コクヨデザインアワード2017 
最終審査レポート

15回の節目を迎えたコクヨデザインアワード
グランプリは新ジャンルへの飛躍を提案した「食べようぐ」

2018 年1月18日、コクヨデザインアワード2017の最終審査が青山スパイラルで行われました。応募総数1,326点(国内:880点、海外:446点)のなかから1次審査を通過したファイナリスト10組が審査員の前でプレゼンテーションを行い、その後の審議でグランプリ1点、優秀賞3点が決定しました。

今回のテーマは「NEW STORY」。そのねらいについて、コクヨ 代表取締役社長 執行役員の黒田英邦は次のように説明します。「コクヨデザインアワードは15回の節目を迎え、コクヨ自体もこれから変わっていきたいと考えています。単に機能や便利さだけなく、人々の感性にも訴えかけるような、また新しいジャンルを掘り起こすような提案を求めました」。

この問いかけに対し、今回は例年以上にバラエティ豊かな作品がたくさん集まりました。海外からの応募も増え、そのうち台湾とスペインからの2組がファイナリストに選ばれました。

テーマ「NEW STORY」に合わせてデザインされたトロフィー。新しい世界へと通じる扉に鍵を差し込む瞬間をアクリルで造形した。

ステーショナリー化する「おやつ」

最終審査では、各ファイナリストによる5分間のプレゼンテーションの後、審査員とのあいだで質疑応答が行われました。今年は新たな審査員として佐藤オオキさん(nendo代表、デザイナー)と川村真司さん(PARTY NY代表、エグゼクティブクリエイティブディレクター)が加わり、コンセプトやアイデアの新しさ、デザインや造形の完成度、商品化の可能性、そして「NEW STORY」というテーマに対してどのように答えているか、といった視点で審査を進めていきました。

その結果、多数の票を得た「食べようぐ」(にょっき/柿木大輔さん、三谷 悠さん、八幡佑希さん)がグランプリに選ばれました。これは、オフィスにおける「おやつ」の価値を問い直し、ステーショナリーやオフィス用品と同じように、よりよく働くための「用具」としてとらえた作品です。

にょっきの3人は次のように意図を説明します。「海外では会議中でも自由に飲食する文化があります。でも日本では、オフィスでのおやつはそこまでポジティブなイメージではありません。私たちは、オフィスにおけるおやつの価値を変え、適切な居場所を与えることによって、オフィスに新しい風を吹き込みたいと考えました」。

最終審査でプレゼンするにょっきの3人。楽しい映像と明快な語り口でわかりやすくコンセプトを説明した。

たとえば何かを書く時にはペン、切りたい時にはハサミなどの文房具を使いわけるように、疲れた時には糖分、目を覚ましたい時にはカフェインなど、目的に合わせた栄養を手軽にとる方法を模索しました。3種類のおやつはすべて一口サイズで、形状は成分とそのイメージによって異なります。さらにそれをオフィスの壁に貼りつけるなど提供の仕方までデザインしました。プレゼンテーション中に実際に食べられるサンプルが配られ、審査員は当アワード史上初めて「味の評価」にも挑戦しました。

にょっきは「食べようぐ」の提供の仕方まで提案した。オフィスの壁に貼り付けて、コミュニケーションにも一役買う。

プレゼン後の講評では、「食べ物がステーショナリー化するおもしろさ」「働き方が変わるという発想はコクヨのアワードにふさわしい」「新ジャンルを開拓する提案」といった積極的な意見が相次ぐ一方、「機能性食品は既にたくさんある。商品化しても売れるのか」「さすがに飛躍しすぎでは」と心配する声も聞かれました。

確かに、コクヨにとって、食品は新しいジャンルです。「受賞作の商品化」を特長に掲げているコクヨデザインアワードとしても、この作品をグランプリに選ぶことは大きなチャレンジとなります。しかし近年、オフィスのあり方や働き方が大きく見直されるなか、「食から働き方を考える」という意外性のある着眼点や、仕事の合間に手軽にとれる「使用シーンまでよく考えられている」といったリアリティに対する評価が、グランプリ決定を後押ししました。

各審査員の講評

「既存のジャンルにとらわれず、むしろミックスされていることがおもしろく、そういうところから新しい物語が生まれるような気がします。NEW STORYというテーマにぴったりだったのではないでしょうか」(植原亮輔さん/KIGI代表、アートディレクター・クリエイティブディレクター)

「ステーショナリーの基本的な考え方があった上でのアイデアのジャンプがよかった。文房具か食べ物かわからない、領域のあいまいなものが生まれる時代の流れにも合っていると思います」(川村真司さん/PARTY NY代表、エグゼクティブクリエイティブディレクター)

「1次審査から最終審査にかけて、大きく印象の変わった作品です。快適に働くためのものと考えれば、食べ物だって立派なステーショナリーと呼べる。タブーのようで実は王道なのかもしれません」(佐藤オオキさん/nendo代表、デザイナー)

「実際に食べたらおいしかった。口に入れること自体が、魔力を持っているように感じました。文房具がものを動かすツールだとしたら、この作品は人を動かすツールとしての存在感がありました」(鈴木康広さん/アーティスト)

「あまり考えたことのないジャンルがいいなと思って選びました。商品化の際には成分や材料にこだわって、健康によいものをつくってくれたら個人的にも利用したいです」(渡邉良重さん/KIGI、アートディレクター・デザイナー)

「1次審査の時からおもしろい作品だと思っていました。働く人を動かす、というのはコクヨがずっと取り組んでいること。対象が食べ物になるだけで実は"ど真ん中”の提案なのです」(黒田英邦/コクヨ 代表取締役社長 執行役員)

受賞者のコメント

授賞式でにょっきの3人は次のように受賞の喜びを語りました。その後のトークイベントでは、最終審査で披露したプレゼンテーションを再現し、会場から大きな拍手が送られました。

トークショーでは、グランプリを受賞したにょっきが最終審査のプレゼンを再現した。

「食べ物を扱うこと自体、タブーではないかと心配でした。評価はゼロか百のどちらかだろうと思いましたが、アイデアを信じて突き進みました」(柿木さん)

「コクヨデザインアワードに参加するのはこれで4回目。毎年少しずつ成長できたと思います。3月に大学院を卒業するので、最後にみんなで受賞できてよかったです」(八幡さん)

「客観的に見て本当に実現できるのか、これがあることでどんな働き方になるのかと悩みながら進めていきました。それが伝わって嬉しいです」(三谷さん)