の人気アイテムに。

木田:商品の世界観を見せられるのも利点ですよね。KIGIもこうした取り組みをしているのですか。

植原:2年前に白金にギャラリー・ショップ「OUR FAVOURITE SHOP」をオープンしました。商品というものは、それだけでは成立しないと考えていて。その隣に何が置いてあるか、どんな売り方しているかによって見え方が全く変わってくると思うんです。僕らとしてはプロダクトをつくるだけでなくきちんとプレゼンテーションもしたい。そのため以前からそれができる空間をつくりたいという願望がありました。

普段、グラフィックデザインの仕事では商品を応援するためのビジュアルをつくっているわけですが、商品が良いから売れるのか、広告が良いから売れるのかわからないことがあります。お店なら商品が売れていく状況がわかるので、ちょっとだけお客さんに近づける気がしますね。

お店をやるということは、まちの商店街に入るということ。グラフィックの世界と違って、商店街では”新入り”ですから本気で怒られるし、逆らえない(笑)。でもそうしたリアルな体験は新しい発見にもつながるので、ずっと続けていきたいと思っています。

ギャラリーでは「沖縄料理と落語」「ひなまつり」といったテーマのイベントや、塗り絵のワークショップなどを行う

応募者へのメッセージとアドバイス

木田:最後に、応募者へのメッセージをお願いします。

黒田:今回のテーマは考え込むというよりは、皆さんにとっての「NEW STORY」が何かを教えてほしいんです。私たちに答えがあるわけではなく、また何が良い悪いでもなく、純粋に皆さんが何を考えたのか、ということに注目したいです。楽しみにしています。

植原:もしも考えに詰まった時は、考える方法を考えるという風にしたらどうでしょうか。いつも机に座っている人は、歩きながらとか、誰かと喋ったり、偶然性を取り入れながら考えてみるとか。考える方法を変えることによって、ヒントが降りてくることがあるんですよ。

渡邉:私もアイデアに困った時はまず植原やチームメンバーに話してみますね。そこで何か一言発してもらうと、うまくキャッチボールできたりするんです。特に今回のテーマは、誰かと一緒に考えたり、グループでやってみることもおすすめしたいです。

木田:新しいことを考える時に、自分のなかで生まれたちょっとした違和感からスタートするのも面白いかもしれませんね。本日はありがとうございました。

コクヨデザインアワード締め切り
8月31日(木)正午12:00まで